『ブロードウェイ・リズム(1944)』とは
1944年公開のMGMによるミュージカル映画。
1939年に初演された、オスカー・ハマースタインⅡ世作詞、ジェローム・カーン作曲の舞台ミュージカル『Very Warm for May』を基にしているが、あらすじは大きく異なり、ミュージカルナンバーも「All the Things You Are」しか使われなかった。
元々は、Broadway Melodyシリーズの一環で、『Broadway Melody of 1944』と名付けられる予定だった。
監督はロイ・デル・ルース。
あらすじ
ブロードウェイのプロデューサーであるジョニーは自身のショーのために新たなスターを探している。
若手女優のヘレンが歌うのを聴いて感動したジョニーは、自身のショーに勧誘するが、ヘレンはその脚本を気に入らず断られてしまう。
一方、ジョニーの妹のパッツィーは早く舞台に立ちたいと兄に乞うが、ジョニーは学業を優先するよう窘める。
また、ジョニーの父でかつてヴォードヴィルで活躍していたサムには、ショーのアイディアがあるが資金がなかった。
サムのアイディアを気に入ったヘレンは、サムやパッツィーとともにショーをやろうと考えるが、その間にジョニーとヘレンは恋に落ちてしまう。
キャスト
ジョニー ジョージ・マーフィー
ヘレン ジニー・シムズ
サム チャールズ・ウィニンガー
パッツィー グロリア・デヘイヴン
トリクシー ナンシー・ウォーカー
フェリックス ベン・ブルー
ファーンウェイ リナ・ホーン
エディ エディ・アンダーソン
トミー・ドーシー 本人
ヘイゼル・スコット 本人
ケニー レイ・ケント
マギー、アジー、エルミラ ロス・シスターズ
感想
「Broadway Melody」シリーズといえば、邦題では『ブロードウェイ・メロディ(1929)』『踊るブロードウェイ(1935)』『踊る不夜城(1937)』『踊るニューヨーク(1940)』があり、いずれもバックステージものではあるもののストーリーに関連性はありません。
本作もその流れを汲む作品ですが、シリーズ作よりもスター発掘オーディションに参加するアーティストとして様々な才能を持ったパフォーマーが集結していて、バラエティに富んだ内容となっています。
この年代のミュージカル映画や『ザッツ・エンターテイメント!』がお好きであれば観て損はない作品です。
▼trailer
原作とされる『Very Warm for May』というミュージカルは『ショウ・ボート』などを手がけたハマースタインⅡ世とカーンのコンビによる作品ですが、この作品は「All the Things You Are」というスタンダードナンバー化した楽曲を輩出したということだけで知られる作品となっています。
実際のところ、この舞台ミュージカルは、地方でのトライアウト時には「ギャングに追われる若い女性がサマーストック(夏季のみ開く演劇)に逃げ込む」というような内容で好評だったのですが、1939年にブロードウェイで初演された際、前年に似たような内容のミュージカル『Babes in Arms』を観ていたニューヨークの観客にはウケず、最終的に内容を手直しし、大コケしたそうです。
ハマースタインⅡ世とカーンの2人の作者自身も黒歴史と認識しているようで、一時はこの舞台ミュージカルを上演禁止にしていた期間もあったほど。
この映画『ブロードウェイ・リズム(1944)』ではさらにストーリーが変更され、楽曲も「All the Things You Are」しか使われておらず、ほぼ原型を留めていない状態になっています。(もはやそれで原作と呼べるのかどうか甚だ疑問ですが。)
「All the Things You Are」は愛する人といつか結ばれる日を夢見る人の切ない心情が描かれていて、音楽と詩いずれも美しいです。
様々なアーティストによってカヴァーされており、メトロポリタン・オペラの女王(私が勝手に名付けました)のルネ・フレミングも歌っています。
『Very Warm for May』は、舞台では失敗しましたが、このオリジナル・プロダクションを幼少期のスティーヴン・ソンドハイムは観劇しており、彼はこの作品がきっかけでミュージカルに興味を持つようになったそうなので、この作品は間接的に演劇界に多大な影響を与えたと言えると思います。
話を映画に戻すと、妹役の可愛らしいグロリア・デヘイヴンや、ヘイゼル・スコットの卓越したピアノ演奏、リナ・ホーンの歌声、ロス・シスターズの柔軟な身体を使ったパフォーマンスと、見どころは盛りだくさんです。
▼「Solid Potato Salad」The Ross Sistersによるコントーションを駆使した驚異的なパフォーマンスは1:00頃〜