ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『New York, New York』2023.6.17.14:00 @St. James Theatre

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『New York, New York』とは

2023年ブロードウェイ初演のミュージカル。

1977年の同名映画がモチーフとなっている。

ジョン・カンダーと2004年に他界したフレッド・エブが手がけた音楽に、リン=マニュエル・ミランダが追加で作詞した。

本作で使用されている21曲のうち(少なくとも)13曲がこのミュージカルの制作以前に書かれたもの。

トニー賞では11部門ノミネートされ、1部門(舞台装置デザイン)で受賞した。

音楽に関してはノミネートされなかったが、ジョン・カンダーはこの年のトニー賞特別功労賞を受賞した。

演出・振付はスーザン・ストローマン。

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あらすじ

第二次世界大戦後の1946夏、多くのアーティストが夢を抱えてニューヨークの地を踏んだ。

その中にはフィラデルフィアから上京した歌手としてスターを目指すフランシーンの姿もあった。

時を同じくして、ニューヨークでサクソフォン奏者として活動するジミーも、音楽家として展望と新たな恋を求めていた。

最初は言いよるジミーを拒否していたフランシーンだったが、徐々に2人で音楽活動を始めるようになる。

退役軍人である南部出身のジェスはトランペット奏者として活躍したいと夢見ている。

キューバからやってきたドラマーのマテオは、父の暴力などで苦労している母ソフィアに親孝行したいと願っている。

ポーランドからのユダヤ系移民で、ヴァイオリン奏者として身を立てたいアレックスは、以前カーネギーホールで見かけたことのあるヴェルトリ夫人のもとを訪れ、教えを乞う。

ヴェルトリ夫人は戦争から戻らない息子を待ち焦がれており、英語もろくに話せずお金もないアレックスの申し出を渋々引き受け、ジュリアード音楽院への受験の手助けをする。

夢見る人々の挑戦と挫折、様々な人間ドラマが繰り広げられていく。

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キャスト

Jimmy Doyle    Colton Ryan

Francine Evans    Anna Uzele

Tommy Caggiano    Clyde Alves

Jesse Webb    John Clay Ⅲ

Sofia Diaz    Gabriella Enriquez

Gordon Kendrick    Jeff Williams

Alex Mann    Oliver Prose

Mateo Diaz    Angel Sigala

Madame Veltri    Emily Skinner

Chester/Electrician/Village Bar Manager/Restaurant Owner/Bass Player    Jim Borstelmann

Newlywed Husband    Stephen Hanna

Newlywed Wife    Ashley Blair Fitzgerald

Rusty O'Brien/Palladium Club Manager/Stage Manager    Ian Liberto

Cleaning Lady(Opera Singer)    Allison Blackwell

Luis Diaz    Leo Moctezuma

Max(Booker)/Ohio Patron    Kevin Ligon

Janice(Secretary)    Wendi Bergamini

Construction Worker #1/Radio Announcer    Richard Gatta

Josie    Dayna Marie Quincy

Singing Waiters "I'm What's Happening Now"    Giovanni Bona Ventura, Benjamin Rivera

Singers "Along Comes Love"    Wendi Bergamini, Giovanni Bona Ventura, Kristine Covillo

Barfly    Haley Fish

Artie Kirks(Agent)    Drew Redington

Radio Announcer(Chesterfield Hit Parade)    Giovanni Bona Ventura

Flute Player    Julian Ramos

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感想

『シカゴ』や『キャバレー』など多くのミュージカルを手がけた伝説的な作詞・作曲家コンビであるジョン・カンダーとフレッド・エッブによる、おそらく最後となるであろう舞台ミュージカルということで、観に行ってきました。

1977年の同名映画で描かれるアンハッピーな雰囲気や短気で暴力的な男性像がそのまま舞台化されるとは考えづらく、それらがどのように変更されたのかという点も気になっていました。

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▼trailer


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▼観劇後の感想

▼footage


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この舞台ミュージカル版では、映画版にあるようなジミーとフランシーンの2人のロマンスを主軸としつつ、ニューヨークに夢を持って上京してきたアーティストたちが数多く登場し、並列して複数のストーリーが進行していくスタイルとなっていました。

根っからのニューヨーカーであるジミーのような白人に加えて、南部出身のアフリカ系アメリカ人キューバからのヒスパニック系、中欧からのユダヤ系と、まさに「人種のるつぼ」を表すような登場人物たちから、どことなくミュージカル『ラグタイム』を連想しました。

