ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Guys and Dolls』2023.10.19.14:30 @Bridge Theatre

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『Guys and Dolls』とは

1950年にブロードウェイで初演されたミュージカル。

作詞・作曲はフランク・レッサー。脚本はジョー・スワーリングとエイブ・バローズ。

原作はデイモン・ラニアンによる短編小説「The Idyll of Miss Sarah Brown」と「Blood Pressure」。

初演時、トニー賞で作品賞を含めた5部門を受賞した。

今回は、ロンドンでの2023年再演のプロダクションを観劇した。

演出はNicholas Hytner。

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あらすじ

1920年代のニューヨークの下町が舞台。
NY一の賭博師ネイサンは、ラスベガスから一儲けして帰ってきたばかりの賭博師スカイに賭けをしかける。
それはこれから指名する女をデートに誘えるか、というものだった。
スカイは自信満々で賭けに応じるが、口説く相手は「救世軍」の堅物軍曹サラだった。
最初は冷たくあしらわれるスカイだったが、閉鎖危機に陥った伝道所をうまく救う。
一方、ネイサンの方は、恋人アデレイドから博打から足を洗うことと、彼女との結婚を迫られていた。

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キャスト

Permanent Floating Crap Game

Nathan Detroit    Daniel Mays

Sky Masterson    George Ioannides

Nicely-Nicely Johnson    Cedric Neal

Benny Southstreet    Mark Oxtoby

Big Jule    Ike Fallon

Harry the Horse    Dale White

Lieutenant Brannigan    Simon Anthony

Rusty Charlie    Callum Bell

Angie the Ox    Perry O'Dea

Brandy Bottle Bates    Iroy Abesamis

Dave the Dude    Jack Butterworth

Little Isadore James Revell

Society Max    Robbie McMillan

Joey Biltmore    Anthony O'Donnell

Save A-Soul Mission

Sarah Brown    Charlotte Scott

Arvide Abernathy    Anthony O'Donnell

General Cartwright    Lydia Bannister

Agatha    Saffi Needham

Calvin    Iroy Abesamis

Martha    Tinovimbanashe Sibanda

Hot Box

Miss Adelaide    Marisha Wallace

Good Time Charley Burnstein    Lydia Bannister

Billy Perry    Cindy Belliot

Cynthia Harris    Tinovimbanashe Sibanda

Doris Clare    Kathryn Barnes

Kitty Clancy    Sasha Wareham

Mimi Muldoon    Isabel Snaas

Hortense Hathaway    Saffi Needham

Hi-Hi Boys    Cedric Neal, Perry O'Dea, Leslie Garcia Bowman, Robbie McMillan

Handsome Jack Fogarty    Leslie Garcia Bowman

Havana

Diego    Callum Bell

Rico    Iroy Abesamis

Esmerelda    Ike Fallon

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感想

イマーシブシアターということで話題になっていた『Guys and Dolls』を観てきました。

ブリッジ劇場はタワーブリッジの袂にある2017年にできた比較的新しい劇場です。

噂には多少聞いていたのですが、これがこれまで観たことがないような類の舞台で、とても驚き感動したので、記録に残しておきます。

作品についてご存知ない方は1955年のミュージカル映画版をご覧になることをお勧めします。

▼trailers


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アリーナ型の劇場で、3階建構造の客席に加えて、中央でスタンディングで鑑賞する観客もいます。

私は1階の最前列の座席から鑑賞しました。

今回のプロダクションの特徴であるイマーシブ感を最も味わえるのはスタンディングシートですが、その場合、上演時間の3時間ほとんどずっと立ち通しになるので注意が必要です。

▼公式サイトより

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開場とほぼ同時に入場した時の様子です。すでに売り子さんたちがカートを押しながらプレッツェルや飲み物、キャストが被っているような帽子などを販売していました。

フロアにいると売り子さんに積極的に声をかけられますが、客席の方までは売りに来ることはありません。

この時点でフロアは平らですが、開演と同時に床面に書かれた白線に沿って舞台がせり上がってきます。

全てせり上がると舞台は十字のような形をしていますが、場面によって部分的にせり上がるなどして舞台の形状が変わります。

スタンディングの観客は舞台転換に合わせて、誘導員に従って移動する形となっていました。このあたりは『Here Lies Love』と同じスタイルですね。

▼開演前のフロア

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今回のプロダクションの特徴は、immersiveであるということ。

フロアのスタンディング客は当時のアメリカ人として一部始終を目の当たりにし、キャストから頻繁に問いかけられたり、小物を投げつけられたりする場面があります。

2幕の冒頭では、ホットボックスの客として舞台上に設置された席に座るという場面もありました。

舞台は移動式なので、観客もその都度見やすい位置を探して歩いて移動することができます。

客席だと1階最前列だとしても舞台からやや離れてしまいますが、天井から吊るされているネオンサインを含めて舞台全体を観られる良さがありました。f:id:urara1989:20231119163925j:image

