『See What I Wanna See』とは
2005年にオフ・ブロードウェイのPublic Theaterで初演されたミュージカル。
原作は芥川龍之介 による短編小説『竜』『藪の中』『袈裟と盛遠 』。
作詞・作曲・脚本はMichael John LaChiusa。
今回は2024年にオフ・ブロードウェイのOut of the Box Theatricsで上演されたプロダクションを観劇した。
全ての役がアジア系の俳優によって演じられ、歌詞の一部がキャストとして出演しているMarina Kondoによって日本語に訳された。
演出はEmilio Ramos。
あらすじ
最初の舞台は昔*1 の日本。
Kesaは夫のMoritoを殺そうとしている。
KesaはMoritoとの性交中に着物から短刀を取り出し、彼を刺すところで暗転し、結末は明かされない。
続いて、舞台は変わり、1951年のニューヨーク。
殺人事件が起こった公園で、事件を目撃した掃除人が、犯人はナイフを持っていたことを仄めかす。
また、盗人は自分がやったと自白し、初めてリリーと出会った時のことを語りだす。
盗人はリリーと相思相愛だと語り、リリーの夫ルイが邪魔になった盗人は、ルイを騙して公園に連れ出し、ルイを縛り上げ、リリーを犯した。盗人にルイは殺されたが、リリーは逃げ出した。
リリーの供述では、強姦されたことに激怒したルイがともに心中するようリリーに迫り、それを拒絶したリリーが誤って、ルイの差し出した短刀をルイに刺してしまう、というもの。
その後、霊となったルイが登場し、紆余曲折の末、切腹 したことを明かす。
キャスト
Kesa / The Wife / An Actress Marina Kondo
The Husband / A CPA Kelvin Moon Loh
The Janitor / A Priest Zachary Noah Piser
The Medium / Aunt Monica Ann Sanders
Morito / The Thief / A Reporter Sam Simahk
感想
芥川龍之介 の短編小説が原作の舞台ミュージカルということで、以前から名前だけ知っていたこの作品を、ついに観ることができました。
個人的には、LaChiusa作品を観るのは去年2023年の『The Garden of Anuncia』に続いて2作目。
2005年にオフ・ブロードウェイで初演された時はIdina Menzelがリリー役でした。今回のプロダクションは全ての役をアジア系にルーツを持つ役者が演じるということでも話題になりました。
▼開演前
▼Ann Sandersが歌う「There Will Be a Miracle」
VIDEO youtu.be
上演された場所はグリニッジ ・ヴィレッジのビルの地下にある小さな劇場。こちらの劇場は2023年に以前あった場所から移転したばかりのようです。
観劇した率直な感想は「非常に難解だった」ということ。芥川龍之介 なら学生時代に『河童』も『蜘蛛の糸 』も『羅生門 』も読んだことがあるから容易に理解できるだろう、と鷹を括って全く予習をしていかなかった自分がよくないのですが。
モチーフとされた3作品は時に重なり合いながら、時代や空間を超えて物語が展開していくため(+時差ボケもあったため)、そのplotを追っていくだけでなかなか大変でした。願いが叶うなら、もう一度、万全の健康状態で見直したいです。
興味深いと思ったのは、日本の文楽 や浄瑠璃 を思わせる人形使い がいたり、インドネシア のワヤン・クリと思われる影絵を使った技法が採られていたりしたこと。このようなアジア的な舞台技法は、物語の舞台が日本やニューヨークと飛躍する中、日本が舞台となっているシーンで多用されていました。
また、日本が舞台のシーンでは、歌詞が和訳されていた部分もありました。この和訳はキャストとして出演もしていたMarina Kondoが手掛けました。私の記憶が正しければ和訳のパートを歌っていたのは彼女だけでした。彼女はオランダ生まれで両親が日本出身ということで日本にルーツを持つ役者さんで、『KPOP』のOBC や『Company』ツアーキャストとしても知られています。日本以外の場面ではもちろん英語で歌唱していました。
▼Marina Kondoへのインタビュー
VIDEO www.youtube.com
文楽 的な人形以外は小道具はほとんどなく、シンプルな舞台デザイン。
原作や作品背景を反映したキャスティングをすべきだという意識がさらに強くなっているエンターテイメント業界ですが、演劇業界は特にアジア系俳優の出演は限定的なことが多かったので、今回のように原作に基づいた配役や舞台装置、訳詞は良かったと感じました。