『Children of Eden』とは
1991年にウエストエンドで初演された、創世記を基にしたミュージカル。
作詞・作曲はStephen Schwartz。脚本はJohn Caird。
今回は2024年にリンカーン・センターで上演された、manhattan concert productionsによるプロダクションを観劇した。
演出・振付はTony Yazbeck。
あらすじ
父なる神によってつくられた人間、アダムとイヴ。
イヴは知恵の木に関心を持つが、父はなぜかそれを妨げようとする。
アダムとイヴは恋に落ち、エデンの園での生活は満ち足りたものにみえたが、イヴはまだ何か足りないと感じ、この世界の先に何があるのか好奇心を抑えられない。
蛇に唆されたイヴは禁じられた知恵の木の実を食べてしまい、父にエデンの園を追放されてしまう。
アダムは父とイヴの間で引き裂かれるが、最終的にイヴを選び、2人は一緒に庭園を去る。
その後、アダムとイヴの間にカインとアベルが生まれる。
カインとアベルは滝の先には行ってはいけないと両親に注意されていたが、ある日、峡谷の先まで足を伸ばしてしまう。
そこで、父なる神に出会い、カインは旅に出ることを決意する。
旅先でカインは石でできた指輪を見つけ、他にも自分達と同じような人間が存在する可能性を知り、興奮しながら家に帰る。
しかし、アダムは石でできた指輪の存在を以前から知っており、それを家族に隠していたことが発覚したことで、家族内で諍いが始まる。
その最中、カインは誤って石でアベルを殴ってしまい、アベルは死んでしまう。
この事件は父なる神の怒りを買ったため、カインの末裔は罪の印を背負って生きていくこととなる。
時代が経ち、ノアの一族は、カインの末裔と関わりを持ったことのない数少ない家族だった。
父なる神は洪水を起こしてカインの罪の印を全て洗い流すため、ノアに家族で逃げるための方舟を作るように指示する。
ノアの子どもたちのうち、末っ子であるヤペテは召使であるヨナと恋に落ちるが、ヨナはカインの末裔だった。
ノアは彼らの結婚を祝福せず、ヨナを方舟に乗せないと言い渡す。
ヤペテは密かにヨナを方舟に乗せて匿うことにするが、ついにヤペテの他の兄弟であるセムとハムに見つかってしまう。
兄弟間の争いに発展するが、ヨナが仲裁する。
思い悩むノアは父なる神と対話すると、父なる神はかつて自身も父として同じ悩みに遭遇したことを告白し、「もし愛しているのであれば手放しなさい」と説く。
キャスト
Yonah Auli'i Cravalho
Eve / Mama Noah Nikki Renée Daniels
Father Norm Lewis
Abel / Ham Lucas Pastrana
Adam / Noah David Phelps
Cain / Japheth Donald Webber Jr
Storyteller Quartet Jennifer McGill, Jesse Nager, Marcus Paul James, Rema Webb
Aphra Runako Campbell
Cain's Wife Dylis Croman
Seth's Wife / Aysha Karli Dinardo
Seth / Shem Zelig Williams
Storyteller Dance Ensemble Runako Campbell, Dylis Croman, Karli Dinardo, Tyler Hanes, Jakob Karr, Zelif Williams
Young Abel Ty Poulson
Young Cain Kayden Williams
感想
manhattan concert productionsは年1回、毎年2月頃に、コンサート形式のミュージカルを上演しており、今年は『Children of Eden』でした。来年は『Anastasia』だそうです。
『Children of Eden』は『Wicked』や『Godspell』などで知られるStephen Schwartzによるミュージカルですが、これまでブロードウェイで上演されたことはなく、ストリーミングにもちゃんとしたキャスト・レコーディングがほぼない状態で、これまで観たこともありませんでしたし、音源も聴いたことがありませんでした。プロフェッショナルだとあまり観る機会がないかと思いますが、コミュニティ・シアターのレベルだと各地で頻繁に上演されているそうです。
脚本は日本でも『レ・ミゼラブル』の演出家としてお馴染みのジョン・ケアード。
創世記のアダムとイヴ、カインとアベル、ノアの方舟のあたりのストーリーを合わせたミュージカルとなってします。
今回は普段ニューヨーク・フィルが演奏することの多いDavid Geffen Hallで開催されました。
演出と振付はなんとTony Yazbeck。彼は役者やダンサーとして有名で、『On the Town』や最近だと『Flying Over Sunset』に出演していますが、今回はクリエイティブとしての参加です。この演目は彼がお得意のタップダンスはないのですが、途中で蛇のコミカルなダンスや、さまざまな動物たちを模した独特な動き(コンテンポラリー・バレエやアクロバットに近く、組み体操のようなものもある)がみられ、これらを彼が振付したのだと思います。
まず、David Geffen Hallが通常のブロードウェイの劇場と比べてかなり大きな会場なのですが、その舞台の後方や客席の間の通路をばーっと埋め尽くすほどの大勢のクワイヤが参加し、壮大な創世記の世界観を作り上げていたのが今回のプロダクションの特徴だったと思います。
クワイヤはほとんど子ども〜青年で構成されていて、白い衣装を身にまとった彼らが会場に溢れる様子を2階から眺めるのは壮観でした。
舞台上には段があり、その下にオーケストラ、段上の後方にクワイヤがおり、その間をキャストが縫うようにして歩くスタイル。
コンサート形式ということもあり、特別な舞台装置はありませんでした。
また、上記の通りの豪華なキャスティング。これだけのキャストが集結しただけでも、見逃せない公演だったわけですが、特にイヴ役のNikki Renée Danielsの「Spark of Creation」や「Ain't it Good」は見事でした。
「Spark of Creation」は好奇心を抑えられないイヴが胸の高鳴りを歌い上げるナンバーで、フルで聴いていただくと最後の方でどことなく『Wicked』の「Wizard and I」を彷彿とさせる節があります。
観るまではキリスト教徒でもない日本人の私に理解できる話なのだろうかと一抹の不安がありましたが、最後の方では涙を止めることができませんでした。基本的には親子の話。親の心子知らずで、子どもなんて親の思い通りに育つわけなんてなく、子どもは約束は破るし、親が大切に近くに置いておきたいと思ってもどんどん自分の世界を広げていくわけですよね。いつか親は子どもから離れなければならない、それは昔から同じことで、世界共通なのだなと改めて思い、その上でクワイヤの子どもたちをみて、連綿と続く人類の歴史に思いを馳せました。
Stephen Schwartzのゴスペル調の音楽が生命賛歌のように響きました。
一夜限りのイベントとしてはもったいないと思ってしまうほど、このプロダクションは感動的で、ぜひレコーディングを残してほしいと願わずにはいられませんでした。
▼カーテンコールでは、この日来場していたStephen Schwartzにスポットライトが当たった