ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Parade』2023.3.18.20:00 @Bernard B. Jacobs Theatre

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『Parade』とは

1998年にブロードウェイで初演されたミュージカル。

作詞・作曲はJason Robert Brown。脚本はAlfred Uhry。

初演時はトニー賞2部門(脚本、楽曲)を受賞した。

今回のプロダクションは2022年11月にニューヨーク・シティ・センターで期間限定で上演されたものがブロードウェイにトランスファーし、2023年3月に初日を迎えたもの。

演出はMichael Arden。

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(大まかな)あらすじ

舞台は1913年ジョージア州アトランタ

鉛筆工場を取り仕切るユダヤ人のレオ・フランクは、工場に勤務する女工メアリー・フェイガンが工場内で強姦され殺害されたことを知らされる。

そして疑いの目がレオに向けられる。

身に覚えのない出来事に無実を主張するレオだったが、女工たちや目撃者の証言が相次ぎ、裁判は長引くことになる。

そんな中、レオの妻ルシールは夫を信じ励まし続ける。

スレイトン知事の理解があり、再調査された結果、レオは終身刑を免れるが・・・

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キャスト

Leo Frank    Ben Platt

Lucille Frank    Micaela Diamond 『Here We Are』

Frankie Epps    Jake Pedersen

Young Soldier & Others    Tanner Callicutt

Mary Phagan    Erin Rose Doyle

Hugh Dorsey    Paul Alexander Nolan

Governor Slaton    Sean Allan Krill 『Jagged LIttle Pill』

Britt Craig    Jay Armstrong Johnson『Scotland, PA』

Luther Rosser, Mr. Peavy    Christopher Gurr

Officer Ivey & Others    Jackson Teeley

Jim Conley    Alex Joseph Grayson

Newt Lee    Eddie Cooper

Riley    Douglas Lyons

Tom Watson    Manoel Felciano

Det. Starnes & Others    William Michals

Iola Stover    Sophia Manicone

Essie & Others    Emily Rose DeMartino

Monteen & Others    Ashlyn Maddox

Angela    Courtnee Carter

Old Soldier, Judge Roan    Howard McGillin

Mrs. Phagan    Kelli Barrett

Sally Slaton    Stacie Bono

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感想

今回の旅で絶対に観るリストの最上位にランクづけしていた作品で、事前にオーケストラ席前方センターを確保していました。($180+α)

2017年日本初演を観ただけで、原語で観るのは今回が初めてでした。

2022年11月のシティ・センターでの公演が好評だったこともあり期待を胸に劇場に向かいました。

▼シティ・センターでの公演のハイライト


www.youtube.com

▼観劇後の感想

物語は南北戦争に出征する若い兵士の旅立ちから始まりますが、「The Old Red Hills of Home」の歌唱とともに背景にはジョージア州旗が掲げられています。

州旗は時代とともに変わってきましたが、ジョージア州旗のデザインには現在でもアメリカ連合国の旗(南軍の象徴)の名残が色濃く残っており、南北戦争での敗北からの劣等感がアトランタに漂っていたことが強調されているように感じました。

民衆たちの、南北戦争での敗北で失われたプライドやわき起こる不満が、この冤罪事件のベースにあったということを示しているのでしょうか。

舞台中央には舞台幅の4分の1程度の大きさの台が置かれ、この台の上ではカップルの掛け合いが行われていました。最初は南北戦争に出征する若い兵士と恋人ライラ、レオとルシール、黒人夫婦、知事夫婦、最後に現代を生きるカップル(これについては後述)。

時代や立場が変わっても愛する人を思う気持ちは同じ、ということを表す演出なのかなと思いました。

裁判の時に、ボックス席に演者が登場し、舞台が立体的になって面白かったです。

裁判の時に、メアリー・フェイガンの母親が話す時など、もう見ていられないという様子でずっと俯いたままのルシールが痛々しく、夫の無実を信じ支え続ける姿を熱演したミカエラ・ダイアモンドに心から拍手を送りました。

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ベン・プラットは一幕と二幕の間の休憩中も舞台上に残り、独房にいるところを演じ続ける様子が話題になりましたが、育ちの良さがこの役には活きていて、アトランタが故郷だと感じられないという神経質な感じがうまく出ていると感じました。

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枚挙にいとまがないですが、ジム・コンリー役のアレックス・ジョセフ・グレイソンや記者役のジェイ・アームストロング・ジョンソン、知事役のシーン・アラン・クリルなど、各々の役を全うしていて、カンパニー全体が有機的に躍動していました。

レオ・フランクは事件発生から70年以上経つ1986年に特赦されましたが、2019年に再度審議されることになり、そのことはラストで、テレビを見ている現代を生きるカップルが登場するのとともに舞台上に表示されました。

2023年3月の初日、劇場の外にはネオナチの活動家たちが駆けつける事態となり、この事件は現在も依然として続いているのだということを思い知らされました。

www.nytimes.com

▼レオ・フランクの冤罪にも言及しながら、反ユダヤ主義や、なぜ判事たちはコンリーでなくフランクをより強く疑ったのか、なぜ黒人がユダヤ人にとって有利になるような証言をしなかったのか、などについて書かれており、長年の疑問がこの本によって解消されました。教えてくださったpakuoさんありがとうございます。

 

▼この作品や今回の再演に関して、Alfred Uhry(脚本)、Ben Platt、Micaela Diamond、Michael Arden(演出)らがディスカッションしている動画。Uhryの親戚の中にはフランク夫妻と交流があった者もいたそうです。長尺ですが、こちらもおすすめです。

Parade: A Discussion with the 2023 Broadway Cast & Creative Team - YouTube

 

▼余談ですが、ユダヤの歴史に触れるために、この観劇と合わせてロウワーイーストサイドにある「Museum at Eldridge Street」に行ってきました。チャイナタウンの喧騒の中に静かに建っていますが、美しいシナゴーグは一見の価値があります。