ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Cabaret』2023.10.23.19:30 @Playhouse Theatre

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『Cabaret』とは

1966年ブロードウェイで初演されたミュージカル。

作曲はJohn Kander、作詞はFred Ebb、脚本はJoe Masteroff。

原作はクリストファー・イシャーウッド作の小説「さらばベルリン」をもとにした、ジョン・ヴァン・ドルテン作の戯曲「私はカメラ」。

今回は2021年にウエストエンドで開幕したリバイバルプロダクションを観劇した。

演出はRebecca Frecknall。

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あらすじ

1930年代ベルリン、新作執筆のためにドイツに赴いたアメリカ人小説家のクリフは、ドイツ人のエルンストの紹介で、フロウライン・シュナイダーの経営する下宿先を何とか見つける。

退廃的なキャバレー、キットカットクラブを訪れたクリフは、キャバレーの踊り子で女優志望のサリーに出会う。

その後、恋人と別れたサリーはクリフの下宿先に転がり込み、2人は同棲するようになる。

一方、フローライン・シュナイダーはユダヤ人のシュルツ氏からパイナップルを贈られ、2人は親しくなる。

世の中ではドイツ労働党の勢力が増し、ナチスが台頭してしつつあった。

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キャスト

Emcee    Jake Shears

Sally Bowles    Rebecca Lucy Taylor

Clifford Bradshaw    Nathan Ives-Moiba

Fraulein Schneider    Beverly Klein

Herr Schultz    Teddy Kempner

Ernest Ludwig    Wilf Scolding

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感想

『キャバレー』はライザ・ミネリ主演の映画版を観たことがあるだけで、舞台版を観るのは初めてでした。

今回は劇場自体をキットカットクラブに見立てて改修しimmersive theaterになっている点が特徴でした。

座席によってはお食事が出る場合もありますが、ペアでないと購入できなかったので、私は通常の1階席にしました。

▼trailer


www.youtube.com

 


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入場しようと並んでいたら、荷物検査のスタッフさんに「なんでそんなにつらそうなの?」と言われ(ストレス続きだったので表情に出てしまっていたようです)、「In this place, a life is beautiful. Smile! That's better.」というやりとりがあり、劇中のセリフを引用するなんて流石だなと思いました。

劇場には通常の正面入口からではなく、元々はおそらくスタッフのみが使用していたと思われる何の標識もない扉から入ります。

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こちらの扉から階段を降りていくと、ドアがあり劇場内部に入ります。するとすぐにこのようなシールを渡され、スマートフォンのカメラレンズ部分に貼るように指示され、ウェルカムドリンクとしてシュナップスが手渡されます。(禁酒中なので私はいただきませんでした。)

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かなり早く入場した方でしたが、お食事が出る席の観客たちはより早く入場していたため、すでに混雑しており、薄暗いホワイエを進むのにも人混みをかき分けなければいけないほど。

1階のホワイエ奥の一角ではダンスや楽器演奏のプレ・パフォーマンスを披露されていました。

1階から3階までそれぞれにバーがあり、バーテンダーとはもちろん英語で意思疎通しますが、トイレの男女の表記はドイツ語になっていて、ベルリンにあるキャバレーの雰囲気を演出していました。

このように開演前から作品の世界に没入することができました。

お食事が出る席ではない通常席でも座席前に狭いテーブルがあったので、私も観劇しながらジンジャーエールをいただき、キャバレーを訪れた客の気分を味わうことができました。

舞台は円形で、周囲を客席が取り囲み、ステージから四方にのびる通路から演者は出入りするため、一度退席すると休憩まで席に戻れないルールになっていました。

今回のプロダクションのオリジナルキャストは、EmceeがEddie Redmayne、SallyがJessie Buckleyでしたが、私が観た時は既に後続の方に変わっていました。

強烈に印象に残っているのはサリーの絶唱。やや大仰な感じもするくらいの全てを賭けたような歌い方で、だからこそサリーがクリフとの新たな生活や授かった命を選ばず、キャバレーで歌い踊る従来の生活を捨てられなかったのだと伝わってきました。

1幕終盤、「Tomorrow Belongs to Me」が歌われ、一方向を向いたナチス兵服を着た人形が回転舞台に並んで幕が下りるのですが、これがそのまま2幕ラストに投影されています。

物語の進行とともに徐々にナチスの影響が色濃くなっていきますが、ラストで時代の流れに逆らえない人々がナチスの兵服を着て、1幕終盤の人形と同じように回転舞台に並びます。

後半にあるタイトルナンバーで、サリーはそれまで着ていたドレスから一転して、地味なカーキのパンツスーツに身を包んでいて、この変化にもナチスからの影響を感じました。

他のプロダクションを観たことがないので比較はできないのですが、映画版とは違ってクリフのバイセクシャリティが明確に描かれていたのが驚きでした。

冒頭でクリフは男性とキスするシーンがあり、クィアであることが示されます。

原作の作者であるクリストファー・イシャーウッド自身がクィアで、クリフは彼自身が投影された役柄なので納得なのですが。

サリーとクリフのカップルと同じくらい、もしくはそれ以上に物語の中心となっているのがフローライン・シュナイダーとシュルツ氏の老カップル。

ユダヤ人シュルツ氏との結婚によってユダヤ人となろうとするフローライン・シュナイダーこそ、ナチスの勢力が強まる社会情勢がより身に迫った問題のはずなので、むしろこちらの老カップルの方が主役なのではという感じも。

彼らの置かれた状況はかなりシリアスなのですが、意外と何度も笑いが起こっていました。贈り物のパイナップルを別の象徴と捉え、意味深に紙袋に入れるなど。

Emceeに関しては少し道化の要素が強かったです。個人的には笑顔であっても、もう少しブラックでサディスティックな感じの方が好きかなと思いました。

ダンサーズがこれまた素晴らしくて、コメディックでかつ蠱惑的でよかったです。

客席はアリーナ型になっていたので、役者もどちらを正面とするわけでもなく、四方に平等に向くように演じていました。

このプロダクションは2024年4月ブロードウェイにトランスファーする予定で、Eddieは再びEmceeを演じることになっています。Sally役はGayle Rankin*1。ブロードウェイでも観る予定なので、ロンドン公演と比べたいと思っています。

*1:彼女は2014年の同作ブロードウェイ再演にもアンサンブルとして出演しています。最近だとNetflixシリーズ「GLOW」に出演しています。