オーケストラは2階席の一部を陣取っていました。f:id:urara1989:20231119163938j:image

immersiveであるということ以外に、今回のプロダクションがこれまでの公演と違った点が大きく2つあります。

1つ目は、救世軍のカートライト将軍とホットボックスのオーナーであるチャーリーが、同じ役者によって1人2役で演じられていたこと。

通常チャーリーは男優が演じることがほとんどですが、今回はブッチの*1クィア(おそらくレズビアン)として演じられています。

カートライト将軍は堅い感じではありますがフェムなので、衣装もカツラも変えて明らかに演じ分けられており、最初は同じ役者さんだとは気づきませんでした。

クィアと判断したのは、ナイスリーナイスリー・ジョンソンが歌うタイトル曲で、「女の尻に敷かれた男たち」を表すためにカップルが数組登場しますが、そのうちの1組がこのチャーリーとホットボックスの女優の女性同士の同性カップルだったからです。

2つ目は、スカイとサラが食事に出かけたハヴァナで様々なお店をハシゴしますが、その最後の方で迷い込んだダンスホールがたまたまゲイの集いの場だったということ。

これまでのプロダクションではごく普通のダンスホールだったと記憶していますが、今回は明らかにゲイのための場でした。そのため、スカイも男性と踊っていました。

これら2点について発見した時、個人的には手に汗を握るほど興奮して、同時にとても感動したんです。

このお話の舞台である1920年代のアメリカでは同性愛は一般的に秘匿されるものとされており、大衆向けの物語として描かれることはほとんどなかったはず。

古典的なミュージカル作品である『Guys and Dolls』も異性愛が前提とされ話が進んでいきますが、実際にはその時代にも同性愛者はいたということを、今回のプロダクションはオリジナルの脚本や音楽はそのままに、上手く作中に取り込んでinclusiveに表現している点で新しいと思いました。

▼休憩中。写真手前でテーブル付きの椅子に座っているのはスタンディングの観客。このまま2幕冒頭にホットボックスの客として登場する。

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休憩中にHi-Hi boysによるパフォーマンスがありました。

劇中ではサラが歌う「I'll Know」をグルーヴィーに歌っていました。

I'll Know (Hi-Hi Boys Version)

I'll Know (Hi-Hi Boys Version)

  • Cedric Neal, Simon Anthony, Jordan Castle, Ryan Pidgen & フランク・レッサー
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

▼とても素敵な雰囲気だったので私もジンジャーエールをいただいてみました。

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劇中で舞台の昇降が頻繁にあるため、役者の登場・退場のタイミングが少しでも異なるとあわや大事故になりかねないので、キャストとステージ裏のスタッフとの連携が非常に重要な公演だと思いました。

十字の舞台の細長い床面の場所ではダンスシーンに取れる面積が狭いので、誤って役者が舞台から落下しないかちょっと心配になりました。心配性なもので。

私が観に行く少し前に、3月からのオリジナルキャストの一部が変更されたようですが、ネイサンとアデレードはそのままでした。

ネイサンは優柔不断でうだつが上がらない感じがよく出ていていましたし、アデレードOBCのイメージに引っ張られず、肉感的で、でも純真さがある新たなアデレード像を打ち出していて素晴らしかったです。

あと、ホットボックスのダンスが、ちょっとあまりになんというか生々しくて、観客にお子さんもいたので、これは親御さん大丈夫かなと余計な心配をしてしまいました。

▼終演後はみんなフロアに繰り出して、結婚式のダンスパーティー

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終演後はフロアが再び平らになり、ダンスフロアに変貌を遂げ、「Luck Be a Lady」のremixが流れる中、みんな思い思いに踊っていました。

スタンディングの観客の若い方は、おそらくこのことを知っていて、踊りやすい服装で来場している人もいました。

素人なのでしょうが、とても素人とは思えないような卓越したダンスを披露する方もいて、すごいなぁと思いながら私は傍目で観ていました。

Luck Be a Lady Remix (Marisha's Version)

Luck Be a Lady Remix (Marisha's Version)

  • フランク・レッサー & マリーシャ・ウォーレス
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

この数年はニューヨークばかりで舞台を観てきたのですが、ブロードウェイだと劇場が固定されていて、Circle in the Square以外はほぼ同じような作りなので、ロンドンは様々なタイプの新しい劇場ができて、多様な演劇の試みができるのがとてもいいなと思いました。

また、オフブロードウェイに留まらず、オンブロードウェイでも『Here Lies Love』や2024年春にオープン予定の『Cabaret』のようなimmersive theaterがもっと観られたらいいなと思います。

そして様々なタイプのvenueの開拓をしてほしいです。


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*1:男性的な