『West Side Story』とは
1957年にブロードウェイで初演されたミュージカル。
シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を基にしている。
脚本はアーサー・ロレンツ、作曲はレナード・バーンスタイン、作詞はステファン・ソンドハイム。
ブロードウェイでは今回が5回目の再演となり、演出はイヴォ・ヴァン・ホーヴェが務めた。
あらすじ
ニューヨークのアッパー・ウェスト・サイドを舞台に、主にプエルトリコからの移民で構成されるシャークス団と白人たちで構成されるジェッツ団の2つのギャング団の抗争と恋愛を描く。
(詳細は映画『ウェスト・サイド物語(1961)』をご覧ください。)
キャスト
Tony Isaac Powell
Maria Shereen Pimentel
Riff Sharon E. Jones
Bernardo Amar Ramasar
Anita Yesenia Ayala
Chino Jacob Guzman
Action Elijah A. Carter
A-Rab Kevin Csolak
Baby John Matthew Johnson
Snowboy Daniel Ching
Big Deal Tyler Eisenreich
Diesel Ahmad Simmons
Tiger Corey John Snide
Gee- Tar Gus Reed
Anybodys Zuri Noelle Ford
Graziella Alexa De Barr
Velma Madison Vomastek
Minnie Ui-Seng Francois
Clarice Michelle Mercedes
Pauline Jennifer Gruener
Nibbles Michaela Marfori
Pepe Carlos E. Gozalez
Indio Ricky Ubeda
Luis Roman Cruz
Anxious Israel Del Rosario
Toro Sheldon True
Moose Kevin Zambrano
Mouthpiece Adolfo Mena Cejas
Juano Marc Crousillat
Rosalia Lorna Courtney
Consuelo Gabi Campo
Teresita Stephanie Crousilat
Francisca Marissa Brown
Estella Marlon Feliz
Margarita Satori Folkes-Stone
Doc Daniel Orsekes
Lt. Schrank Thomas Jay Ryan
Krupke Danny Wolohan
Glad Hand Pippa Pearthree
感想
2009年のブロードウェイの再演については、当時学生で金欠だったため観られなかったことから、今回こそ絶対に観たいと思っていました。
2009年再演のproductionの最大の特徴は、シャークス団がスペイン語を話すという点でした。
当時メザニンの最安値の席でも150ドルくらいしたので(学生には大金でした)、ほぼ毎日rushのlotteryに挑戦したのですが一度も当たらず断念したのでした。
そのため、今回は事前にチケットを購入しておいたのですが、実際に行ってみると空席が目立っていたので当日購入で十分でしたね。
今回のproductionはオペラ界で有名なオランダの演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェが演出を務め、ミュージカルナンバーをカットしたり、従来の振り付けから大きく変更したりと、異色の仕上がりになっているという噂を聞き、不安と期待の入り混じった複雑な気持ちで劇場に向かいました。
朧げな記憶をもとに書いていこうと思います。
▼2020年再演のproductionの紹介動画
今回のproductionの特徴には以下のようなものが挙げられると思います。
- 2幕構成→1幕構成への変更
- 「I Feel Pretty」とDream balletなどのシーンの削除
- 映像の多用(別撮りとリアルタイム)
- iPhone使用による現代的な意味づけ
- 振付の変更
- all-whiteでないJets
観劇直後のつぶやきと合わせて振り返ってみたいと思います。
2幕構成→1幕構成への変更
オリジナルでは2幕構成で2時間45分の上演時間のところ、今回は1幕構成で1時間45分に変更されていました。
