ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Dear World』2023.3.19.19:00 @New York City Center

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『Dear World』とは

1969年にブロードウェイで初演されたミュージカル。

原作はジャン・ジロドゥ作の戯曲『ランジェーの侯爵夫人(1942)』(La Duchesse de Langeais)。

作詞・作曲はJerry Herman。

脚本はJerome LawrenceとRobert E. Hill。

初演時はアンジェラ・ランズベリーが主演し、同役で2度目のトニー賞主演女優賞受賞を果たした。

今回のプロダクションはニューヨーク・シティ・センターでのEncores!シリーズの一環で上演されたもの。

演出・振付はJosh Rodes。

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あらすじ

舞台はフランス、パリ。

ある会社がビストロから流れ出る下水を手がかりに、その建物の立つ土地の地下に油田を発見する。

愛する人を亡くしたショックで正気を失ってしまったオーレリア伯爵夫人は、このビストロの地下室で暮らし、過ぎ去った日々に思いを馳せている。

トラブルを起こし窮地に立たされた、会社の役員であるジュリアンは、ビストロに爆弾を仕掛けるという汚れ役を仕方なく引き受ける。

しかし、ビストロに集う人々と交流するうちに、ジュリアンはウェイトレスのニーナと恋に落ち、油田掘削による利益しか考えない会社の計画に従わないと決意する。

一方、会社の社長はどんなことがあってもビストロを破壊すると宣言する。

友人たちはオーレリアに事態の深刻さについて説くが、彼女はそんなことは知りたくないと答える。

ジュリアンを地下の自分の部屋に匿うと、オーレリアは1人で下水道に潜り込み、ボートにゴミを積んだ下水道夫に出会い、以前より汚くなった世界を嘆く。

オーレリアの2人の友人も少し"変わっている"。コンスタンスは水曜日以外は耳が聞こえず、ガブリエルは他の人には見えない犬をいつも連れて歩いている。

下水道夫は以前オーレリアに命を救われたことがあったことから、石像の一部の石を動かすと地下に続くタラップが現れることを彼女に教える。

オーレリアはやってきた会社役員たちを、この秘密の地下室に閉じ込めることに成功する。

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キャスト

Countess Aurelia    Donna Murphy

Gabrielle    Ann Harada 『Into the Woods』

Constance    Andréa Burns 『The Light in the Piazza』, 『The Gardens of Anuncia』

Sewerman    Christopher Fitzgerald

Julian    Phillip Johnson Richardson

President    Brooks Ashmanskas 『The Prom』

Nina    Samantha Williams

Prospector    Stanley Wayne Mathis

Artiste    Kody Jauron

Lawyer 1    Giuseppe Bausilio 『Hamilton』

Lawyer 2    Caesar Samayoa 『Come from Away』『How to Dance in Ohio』

Lawyer3    Ben Fankhauser 『Mack & Mabel』

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感想

シティ・センターで毎年3回、再演される機会の稀な作品を数日間上演するEncores!シリーズの一環で上演されました。

今回のプロダクションは、2020年2月に同じシリーズで上演された『Mack & Mabel』に続き、2019年に亡くなったジェリー・ハーマンの追悼、さらには2022年に亡くなったアンジェラ・ランズベリーへの追悼の意味合いもあったと思います。

個人的にはこのOBCRを大昔から聴いてきたので、発表されてから絶対に観に行こうと決めていて、珍しく発売と同時に購入しました。

▼highlights


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Grand Tier、メザニンの最前列から観劇。

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▼観劇後の感想

まずovertureから心を掴まれました。ミュゼットを思わせるアコーディオンを使った旋律からはジェリー・ハーマンらしい愛嬌と活気が感じられ、ようやくliveで全編を聴くことができて感無量でした。

ミュゼットっぽいけれど、ラグタイムでもあり、フランス風味のアメリカ音楽という印象。

▼「Overture」


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天井にはいくつもの雲の装飾。

舞台の中央から上手奥に向かって階段がのび、オーレリアが通る花道になっていました。

オーレリアを演じるドナ・マーフィーは、派手な帽子が印象的な衣装や濃いメイクも、明らかに初演のアンジェラ・ランズベリーのものを踏襲していて、彼女へのオマージュを強く感じさせるものとなっていました。

オーレリアの友人役のアン・ハラダは他人の目には見えない犬を連れているなど、認知症が疑われる3人の友人たちが歌う「Tea Party」がカオスで面白かったです。

脇を固める面々としては、『The Prom』でトニーにノミネートされたBrooks Ashmanskasが悪役を面白おかしく好演していました。

同じ60年代初演のミュージカル『Fantasticks』にも出てきたミュートが登場して、二幕冒頭、パントマイムで休憩後の観客を舞台の世界に再び誘っていました。

今回はあくまでコンサート形式だったので簡素なセットでしたが、ブロードウェイのプロダクションだったら石像や秘密の地下室の描写など、もう少し大掛かりだったのだろうなと想像しました。

総じるとお話自体はそこまで観る者に訴えてくるものではない一方、ジェリー・ハーマンの音楽に浴して役者の演技を堪能できただけで個人的には十分楽しかったです。

タイトルナンバー「Dear World」はゴミの汚れた世界に宛てて書かれたメッセージとなっているので、広い意味合いでは「環境ミュージカル」とも言えるかもしれません。

Rufus Wainwrightによる「Dear World」のcover

https://music.apple.com/jp/album/dear-world/1678180965?i=1678181299&uo=4&at=10l8JW&ct=hatenablog

この作品中で1番聴かせるナンバーはウェイトレスのニーナが歌う「I've Never Said Love You」で、今でもミュージカル関連のコンサートで歌われることがあります。

▼Samantha Williamsの歌う「I've Never Said I Love You」


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通路を歩いていた時に「初演もオフ版も観て今回が3回目」と自慢していたミューオタの鑑のようなおじいさまがいらして、愛されている作品なんだなと思いました。

▼Donna Murphyの歌う「I Don't Want to Know」


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