実は、これら以外にももっと多くのアーティストが登場していて、例えばウェイトレスからオペラ歌手になる役柄もありました。

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コルトン・ライアン演じるジミーは、サクソフォンも演奏するけれど、それだけでなく様々な楽器の演奏に長けていて、音楽家としてもっと飛躍したいという野心を感じさせる一面もあり、映画版のような突然キレたり、暴言を吐く感じの嫌な男性像とはかけ離れていました。

唯一トニー賞受賞を果たした部門である舞台装置デザインについては、ニューヨークのアイコニックな風景を見事に捉えており、噂に違わず素晴らしかったです。

例えば、一幕前半の「Light」ではマンハッタンの碁盤の目の東西方向に沿ってちょうど太陽が沈む「マンハッタンヘンジ」が描かれています。

▼「Light」


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また、「Wine & Peaches」ではビルの工事現場で、高層階でタップダンスを踏むシーンが登場します。

▼「Wine & Peaches」


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このシーンのモチーフとなっているのはCharles C. Ebbetによって撮影された「Lunch atop a Skyscraper」だと思われます。

▼「Lunch atop a Skyscraper」by Charles C. Ebbet

演出・振付はスーザン・ストローマンで、彼女の振り付けた作品をよく知っている人からすると物足りなかったとのことですが、個人的には上記のタップダンス然り、雨傘をさして踊るシークエンス然り、やはり古き良きミュージカルと相性の良い方なのだなと感じながら観ました。

▼幕間では紗幕に静止画がスライドショーで映されていた。

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もとの映画でオリジナル楽曲はジョン・カンダーとフレッド・エッブが手がけた4曲のみで、それ以外は1940年代後半に実際に流れていた楽曲が使われています。例えば、MGMによるミュージカル映画の楽曲やジャンゴ・ラインハルトの曲など。

でも、今回は上述の通りなので、映画版で使われたカンダーとエッブの曲の他に、彼らの手がけた他の作品で使われた楽曲、さらに(2004年にエッブは亡くなっていますので、その後)ジョン・カンダーとリン=マニュエル・ミランダが手がけた新曲が織り交ぜられています。

例を挙げると、本作の一幕の最後で歌われる「Marry Me」は、ミュージカル『Rink』で使われた楽曲です。

Marry Me

Marry Me

  • provided courtesy of iTunes

また「A Quiet Thing」はミュージカル『Flora, the Red Menace』で使われた楽曲です。

A Quiet Thing

A Quiet Thing

  • provided courtesy of iTunes

というわけで、カンダーとエッブのこれまでの作品を知っている人にとっては懐かしく思い出に浸ることができ、逆に若い世代にとってはカンダーとエッブの昔の作品に触れる機会となる構成になっていました。

ついでに言うと、カンダーとミランダによって作られたオープニング・ナンバー「Cheering for Me Now」も、元々は「Hamildrop」という、ミュージカル『ハミルトン』に関連した楽曲を様々なアーティストが手がけた作品群に属す楽曲でした。ハミルトンがニューヨークに初めて降り立った喜びを歌い上げるナンバーとして知られていました。

“Cheering For Me Now” by John Kander and Lin-Manuel Miranda - YouTube

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あまり書くとネタバレになってしまうので控えますが、とりあえず映画版を見終わった時の後味の悪さは舞台ミュージカル版にはないので、ご安心あれ。

ただ上述の通り、登場人物がかなり増えて本筋とあまり関係のないくだりが多く、冗長な印象はどうしてもあります。マテオやジェスはジミーとバンドで関わるからまだ良いとして、ユダヤ系移民とヴァイオリン教師のくだりは、ほぼ関係ないですし。

あの救い難い映画の脚本をここまで手直しした努力は理解しますが。

さらに、音楽に関してですが、『蜘蛛女のキス』など過去作品にあるようなカンダー&エッブらしい、エッジの効いた感じや色っぽさは薄かったです。(個人の感想です)

しかしそういったネガティヴな点はあれど、ネオンサインや美しい舞台装置などが盛りだくさんの舞台は一見の価値はあると思います。

キャストにはダンスキャプテンとして日本人のAkina Kitazawaさんが出演しています。(私が観た時はお休みの回でしたので、また次の機会に。)「私は日本人のジンジャー・ロジャースになる!」という台詞もありましたね。

最後に、Drama Book Shopに行った時、この作品に関する展示があったので写真を貼っておきます。

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