『Days of Wine and Roses』とは
2023年オフブロードウェイで初演されたミュージカル。
JP Miller作の1958年の同名のテレビ用のプレイや,そのテレビドラマをもとにした1962年の同名映画をもとにしている。
脚本はCraig Lucas。作詞・作曲はAdam Guettel。
振付はSergio TrujilloとKarla Puno Garcia。
演出はMichael Greif。
あらすじ
紆余曲折あってジョーと結婚したカーステンは、彼の影響で酒を飲み始める。
娘のデビーが生まれ幸せに暮らしていたが、ジョーは酒に溺れるあまり仕事で失敗を重ね評価を落とし、家を空けることが多くなる。
寂しさを感じるカーステンはさらに飲酒量を増やしてしまう。
職を失ったジョーは一家でカーステンの父のもとに身を寄せ、父の植物園を手伝うようになる。
Alcoholics Anonymousの集まりに参加して更生しようとするジョーに対して、カーステンは自身がアルコール依存症であることを認めない。
なかなかアルコール依存から抜け出すことができない2人。
更生委員の指導で、一時的にカーステンは家族と離れ離れで暮らすことを余儀なくされる。
キャスト
Kirsten Arnesen Kelli O'Hara
Joe Clay Brian d'Arcy James
Betty Nicole Ferguson
Rad Ted Koch
Arnesen Byron Jennings
Lila Ella Dane Morgan
Mr. Shaw Bill English
Jim Hungerford David Jennings
Mrs. Nolan, Saleswoman Sharon Catherine Brown
感想
実はこの作品を観るために今回の遠征を計画しました。
Adam Guettelによる久々の新作ミュージカルと聞いて、せっかく観られるチャンスを逃すわけにはいかなかったからです。
Hammerstein Ⅱとのコンビで知られるRichard Rodgersの孫であり、『Once Upon a Mattress』などを手がけたMary Rodgersの息子であるAdam Guettelは『The Light in the Piazza』で有名ですが、その後はしばらくミュージカルの発表はありませんでした。
映画『プリンセス・ブライド・ストーリー(1987)』の舞台ミュージカル化に取り組んでいたようですが、諸事情により頓挫してしまったみたいです。
最近の舞台関連の仕事だと、プレイ『アラバマ物語』があり、この時はトニー賞楽曲賞にノミネートされました。
オフの小さな劇場空間で『The Light in the Piazza』のような美しい旋律が、ケリー・オハラとブライアン・ダーシー・ジェームズによって歌われるということで、相当期待して会場に向かいました。
▼trailer
▼観劇後の感想
3本目『Days of Wine and Roses』今回はこのために飛んだ。歌うのはKelli O’HaraとBrian d’Arcy James。Adam Guettelの流れるような甘美な旋律を2大スターが競い合うように時にソロで時にデュエットで歌い合う。アルコール中毒で苦しむ夫婦を描くつらいお話だったけれど、特に歌唱が素晴らしくて感動。 pic.twitter.com/SsWm3jlHnk
— るん / Lune (@nyny1121) 2023年6月18日
簡素なセット(やはりベッドが多い)が続く中、植物園のセットが出た時は細かなつくりにハッとした。あと個人的な意見だけれど、Kelliさんは優等生なイメージが強すぎて、こんなつらい思いをしている彼女の姿をみたくないと思ってしまった。Kelliさんが歌い出した瞬間に空気が変わったのが忘れられない。
— るん / Lune (@nyny1121) 2023年6月18日
歌うのはケリー・オハラとブライアン・ダーシー・ジェームズのみで、他の出演者は台詞のみで歌うことはなく、まさに2大スターをメインに打ち出した公演となっていました。
一応、ミュージカルナンバーの一覧を載せておきます。
▼ミュージカル『Days of Wine and Roses』のナンバー一覧
間違いなくうまい2人が競演して歌うわけなので、ただそれを聴くことができただけで満たされました。
音楽については、Adam Guettelらしい流れるようなメロディが印象的ですが、率直に言って、流れてそのまま頭から抜けていってしまうような、記憶には留まらない音楽でした。
例えば『The Light in the Piazza』であれば観終わった後も帰り道に鼻歌で歌うことができるメロディラインがありますが、本作ではそのようなものはありませんでした。
台詞的、オペラ的な音楽でした。確かビブラフォンを使ったバンド構成と記憶しています。
ジャズっぽい音楽もあり、これまでの彼のイメージとはかけ離れていて興味深かったです。
オフブロードウェイということで舞台装置は基本的に簡素でしたが、唯一カーステンの父の経営する植物園のシーンは手が込んでいました。
ここまで良かった点について書いてきましたが、観終わってまず率直に思ったのは「なぜこんなにつらいお話を作るの?」ということでした。
アルコール依存症が恐ろしいものであることを観客に啓蒙する効果はありかもしれませんが、それは今の時代、みんなわかっていることではないのでしょうか。
また、ミュージカル化するとどれほどつらいお話であっても、そのつらさがやや緩和されるか、つらい気持ちが昇華することが多いですが、本作ではただただ最後までつらいだけ。
でも、やっぱり観られて幸運だったと思うのは、これまで何度もケリー・オハラの出演する舞台を観てきましたが、彼女の歌声をこの小さな空間で聴くことができたこと。それだけでも観に行って良かったと思いました。
ブロードウェイ・トランスファーは、このままではまずないのではないでしょうか。
主演の2人以外の役者が歌うナンバーを追加するなどしてブラッシュアップすれば期間限定で上演する可能性はあるかもしれません。