『Sunset Boulevard』とは
1993年にロンドンで初演されたミュージカル。
1950年の同名映画をもとにしている。
作曲はアンドリュー・ロイド=ウェバー、作詞・脚本はドン・ブラックとクリストファー・ハンプトン。
今回は2023年にロンドンで上演された公演を観劇した。
演出はジェイミー・ロイド。
あらすじ
脚本家のジョーは、仕事で行き詰まり、行き場を失い彷徨っているうちに、サンセット大通りにある大きな邸宅に迷い込む。
そこにはかつてのハリウッドの大女優ノーマ・デズモンドが住んでいた。
ノーマはすでに世間から忘れ去られた存在だったが、自身はまたいつでも撮影現場に復帰できると信じていた。
ノーマに『サロメ』の脚本を直すよう依頼されたジョーは彼女と共に暮らすようになる。
ノーマはジョーに惚れ込み、ジョーはその気はなかったものの離れようとした際にノーマが自殺未遂を起こしたため、仕方なく深い関係を続けるようになる。
ジョーは『サロメ』の台本を直すうちに、友人の婚約者であるベティと親しくなる。
ベティとの関係がノーマの知るところとなると、ジョーはベティに別れを告げ、故郷に帰ると宣言するが。
キャスト
Norma Desmond Nicole Scherzinger
Joe Gillis Tom Francis
Betty Schaefer Grace Hodgett Young
Max Von Mayerling David Thaxton
Myron / Jones Carl Au
Lisa Georgia Bradshaw
Young Norma Hannah Yun Chamberlain
感想
これまでの『Sunset Boulevard』とは全く異なる斬新な演出で話題のプロダクションを観てきました。
演出のジェイミー・ロイドが手がけた作品としては、これまで『Betrayal』をブロードウェイで観たことがあるのですが、舞台装置はほとんど使われず、まっさらな舞台で役者の演技を際立っていたことを覚えています。
その他に、彼が手がけた作品として、最近だと2023年にブロードウェイで上演されたジェシカ・チャステイン主演の『Doll's House』(私は未見)が記憶に新しいですが、そのプロダクションではジェシカ・チャステインが劇場外に出るシーンがありました。
今回のプロダクションはこれら2公演でみられたようなロイドの演出が冴えていました。
この作品は私にとって、大好きなPatti LuPoneがオリジナルキャストを務めた思い入れのある作品ですが、コロナ禍の影響で日本公演のチケットを失ったため、今回がこの作品の初見でした。
▼trailer
まず場内に入ると、舞台には細かいチェーンでできたすだれのような幕が下りていました。
開演直前には主演のニコール・シェージンガーが幕の内側に立っているのが見えました。
まず、『Betrayal』と同じように舞台上には全く何も置かれていませんでした。ただし、背景に巨大な解像度の高いスクリーンが掲げられていました。
ノーマの家の大階段や豪邸のモチーフとなるような家具も何もありませんでした。
幕が上がるとその巨大なスクリーンにタイトルと演出家、主演の役者の名前などが映され、あたかも古い映画のオープニング・シークエンスのようでした。
キャストの衣装は基本的に黒、一部で白。ノーマの豪華な衣装や印象的な帽子(ターバン?)もなく、彼女は黒のシンプルなドレスのみ身につけていました。もちろん靴も靴下もなし。
アンサンブルは都会的なスポーティーな風貌。
アンサンブルのダンスはクラシックバレエやジャズというよりはコンテンポラリーの要素が強いスタイルでした。
スクリーンにはリアルタイムで撮影された映像が映し出されていました。オープニング・シークエンスとエンドロール以外は、別撮りの映像は使われていなかったと記憶しています。
例えば、袖から撮影して、客席から観るのとは別の視点をスクリーンに映すことで、観客に新たな見方を与えていましたし、その他に、カメラアームを身体にくくりつけて、自身の顔をアップで撮影するなど、表情のアップが多く映像で使われていました。
喜怒哀楽が明らかな場面で顔のアップが使われていたのですが、これは映画の同様の手法を模倣しているのかなと考えました。
自身の身体に固定されたカメラで撮影することもありますが、キャストの中にいる「撮影者」という役名の2人ほどの方が撮影することもありました。
舞台上にいるキャストだけでなく、舞台裏にいるキャストにカメラが向けられることもありました。
顔のアップの映像が使われる時は、露骨に驚いたり嫌がったりといった表情が強調されるので、場内では笑いが起きていましたし、私も少し笑ってしまいました。
この顔のアップ映像によって、ノーマの狂気がより強調されていたように思います。
劇中で映像が使われると聞くと、どうしても2019年に上演されたIvo Van Hove演出の『West Side Story』や革新的な演出で話題だった『Oklahoma!』を連想してしまいました。
特に印象的なのは、2幕冒頭で、ジョーが楽屋で様々なキャストと会話や会釈を交わしながら移動し、楽屋口から外に出て、タイトル曲を歌いながら劇場の外周を歩き、劇場の正面口から入場し、客席から舞台に上がるという一部始終を歌声も含めてリアルタイムで撮影して場内のスクリーンに映したこと。
楽屋でジョーはノーマの楽屋も訪れるのですが、その時にノーマは鏡に口紅で「Mad about the boy」と書いて、鏡越しに微笑んでいました。確か、この時に原作の映画の一場面の写真が飾ってあったと記憶があります。
楽屋から楽屋口に出る時、なぜかロイド=ウェバー卿のパネルが置かれていたのはよくわからなかったです。
▼演出家とキャストへのインタビュー
私はニコール・シャージンガーという人をこれまで知らず、ざっと略歴を見てアイドルや歌手なのかなと思い込んでいましたが、これまでも『Cats』のグリザベラなどミュージカルの経験はあるようです。
ロイド氏が「夢でみたから」という理由でキャスティングってすごいですね。
(彼女が若く見えるということもありますが、)確かにノーマにしては若いのでは?と最初思ったものの、実はPattiも彼女とちょうど同じくらいの年齢でノーマをしていたそうです。
彼女のノーマが歌う「With One Look」や「As If We Never Say Good Bye」は魂からの絶唱という感じがして、しばらく鳥肌が止まりませんでした。
▼カーテンコール
▼カーテンコール後に流れたエンドロール
終演後にやはりエンドロールがあり、オープニング・シークエンスと合わせて、やはり映画的にこの作品を仕上げたかったのだろうと感じました。
舞台装置や華美な衣装を排した分、表情のアップの映像を多用し、より感情的に観客に訴えかけようとしたのではないかと思いました。
これはブロードウェイにトランスファーするでしょうね。おそらく24/25シーズンに。
少し前にロジャース&ハマースタイン2世のミュージカル作品のリバイバルが相次ぎ、その時に演出家主導で新たな視点で作品をプロデュースする動きがありましたが、今回の公演をはじめとしてこれからはALW作品について同様の流れが起こりそうです。
その流れについてもまた別の記事でまとめたいと思います。