『Here We Are』とは
2023年にオフ・ブロードウェイで初演されたミュージカル。
ルイス・ブニュエル監督作の映画『皆殺しの天使(1962)』と『ブルジョワジーの秘かな愉しみ(1972)』を基にしている。
作詞・作曲は2021年11月に逝去したStephen Sondheim。彼が発表した最後のミュージカルとなった。
脚本はDavid Ives。
演出はJoe Mantello。
あらすじ
どこからともなく現れた謎の男と女が舞台を掃除する。
ある土曜日、大富豪のLeoと同じく優雅な身分のMarianneの自宅に、突然4人の訪問者が現れる。
その4人は、形成外科医のPaulと彼の妻Claudia、女ったらしのRaffael、そしてMarianneの妹でいつも不機嫌なFritz。
彼らはLeoとMarianneからブランチに招待されたと言い張るが、Leoらにその覚えはない。
しかし、せっかくなのでみんなでブランチに出かけることになる。
ClaudiaはPaulに隠れて不倫していたり、PaulとLeoは麻薬の密売をしていたり、Fritzはクスリをしたりと、皆何かしらやましいところがある様子。
一行の訪ねる先々で、冒頭で登場した謎の男と女がカツラなどで変装して現れる。
途中で、大佐や兵士、司教が加わり、ついに食事の席につく。
豪華な食事を貪る面々だが、食べ終わった後も食事会はなかなか終わりを迎えない。
キャスト
Colonel Martin Francois Baattiste
Woman Travcie Bennett
Leo Brink Bobby Cannavale
Fritz Micaela Diamond 『Parade』
Claudia Bursik-Zimmer Amber Gray 『Hadestown』
Soldier Jin Ha
Marianne Brink Rachel Bay Jones
Man Denis O'Hare
Raffael Santello Di Santicci Steven Pasquale
Bishop David Hyde Pearce
Paul Zimmer Jeremy Shamos
感想
今回の遠征で最も楽しみにしていたのが、ソンドハイムの最後のミュージカル『Here We Are』です。元々『Square One』と命名されていたこの作品は名前を変え、ソンドハイムの死後、一緒に製作していたDavid Ivesらによって仕上げられましたが、音楽は全てソンドハイムによるものです。
率直な感想としては「いやぁ、とんでもないものを目撃してしまったな」という感じで、どこから話していいものか迷いますが、記録に残しておこうと思います。
▼テレビでの特集
これまでソンドハイム作品は、国内外のプロダクションで『Sunday in the Park with George』『Follies』『A Little Night Music』『Pacific Overture』『Into the Woods』『Merrily We Roll Along』『Sweeney Todd』、映像で『Company』『Passion』を観てきましたが、これらとは全く性質が違う、実験的な色合いの濃い作品でした。そのため、巷には様々な感想が飛び交っていますが、個人的には、、、内容が想像を遥かに超えていてものすごく楽しかったです!!!!!(褒めています。)
まず、登場人物が全員、変人。例えば、愛犬のクローンを作ったという浮世離れした世間話をするような人々です。誰かまともなキャラクターが出てきて話をまとめてくれるに違いないと信じて待っていたのですが、どの人も現実では近づきたくないような方々ばかり(笑)。そんな鼻持ちならない連中を豪華なキャストが全力で演じているのを目の当たりにしただけで、個人的には大満足でした。
原作映画に照らし合わせると、第一幕が『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』、第二幕が『皆殺しの天使』を主に基にしているようです。
▼開演前
今回は最前列センターで観劇しました。
「コ」の字型をした舞台で、演者は後方や客席から登場するスタイル。
白い壁に囲まれた殺風景なセットで幕を開けます。冒頭で謎の男女が使っている掃除機は年代物のようですが、舞台セットからはどこか近未来的な印象を受けます。
その後もこれといった舞台装置も登場せず物語が進み、このままで終わるのかなと思っていると、第一幕の終盤、威勢のいい音とともに舞台後方からブランチの食卓の手の込んだセットが印象的に登場します。この食卓が黒地の背景とともに登場するので、美術館の油絵を観ているかのような錯覚に陥りました。
第二幕になると、人々は食事に満足するのですが、帰ることができない状態になり、熊が出てきたり、兵士とFritzが恋に落ちたり…
音楽について。特に第一幕ではナンバー間が連続していたり、instrumentalが長かったり、ミュージカルとしては非典型的でお話と同じく捉えどころがない印象を受けました。1度聴いただけではソンドハイムのウィットに富んでいるであろう歌詞を理解することは難しかったので、original cast recordingを待ちたいと思います。
登場人物はいずれもアクが強かったのですが、キャストの中で1番化けていたのはMicaelaかなと思いました。語弊を恐れずに書けば能天気で陽気な姉Marianneとは対照的に、理屈っぽくて陰気、カーキのショートパンツでどことなくボーイスカウト風のFritzは作中で変貌を遂げます。私は同じ年に演じていた『Parade』のLucille役で彼女を初めて観て心を奪われたのですが、それとはかけ離れた役柄で、彼女の新たな一面を見ることができてよかったです。
原作があるとはいえ、よくもこれほど個性豊かなキャラクターと笑いを交えたストーリーを作り上げたものだと脚本家にも感服。
まもなくこのオフ・ブロードウェイのキャストによるレコーディングが発売になる予定とのことですが、願わくばオンでもう1度観たいものです。