この作品は冒頭から結末までたった3日間のうちに怒涛のように巻き起こった出来事を描いており、この変更によりその刹那がより強調されたのではないかと感じました。
この点は大いに賛同します。
ただし、もちろんその分、省略された箇所もあるので、そこで観客の意見は分かれているようです。
・1幕に変更したためか「One Hand, One Heart」前の誓いの言葉も1.5倍速。背景が映像で舞台装置の移動がないため、全体的にも場面間の余白が少ない。
— るん / Lune (@nyny1121) 2020年2月27日
・マリアの部屋は完全にbackyardにあり映像のみ。
・「Somewhere」はTonyだけが歌う。
・「I Have a Love」の背景でTonyとMariaの逢瀬のシーン…ムリ
「I Feel Pretty」とDream balletなどのシーンの削除
丸々カットされたのは、本来2幕でマリアが歌う「I Feel Pretty」、そして同じく2幕で登場するDream balletのシーンです。
前者はトニーとの恋に浮かれた気持ちを高らかに歌うもので「America」と並んでとても楽しいナンバーです。
おそらく「Tonight」で恋に落ちた気持ちが歌われており、後半のよりシリアスなシーンに繋げるため削除されたのでしょうか。
でも私はこの曲の、男性の面前では見せない浮かれた感じのマリアが大好きで、ワルツが小気味良くてメロディーも美しいので、この曲がなくなってしまったのは非常に残念でした。
Dream balletにも言えることですが、いずれもマリアの空想の世界を描いているんですよね。
マリアがこうなったらいいなという夢や希望を描いているシーン。
個人的には不満ですが、これらがなくなったことで、演出家の目論見通り無骨な男性の世界が強調されはしました。
映像の多用(別撮りとリアルタイム)
今回の上演を観て、一番最初に目につくのが舞台背景にもなっている大きなスクリーンでしょう。
別撮りの映像が流れる場合と、リアルタイムで舞台上の様子を演者が撮影したものを映す場合とがありました。
Jets Songでは別撮りのストリートを闊歩する演者たちの映像が背景に流れました。
どこかの批評では「男性用の香水のCMを見ているみたい」と書かれていましたが。
またマリアの部屋は囲われていて客席からはほとんど見えず、カメラでリアルタイムで撮られた映像が背景のスクリーンに映り、状況がわかるという仕組みになっていました。
『West Side Story』Ivo Van Hove演出。これは好き嫌いが分かれるかと思う。特徴:背景に映像が流れる。映像は劇中のリアルタイムのものと別撮りのものとがある。Docの店内やマリアの部屋は舞台奥にあり、客席から見えない部分を映す。rumbleで雨が降る。1幕構成でI Feel Prettyとdream balletが削除。 pic.twitter.com/vLahAf3zJe
— るん / Lune (@nyny1121) 2020年2月27日
忖度なしで言うと私は苦手。Jets Songあたりで「MV/映画もどきのコラージュ作品を観るために遠路はるばる来たわけじゃない!」と内心キレていた。新しいことに挑む心意気は応援したいけど、これは演劇と言えるか?背景の映像の方が役者より目立つし目で追っちゃう。映像でperformanceの魅力が半減以下
同じく映像を使ったミュージカルとして記憶に新しいのは、最近のCircle in the Squareでの『Oklahoma!』再演。
この時はリアルタイムの役者の顔をアップにした映像を壁に映していました。
舞台と映像のコラボレーションはこれからのトレンドになるのかもしれませんが、今回のWSSはやりすぎではないかと感じてしまいました。
iPhone使用による現代的な意味づけ
ランブルのシーンで、iPhoneを役者が持って舞台中を撮影して回り、その映像が背景に映るということがありました。
ここでiPhoneを持っているのは黒子ではなくキャスト自身です。
隠れることなく堂々と撮っていました。
クラプキ巡査が何か言おうとした時、すかさずiPhoneを取り出し、撮影を始め、「何か言うならこの動画をどこかに出すぞ」と脅しているようなシーンもあり、現代的な新たな意味づけが加わっていました。
Settingに年代が書かれていないからか…警察がジェッツ団に何か不都合なことを言おうとした時、「何か言うならこの動画出すぞ」と言わんばかりに、青年たちがカメラ(スマホ?)を向けて撮影し始めたので驚いた。「Gee! Officer Krupke」に道化なし。女性マネなし。拘置所に入る映像が流れて興ざめ。 pic.twitter.com/unM73A4OAe
