ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Sweeney Todd』2023.6.21.20:00 @Lunt-Fontanne Theatre

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『Sweeney Todd』とは

1979年ブロードウェイ初演のミュージカル。

原作はChristopher Bondによる1970年の同名のプレイ。

作詞・作曲はStephen Sondheim、脚本はHugh Wheeler。初演時はトニー賞を8部門で受賞した。

今回は2023年に再演されたプロダクションを観劇した。

2023年再演版では25人の役者が採用され、26人のオーケストラが編成された。

振付はSteven Hoggett、演出はThomas Kail。

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あらすじ

1846年、ロンドンの港に流れ着いたスウィーニー・トッドという名の男がいた。

無実の罪でオーストラリアに流罪となった彼は脱獄し、水夫アンソニーの助けを借りて古巣に戻ってきたのだ。

かつて理髪店を営んでいたその場所を訪れると、ラヴェット夫人がパイ屋を開いていた。

スウィーニーが去った後、以前から彼の妻に目をつけていたターピン判事は彼女を奪い、妻は精神的なショックから毒を飲み、残された娘ジョアンナは判事に引き取られたと、ラヴェット夫人から聞かされたスウィーニーは怒り心頭に発し、判事への復讐を誓う。

スウィーニーと別れた後、アンソニーは窓辺で歌うジョアンナに一目惚れし、判事らに邪険に扱われながらもいつか彼女を迎えに行くと決意する。

同じ頃、ピレリというイタリア人のインチキな床屋が、トビアスという少年を売り子に使い、街頭で偽物のハゲ薬を販売していた。

スウィーニーはその薬が偽物であると公に言い渡し、ピレリと髭剃りの勝負をして勝利をおさめ、スウィーニーの名声は町中に広まる。

そこで、彼は判事と繋がりのある役人を彼の理髪店に招待する。

スウィーニーが役人の訪問を待っていると、ピレリがやってきてスウィーニーの正体を世間にバラすと脅し出し、彼はピレリの喉をカミソリで切り裂き亡き者とする。

その直後、役人から噂を聞きつけたターピン判事がやってくる。

判事の髭剃りをしながらスウィーニーがまさに手を下そうとしたその時、アンソニーがやってきてジョアンナと駆け落ちする話を持ち出し、ターピンは怒って帰ってしまう。

復讐の好機を逃したスウィーニーの怒りの矛先は全ての人間に向けられるようになり、ラヴェット夫人とともにある企みを実行に移す。

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キャスト

Sweeney Todd    Josh Groban

Mrs. Lovett    Annaleigh Ashford

Anthony Hope    Daniel Yearwood

Johanna Barker    Maria Bilbao

Judge Turpin    Jamie Jackson

Tobias Ragg    Nathan Salstone

Beadle Banford    John Rapson

The Beggar Woman    Mia Pinero

Adolfo Pirelli    Nicholas Christopher

Bird Seller    Jonathan Christopher

Passerby    Patricia Phillips

Jonas Fogg    Danny Rothman

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感想

2021年11月にスティーヴン・ソンドハイムが亡くなってから、『Company』『Into the Woods』と彼の作品が立て続けにブロードウェイで上演されてきましたが、ついに『Sweeney Todd』が18年ぶりにブロードウェイで再演される運びとなりました。

1979年のブロードウェイ初演時にはトニー賞での評価然り、この作品は名作として歴史に名前が刻まれましたが、それであっても興行的には赤字に終わりました。

その影響もあり、その後のプロダクションでは小規模な編成が多く、それでもショーとして十分成り立っていたので、地方公演でも多くがそのような編成になっていました。

今回のプロダクションは久しぶりに、オリジナル公演に近い大人数の編成でのオーケストラやアンサンブルでの上演ということで話題となりました。

個人的には初めて観る『Sweeney Todd』がこの編成だったことは幸運なことだと思っています。

▼teaser


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とにかくチケットの足が速く、当初観劇予定だった3月から待つこと3ヶ月、ようやく観劇することができました。オーケストラセンター2列目。$190+αと比較的低価格だったのは、舞台奥下方が見切れてしまうからだということに気づいたのは現地に着いてからでした。

▼観劇後の感想

▼開演前

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これまでの柔和なイメージは消え去り、ジョシュは復讐の鬼にすっかり化けていました。

