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『Evita』2025.6.20.19:00 @London Palladium

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『Evita』とは

1978年ウエストエンドで初演され、1979年ブロードウェイで初演されたミュージカル。

作詞・脚本はTim Rice、作曲はAndrew Lloyd Webber。

今回は2025年にウエストエンドで再演されたプロダクションを観劇した。

演出はJamie Lloyd。

あらすじ

アルゼンチン大統領夫人エヴァ・ペロンの波乱に満ちた生涯を描く。

貧しい地方出身のエヴァは、成功を求めてブエノスアイレスに出て、女優として名声を得ようとする。

やがて、軍人フアン・ペロンと出会い、彼の政治的台頭とともに自身も国民的な存在へ上り詰める。

エヴァは貧困層の支持を集め、デスカミサードたちの象徴として絶大な人気を誇るようになる。

しかしその一方で、野心や権力志向への批判も受け、社会の分断を生む存在ともなる。

若くして病に倒れた彼女の死後も、そのカリスマ性と影響力は語り継がれていく。

キャスト

Eva Perón    Rachel Zegler

Che    Diego Andres Rodriguez

Juan Perón    James Olivas

Agustín Magaldi    Aaron Lee Lambert

The Mistress    Bella Brown

感想

このプロダクションが2025年の演劇シーンで注目を浴びていたのには大きく2つの理由があります。まず稀代の演出家Jamie Lloydとミュージカル界の大御所作曲家Andrew Lloyd Webberがタッグを組んだということ。2023年4月にブロードウェイで『オペラ座の怪人』が閉幕した後、Andrew Lloyd Webberは自身の過去作品を新たな捉え方で演出する再演シリーズ、いわゆる「ALWルネサンス」とでも言うべきフェーズに入りました。(これは2010年代に盛んだったリチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン2世による作品の再解釈に追随するものでした。)ALWルネサンスで大成功したのがJamie Lloyd演出の『Sunset Boulevard』です。ロンドン公演の盛況に続き、ブロードウェイでトランスファー後も話題となり、主演のニコール・シャージンガーにオリヴィエ賞およびトニー賞をもたらしました。

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この流れで今回の『Evita』をJamie Lloydが演出するのは自然な流れだったようです。

2つ目の理由は、無名の高校生からスピルバーグ監督による『West Side Story』でマリア役に抜擢されたRachel Zeglerのプロフェッショナルな舞台ミュージカルのデビューだったからです。Rachel Zeglerは学生時代から数々のアマチュアのプロダクションに出演してきて、その歌唱力は折り紙付きだったことから、長い間、彼女のミュージカル女優としての姿を生で観たいという声が上がっていました。プロフェッショナルの舞台デビューは2024年のブロードウェイでの『Romeo and Juliet』のジュリエット役でした。こちらは別記事に書いています

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この2つの理由からこのプロダクションが各所から注目されていたのは言うまでもなく、今回の渡英を決心した1番の理由となったわけです。

▼開演前

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Jamie Lloyd演出らしく舞台装置を極力排したセットを想像していましたが、舞台は一段一段が大きい階段状で、アンサンブルの一人ひとりのダンシングがつぶさに見えるので、彼らの一挙手一投足がシンクロする様に圧倒されました。特に「And Money Kept Rolling in」など。これだけで遠路はるばる来た甲斐があったというものです。

登場シーンのこれから成り上がろうという意気込んでいるエヴァは、黒いファー付きのビスチェ風トップスに短パンという現代的なカジュアルな出で立ち。この辺りJamie Lloyd的だと思いました。この衣装については、田舎町というhumbleな出自と彼女のhungryさを表していると感じました。彼女がペロンと結婚し、民衆の注目の的となると、その衣装が徐々に変わっていきます。『Evita』のオーソドックスなプロダクションで使われるドレスとお団子のウィッグに舞台上で着替え、彼女は民衆に語りかけるのです。彼女が偶像崇拝されていた様を表しているように思いましたし、彼女の二面性を表しているようにも思いました。

▼休憩中

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この作品の11 o'clock numberである「Don't Cry for Me Argentina」。このプロダクションではエヴァは劇場のバルコニーに出て外に向かって歌います。その様子を劇場前の通行人は無料で聴くことができるわけです。その噂を聞きつけた人々が劇場前に押し寄せてものすごい人だかりになっていました。客席には巨大なスクリーンにその様子が映像として流れます。作品にとって最もアイコニックな楽曲をチケットを買って入場している客は観ることができないことについて、さまざまな意見があったようです。でも、この演出こそがこのプロダクションの最たるものなんです。貧民層や庶民たちに対して訴えかけるエヴァの演説は、劇場に行くことができるような「富裕層」のためではないということ。「富裕層」たちはその様子をクーラーの効いた快適な空間から俯瞰しているに過ぎないということ。それをそのまま劇場という枠を超えて表現したJamie Lloydの才覚にただただ脱帽しました。

Rachel Zeglerについて、私は彼女が高校時代にYouTubeに「Michael in the Bathroom」のカヴァー*1を出していた頃から知っていますが、彼女は自分の歌唱力を理解していて、その才能を隠そうともしないタイプでした。見方によってはやや自惚れとも取れるかもしれない危うさがありましたが、実際に歌唱力や表現力があったので批判されることもありませんでした。そういう上昇志向とか強気な感じといった雰囲気を彼女からは感じてきました。なので、『West Side Story』のマリアとか白雪姫といったキャラクターは素の彼女とは離れているんですよね(もちろんそれぞれ役を全うして演じ切っていたと思います。)一方、今回のエヴァ役はまさに素の彼女に近い、といっても過言ではないと思います。ニュージャージーの田舎町からインターネットを介して世界に発信して成り上がっていった物語と、彼女の強気な性格や歌声がこの役に合っていました。これ以上にないプロフェッショナルなミュージカル・デビューだったと思います。

チェ役は『Sunset Boulevard』にも出演してJoe Gillisのunderstudyで話題となったDiegoが演じましたが、彼もとても良かったです。彼はRyo Kamibayashiくんのルームメイトということでとても身近に感じていたので、今回の大抜擢は嬉しかったですし、今後にも期待したいところですね。

▼カーテンコール

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劇場を後にしようとした時、座っていた席の数列後ろに、黒いキャップを被った見覚えのある面影が。もしや、いやまさか、と思いつつしばらくチラチラ見ていると、立派な彫りこみが見え、Jamie Lloydご本人だと確信しました。誰も話しかけないで素通りなのでどうしてかなと思っていましたが、どうしても伝えたくて話しかけました。「大ファンです。あなたの作品が大好きです。これからも頑張ってください」と。すると信じられないくらい柔らかい笑顔で「ありがとう」と返してくれました。

ぜひブロードウェイ・トランスファーを期待したいところですが、現在のブロードウェイでバルコニーがある劇場が限られていることやニューヨークで上演する場合は安全面の懸念もあり、上演に漕ぎ着けるにはいくつかハードルがありそうです。

*1:現在は削除されています。残念ながらメジャー・デビューをする時に多くのカヴァーが削除されてしまいました。