ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Teeth』2024.2.23.19:30 @Playwrights Horizons Mainstage Theater

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『Teeth』とは

2024年オフ・ブロードウェイで初演されたミュージカル。

原作は2004年の同名映画(邦題『女性鬼』)。

作曲はAnna K. Jacobs、作詞はMichael R. Jackson、脚本はAnna K. JacobsとMichael R. Jacksonの共作。

2009年にプロジェクトが発足し、15年の歳月を経て今回のオフ・ブロードウェイでの初演

演出はSarah Benson。

あらすじ

Dawnは敬虔なクリスチャンで結婚するまで貞節を守ると誓い、義父が神父を務める教会に通っている。

ある日、友人のTobeyにレイプされたDawnは、突然Tobeyの叫び声を聞き、足元が血まみれになっていることに気づき、自身がヴァギナ・デンタータを持っていることを知る。

Tobeyの受けた傷害事件の犯人探しが始まるが、Dawnに全てを打ち明けられたゲイの友人であるRyanは、彼女の無実を証明するために自ら関係を持つことを提案する。

Ryanにも同じことをしてしまうかもしれないと心配するDawnだったが、レイプでなければ問題ないのではないかと考え、彼の案に乗ることにする。

無事に行為を終えるものの、その一部始終をネットでライヴ配信していたことを知ったDawnは怒り、その瞬間にRyanにもTobeyと同じ悲劇に見舞われる。

キャスト

Dawn O'Keefe    Alyse Alan Louis

Pastor/Godfather/Truthseeker/Dr. Godfrey    Steven Pasquale

Brad    Will Connoly

Tobey/Truthseeker    Jason Gotay

Ryan/Truthseeker    Jared Loftin

Promise Keeper Girl Becky    Courtney Bassett

Promise Keeper Girl Fiona    Phoenix Best

Promise Keeper Girl Trisha    Jenna Rose Husli

Promise Keeper Girl Rachael    Lexi Rhoades

Promise Keeper Girl Stephanie    Wren Rivera

Promise Keeper Girl Keke    Helen J Shen

感想

オフ・ブロードウェイのPlaywrights Horizonsで上演されている新作ミュージカル『Teeth』を観ました。2000年代の同名のB級映画を基にした作品ですが、映画『プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)』を彷彿とさせる内容。これは、この数年ブロードウェイで立て続けにテーマとされているウーマン・エンパワメントに繋がるものですが、15年前の2009年にはプロジェクトが発足していました。元々はMichael R. Jacksonが発案し、女性の視点が必要と考え、Anna K. Jacobsとの共作となりました。

▼footage


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▼開演前

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この作品のテーマは大きく2つあります。1つは性的暴力を受けた女性のリベンジ、もう 1つはキリスト教で教えている貞操観念への疑問。

主人公のDawnとともに教会に集っているPromise Keeper Girls(彼女たちがPKGと書かれたジャケットを着ているのがもう面白い)ですが、Promise Keeperとは実在するキリスト教団体で、婚前交渉や妊娠中絶、同性愛、ポルノ、フェミニズムなどを否定している宗派の人々です。この辺りのキリスト教の教義に対する疑問や皮肉といったものは、Michael R. Jacksonの手がけた『A Strange Loop』にも通じるものだと感じました。

ヴァギナ・デンタータが活躍するシーンでは当然、爆笑が巻き起こるわけですが、想像以上に生々しくてギョッとしてしまいました。ヴァギナ・デンタータによって切り取られたイチモツはシリコン製で見た目の質感が妙にリアルで(プルプルしている)、流血も凄まじかったです。(最前列で観るもんじゃなかったです。)確実にR18の舞台でした。

▼タイトルナンバー


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Stephen Pasqualeは神父であるDawnの義父と彼女を受け持つ産婦人科医の2役を好演。

Dawnの義理の兄であるBradを演じるWill Connolyは、『Be More Chill』のオフ・ブロードウェイ公演でJamieを演じていました。今回はバーチャル・リアリティを使って色々していました。(あえてぼかしておきます。)最近Apple社からVision Proが発売されたばかりなので、旬だなと思いました。

このようにバーチャル・リアリティであったり、動画サイトでの生配信であったり、2000年代にはなかったものが登場することから、原作映画の内容とは結構異なっているようです。

▼「Modest Is Hottest」


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途中、床から天井までの長さの2/3くらいまで上がる炎や大量のドライアイスの靄など、オフ・ブロードウェイとは思えないような舞台装置が敷かれていました。

『Jelly’s Last Jam』2024.2.22.19:30 @New York City Center Main Stage Ⅰ

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『Jelly's Last Jam』とは

1992年ブロードウェイで初演されたミュージカル。

「ジャズの創始者」と自称した音楽家ジェリー・ロール・モートンの人生を基にしている。

ジェリー・ロール・モートンの手がけた音楽に加えて、Luther Henderson作曲、Susan Birkenhead作詞の音楽も使われている。

脚本はGeorge C. Wolfe。

今回はシティ・センターによるEncore! seriesの一環で上演されたプロダクションを観劇した。

演出はRobert O'Hara。振付はEdgar Godineaux

あらすじ

ジェリー・ロール・モートンは死ぬ間際、これまでの人生を振り返っている。

そこに謎の男、Chimney Manが現れ、ジェリーの触れられたくない過去について詰問する。

ニューオーリンズの裕福なクレオールの家庭に育ったジェリーはクラシック音楽を学ばせようとする家族に反抗し、酒場に入り浸り、ブルースなどの黒人音楽を好み、そこでバディ・ボールデンらに出会ううちに、クラシック音楽よりも黒人音楽を志すようになる。