全体の7〜8割が歌で占められているという点において、このミュージカルはオペラ的で、彼のバリトンはこのショーのナンバーにとてもよく合っていました。

ただ、彼の周りの役者たちもまた粒揃いで、このタイトルロールを圧倒するほどの存在感がありました。

特にラヴェット夫人を演じたアナレイ・アシュフォードは、台詞一つひとつに巧みに演技や表情をつけていて、観ているこちらは舌を巻きました。さすが、芸達者です。

▼アナレイ・アシュフォードの歌う「The Worst Pie in London」


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私が観た回は既にアンソニー役のジョーダン・フィッシャーは降板しており、その他の主要な役もアンダースタディが多かったのですがそれでも素晴らしかったです。ただ、できたら観てみたかったのは、まずトビアス役のGaten Matarazzo。Netflixシリーズ「ストレンジャー・シングス」ですっかりスターになった彼ですが、子役として『レ・ミゼラブル』などのブロードウェイの舞台に出演していたこともあります。また、ベガー・ウーマン役のRuthie Ann MilesとそのスタンバイのJeanna De Waal。『The King and I』でトニー賞を受賞し、今回本役でもノミネートされたRuthieはちょうどシティ・センターのEncores!シリーズの『Light in the Piazza』に出演中でした。そのスタンバイであるJeannaはあのミュージカル『Diana』のタイトルロールを演じた方ですが、残念ながら今回は観られませんでした。

というわけで理想のキャストではありませんでしたが、ジョシュとアナレイを観られただけで私は十分満たされました。

▼幕間

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おしなべて、リバイバル公演はオリジナル公演と徹頭徹尾同じということはなく、演出家が作品に別の意味づけをしたり、キャスティングを工夫したりすることで、その作品の新たな魅力や可能性を引き出すことが多いですが、今回の公演はそうではなく“原点回帰”と言えそうです。鉄骨で組んだセットや二階建て構造の店、ラヴェット夫人のお団子ヘアーも、オリジナル公演へのオマージュを感じます。別の言い方をすると、とても教科書通り、というか、この公演独自の演出ははっきりしなかったということです。『Hamilton』を手がけたThomas Kailであれば何かするのでは、と期待を増幅させていたというのは確かにありますが。

確かにスモッグが充満しているところで、奈落から忽然とスウィーニーが姿を現すのはびっくりしましたけれど。

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今回の公演の意義は、ソンドハイムの名作をフルスケールのオーケストラ+アンサンブルで堪能できるということに尽きるのではないかと思われます。この大人数の編成は想像しづらいと思いますが、2005年のブロードウェイリバイバルキャストによる音源と比較すると明らかです。特に「The Ballad of Sweeney Todd」。

▼2005年ブロードウェイでのリバイバル公演の冒頭曲

The Ballad of Sweeney Todd

The Ballad of Sweeney Todd

  • Sweeney Todd 2005 Broadway Revival Cast
  • ミュージカル
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

▼本公演の冒頭曲

The Ballad of Sweeney Todd (Opening) [2023 Broadway Cast Recording]

The Ballad of Sweeney Todd (Opening) [2023 Broadway Cast Recording]

  • スティーヴン・ソンドハイム, ジョシュ・グローバン, ジョーダン・フィッシャー, María, Bilbao, Nicholas Christopher, Gaten Matarazzo, John Rapson, Jamie Jackson, ラシー・アン・マイルズ & Sweeney Todd 2023 Broadway Company
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

こう比較して聴いてみると、特に中盤以降の盛り上がりで、トロンボーンやチューバなどの中低音域の金管楽器が不吉な予感を観客に与え、音楽がより重層的で深みのあるものになっているのがわかります。

この音楽に合わせた、素早く手足をくねらせたり、首を傾げたりといったSteven Hoggetによる独特な振付も、不気味な雰囲気を醸し出すのに役立っていました。

今後もこの作品は再演され続けると思いますが、ここまで大規模な編成のものをliveで全身で浴びることができる機会はそうないはずなので、やはりmust seeだと思います。

こうして様々な編成で上演可能なのは、脚本とソンドハイムの音楽が卓越しているからなのでしょう。

▼終演後

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CBSでの特集


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最後にステージドアでの思い出を貼っておきます。順にNathaneとJoshとAnnaleigh。

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