ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『The Notebook』2024.2.19.20:00 @Gerald Schoenfeld Theatre

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『The Notebook』とは

2022年にシカゴでプレミア上演され、2024年にブロードウェイで初演されたミュージカル。

原作は1996年に発表されたNicholas Sparksによる同名小説で、映画『きみに読む物語(2004)』の原作としても知られる。

作詞・作曲はIngrid Michaelson。脚本はBekah Brunstetter。

演出はMichael Greiff。

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あらすじ

老人ホームで、ノアは認知症を患う妻のアリーに、古びたノートに書かれた物語を読み聞かせる。

そのノートには彼らの人生が綴られていた。

アリーは大学に入学する前の夏休みにノアに出会った。

学校を中退して父の仕事を継いだノアと美術大学への進学が決まっている箱入り娘のアリーの恋はそもそも身分違いで、アリーの両親は彼が彼女と付き合うことをひどく嫌った。

それでもアリーは夜な夜な人目を忍んでノアに会いに行くのだが、彼女の両親に「ノアがアリーを誘拐した」と警察に通報されてしまう。

急いで逃げ去るノアに、アリーは自身の住所を伝え、互いに毎日手紙を書くと約束する。

2人は互いに会えないまま時間は過ぎ、アリーはノアからの返事を待つも全く音沙汰がなかった。

時代は移り変わり、アリーは両親が祝福する婚約者との結婚を間近に控えていたが、ある日、ノアの住んでいた家が売却されるという新聞記事を目にする。

アリーはノアの家に駆けつけ、彼と再会を果たすが、彼は1年間毎日彼女に手紙を書き続け、ベトナム戦争に従軍していた間も彼女のことを思い続けていたと告白される。

その後、彼女の母親がノアからの手紙を隠し持っていたことが判明する。

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キャスト

Older Allie    Happy McPartlin

Older Noah    Dorian Harewood

Middle Allie    Joy Woods

Middle Noah    Ryan Vasquez

Younger Allie    Jordan Tyson

Younger Noah    John Cardoza

Mother / Nurse Lori    Anréa Burns

Nurse Joanna / others    Yassmin Alers

Lon / others    Chase Del Rey

Sarah / others    Hillary Fisher

Georgie / others    Dorcas Leung

Johnny / Fin / others    Carson Stewart

Father / Son / others    Charles E. Wallace

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感想

シカゴ公演も絶賛されていたので、とても楽しみにブロードウェイ公演のプレビューを観に行きました。

▼シカゴ公演のtrailer


www.youtube.com

▼開演前

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主人公のカップルは青年期(young)、成人期(middle)、老年期(older)と3つの時代に応じて3組の役者によって演じられています。向こうみずな恋にまっしぐらな青年期、失望と恋の再燃を描く成人期、病におかされながらも最期まで相手を慈しむ老年期。ミュージカルシーンでは記憶の中の若い日の肖像として、時代を超えて役者同士が掛け合うこともありました(Older AllieがYounger Noahに向き合うなど)。また、3世代同時に登場し、2人の愛の普遍性を表す場面もありました。各世代で演者の人種は異なりますが、最初の方でそれぞれ同一人物であることが明示されていましたし、各役者が仕草や表情など互いに似るように演じていることがわかったので、観ていて混乱することはありませんでした。

2階建構造の舞台セット。印象的なのは水を使った装置で、青年期では舞台前方に設置された川でのやんちゃな戯れ、成人期では土砂降りの雨が抒情的に使われていました。

照明も現在の老人ホームのシーンと若い頃のシーンで変えていて、青年期ではどことなくぼかしがかかったように見えて雰囲気が出ていました。また、成人期の星空を背景にした場面はとてもiconic。

▼休憩中

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ハリウッド大作が次々に舞台ミュージカル化されることに関して、巷の舞台ファンの間では苦言が囁かれていますが、この作品が舞台ミュージカル化されたことについてはある点では意味のあるものだったと私は思います。それは、認知症におかされて多くの記憶を失ってしまった老年期のアリーが、終盤で音楽によって記憶が蘇る場面。音楽の記憶は言語の記憶と比べて残存しやすいと言われており、それを音楽が物語を彩ることが真骨頂のミュージカルとして表現できたのは意義深いと感じました。

役者はいずれも素晴らしいのですが、やはり注目すべきはMiddle Allie、成人期のアリーを演じるJoy Woodsでしょう。彼女がニューヨーク演劇界に最初登場したのはオフ・ブロードウェイで上演されている『The Little Shop of Horrors』のUrchin役だったと思います。この彼女のパフォーマンスを観ましたが、この時は今とは違うベリーショートの髪型でurchin(浮浪児)役にも関わらず、隠しきれないスター性があったんですよね。その後、同じプロダクションで主役のオードリー役に抜擢され、今度はオン・ブロードウェイの新作ミュージカルで主演と、この数年で躍進しているrising starです。実際、この作品の中でMiddle Allieのソロは3曲もあり、特に「My Days」では軽くショーストップする程でした。

その他、Middle Noahを演じたRyan Vasquez。彼も最近あちこちで引っ張りだこで人気なのですが、2023/2024シーズンのブロードウェイでオープンする新作ミュージカルのうち3作品(『The Notebook』『Water for Elephants』『The Outsiders』)の地方公演でメインキャストに名を連ねていて、最終的にブロードウェイでは『The Notebook』を選んだ形になりました。

▼終演後

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音楽を担当したのはシンガー・ソング・ライターのIngrid Michaelson。アーティストとしての活動がメインの方ですが、役者として、ブロードウェイでは『Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812』でSonya役で出演していたこともあります。

プレビュー期間ではありましたが、音楽、照明、舞台装置、キャストなど総合して全体的な完成度が高いと感じられ、間違いなく今シーズン押さえておくべき新作ミュージカルといえると思いました。