そのことを知った祖母は怒り、彼を勘当する。

家族に縁を切られたジェリーは黒人音楽を追求するため修行の旅に出る。

シカゴでのパフォーマンスが成功し、徐々に作曲家、音楽家としての名声を得て、「ジャズの創始者」と自称するようになる。

友人でトランペット奏者のジャックや、恋人のアニタと幸せな日々を送っていたが、それまで肌の色が薄いことで社会的に優遇されていたジェリーは、ニューヨークを訪れた時に初めて「黒人」として扱われたことに傷つき、自身の中にある人種差別の意識と向き合うことになるのだった。

黒人音楽、ジャズを志してきたにも関わらず、ジェリーはこれまでの特権階級にいるという意識を捨てられず、自身の「黒人性」を否定し続け、ついには親友や恋人まで彼から離れていってしまう。

キャスト

Jelly Roll Morton    Nicholas Christopher

Jack the Bear    John Clay Ⅲ

Young Jelly    Alaman Diadhiou

The Hunnies    Mamie Duncan-Gibbs, Stephanie Pope Lofgren, Allison M. Williams

Anita    Joaquina Kalukango

Miss Mamie    Tiffany Mann

Buddy Bolden    Okieriete Onaodowan

Chimney Man    Billy Porter

Gran Mimi    Leslie Uggams

感想

なかなか再演される機会の少ない名作ミュージカルをリバイバルする、シティ・センターのEncores!のシリーズ。今シーズンは記念すべき30周年ということで、通常1週間程度の公演期間が2週間と長めになっています。訪米した際に公演期間が被っていると必ず観ていますが、今回は『Jelly's Last Jam』でした。実在した音楽家ジェリー・ロール・モートンについての伝記ミュージカルで、彼の手がけた音楽も使われているためジュークボックス・ミュージカルの要素もある作品です。伝記ミュージカルなのだから、その人をヨイショする内容になっているのだろうと思いきや、逆にジェリー・ロール・モートンという人の隠したい闇の部分を暴いていくような内容になっていて大変驚きました。しかも、それが被差別側にある人種差別の意識、いわゆるカラリズムに関わっていて、30年以上前の作品ですが現代人の心にも響くテーマが扱われていたのが印象的でした。

▼trailer


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ジェリーは黒人と白人を祖先にもつ、いわゆる混血で、黒人の中では肌の色が薄く、そのことで地元のニューオーリンズでは社会的に優遇され、裕福な家柄だったようです。このあたりの感覚は日本人の自分には理解しづらいですが、同じ人種の中で色が薄い方が優位な立場を得られるというカラリズムが表れていると言えるのでしょうか。地元では良い扱いを受けていたのが、ニューヨークに行ったら「少しでも黒人の血が混じっていたら黒人」という一般認識なので、ジェリーは突然黒人として扱われてたいそう屈辱を受けるわけですね。そこで、ジェリーは「俺はお前らとは違う」と親友にNワードを言ってしまいます。

カラリズムは最近でも問題になっている概念で、ミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』においても指摘されていたのが記憶に新しいかと思います。

今回のプロダクションは、これまでのEncores!シリーズと比べて、オーケストラ(バンド?)がかなり後方に陣取り、中央から前方に広く動けるスペースが取られていて、よりダイナミックなダンスシークエンスを堪能することができました。やはりこの作品のオリジナル・ブロードウェイ・キャストがグレゴリー・ハインズにサヴィオン・グローバーというタップ界のレジェンドだけあり、タップの見せ場が盛りだくさんでした。

主演のNicholas Christopherは『Sweeney Todd』2023年再演でPirelli役を演じていますが、今回はタップを存分に披露しつつ、プライドがズタズタになってもがき苦しむジェリーを好演していました。

▼「The Whole World's Waitin' to Sing Your Song」


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また、女性陣のパワフルなボーカルも聴き応えがありました。ジェリーとのロマンスを繰り広げるアニタ役を演じた、トニー賞受賞者のJoaquina Kalukangoのほか、『Be More Chill』などのTiffany Mannなど。オリジナル・ブロードウェイ・キャストが当時と同じコーラスガールズ役を演じたのも熱かったです。

▼Joaquina KalukangoとNicholas Christopherによる「Last Chance Blues」


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Tiffany Mannによる「Michigan Water」


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ビリー・ポーターは謎の人物で、狂言回しで、且つ、今際の際のジェリーをじわじわと問い詰める検察官のような役柄でした。

現代でも響くテーマを扱っているというだけでなく、音楽、ダンスを含めて、短期公演で留めてはもったいないようなプロダクションでした。