— るん / Lune (@nyny1121) 2020年2月27日
振付の変更
ジェローム・ロビンスによるオリジナル振付はあまりにiconicで、シルエットだけでこの作品とわかるような動きも多いほどですが、本作の振付はアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルによるもので、現代的でSharksは特にプエルトリカン的な動きが多くなっていたようです。
つまり、あのfinger snapsもなく、「America」でのアニタたちがたっぷりした生地のスカートをぐわんぐわん言わせて振り回す振り付けもありませんでした。
それに合わせて、衣装もまたイメージと違っていました。特にアニタ。
all-whiteでないJets
また、Jetsはオリジナルや映画版ではall-whiteでしたが、今回はアフリカ系やアジア系なども含まれていました。
nativeとimmigrantの対峙を明確にしたのだと思います。
・体育館でのダンスの司会者が女性。
— るん / Lune (@nyny1121) 2020年2月27日
・シャークス団(ヒスパニック系)対ジェッツ団(それ以外の人種≠white only)
・リアルタイムを映すカメラは固定カメラと役者/黒子が持つカメラの2つある。
・「America」は女性が支持派、男性が反対派で映画版どおり。
・Tonyが「Maria」をやや過剰に陶酔しながら歌う(笑いが起こる)。スペイン語をまねてrを強調して発音してるからか?
— るん / Lune (@nyny1121) 2020年2月27日
・「Tonight」前のMariaとの再会のシーンは、Tonyが下から呼びかけるのではなく、同じ高さ。
・「Tonight」走り回りながら歌う。最後は2人はそれぞれの団員に引き離されながら歌う。
役者は『Once On This Island』でヒロインの相手役を演じたIsaac、『Carousel』再演で主人公の娘役(台詞なしの役)をダンスで表現したYesenia、同作でダンサーだったAmarなど、最近broadwayで観たメンツが多かったです。
Yeseniaさんはやっぱりダンサーで、アニタとしての声量は少し物足りなかったかなと。
BernardoのAmar RamasarとAnitaのYesenia Ayalaはバレエで選出された人なので「America」はピルエット多めでキレがある。この場面終わりは拍手喝采だった。この2人は『Carousel』でも観た。振付のためか、Anitaのドレスがかなりタイトめ。個人的には長い裾をぐわんぐわんなびかせて踊ってほしかった。
そして、マリア役がまだジュリアードの学生さんだそうですが、とても美しい歌声で、歌声だけで涙が出てしまうほど輝いていたので、ステージドアで感動を伝えたらとても喜んでくれました。
MariaのShereen Pimentelのソプラノが美しかった。「Boy Like That/I Love Him」では彼女の歌声があまりに圧倒的だった!彼女の歌声で「I Feel Pretty」聴きたかったなぁ。SDでもお話できて嬉しかった。 pic.twitter.com/Mmm8THKWD5
— るん / Lune (@nyny1121) 2020年2月27日
最後に、上にも書きましたが、ベルナルド役のAmarさんはニューヨークシティバレエでのことで劇場の外でデモが起こっていました。
詳細は下の動画を見てみてください。
この作品中にJetsらがAnitaを強姦しようとするシーンがあることに加えて、このAmarの騒動も持ち上がり、マリアのシーンも削除されたことから、「男性が女性をどのように扱っても問題にならない」というニュアンスがこのproductionから漂ってしまっていたのは、非常に残念なことだと思いました。
渦中の方、A.R.さん。普通にSDに出ていた。警備もなく。想像と違った。私はこの事件に関しては実際に現場を見ていたわけではないし、ノーコメント。ただ、彼のダンスは素晴らしかったとだけ言っておく。 pic.twitter.com/K5p5ZdR0np
— るん / Lune (@nyny1121) 2020年2月28日
最後に、ステージドアでの様子を載せておきます。
▼Anita役のYesenia Ayala
▼Riff役のDharon E. Jones. かっこよかったです!
▼渦中のBernard役のAmar Ramasar
▼Tony役のIsaac Powell
▼Maria役のShereen Pimentel. 一緒に撮ってもらいました。