『& Juliet』とは
2019年にマンチェスターでプレミア公演され、同年ロンドンで初演、2022年ブロードウェイで初演されたミュージカル。
主にマックス・マーティンが作詞・作曲した楽曲を用いたジュークボックス・ミュージカル。脚本はDavid West Read。
演出はLuke Sheppard。
あらすじ
シェイクスピアの妻アン・ハサウェイの提案で、悲劇『ロミオとジュリエット』において、もしもジュリエットが死を選ばなかったら、というヴァージョンのお話を考えることになる。
ロミオの死後、ジュリエットは彼に複数の愛人がいたことを知り、ひどく傷つく。
塞ぎ込んでいたジュリエットは、親友でノンバイナリーのメイとともにパリに出かける。
アン・ハサウェイも「エイプリル」としてジュリエットを支える役柄として、自身を物語に登場させる。(April, May, July(Juliet)となっている言葉遊び。)
パリでメイは、男女で分かれたトイレや男女で言葉の使い方が異なるフランス語に戸惑いを感じてしまう。
ジュリエットは参加したダンスパーティーの主催者のフランソワに出会う。
フランソワは父ランスに厳しく躾けられており、ジュリエットと話すうちに打ち解け、徐々に彼女に惹かれる。
同じ頃、メイはフランソワに一目惚れするが、きっと振り向いてくれることなんてないと落ち込む。
これらの裏側でアンとシェイクスピアの夫婦の対立がより明確になっていく。
キャスト
Juliet Rachel Webb
Anne Betsy Wolfe
Shakespeare Stark Sands
Lance Paulo Szot
May Justin David Sullivan
Romeo Ben Jackson Walker
Angélique Melanie La Barrie
François Philippe Arroyo
Richard Michael Iván Carrier
Thomas Michael Iván Carrier
Cuthbert Nicholas DeJesus
Lord Capulet/Sly Bouncer Nicholas Edwards
Augustine Virgil Gadson
Rumour Bobby "Pocket" Horner
Kempe Joomin Hwang
Lucy/Helena Megan Kane
Gwynne Alana Vi Maderal
Fletcher Daniel J. Maldonado
Henry/Bathroom Attendant Joe Moeller
Lady Capulet/Nell Brittany Nicholas
Imogen Jasmine Rafael
Gregory Matt Raffy
Elenor/Benvolio/Portia Tiernan Tunnicliffe
Judith/Rosaline Kate Mina Lin
感想
度々書いているのでもうご存知かもしれませんが、私は既存曲を使ったジュークボックス・ミュージカルがどちらかというと苦手です。
そのため、この作品に関しても全く期待していませんでしたが、実際観たら意外と楽しかったので、少し書いてみたいと思います。
▼ウェストエンド公演のtrailer
1本目『& Juliet』ジュリエットがもしも死ななかったら…という世界を通してシェイクスピアの妻アンが内に秘めた思いを吐露する。フェミニズムの色濃い鮮やかなジュークボックスミュージカル。随所にシェイクスピア作品の台詞が登場。個人的にはベッツィ・ウルフを初めて拝めて最高だった。 pic.twitter.com/bjirIIvxOY
— るん / Lune🌐 (@nyny1121) 2023年3月15日
OBCRを聴いてもいわゆるカラオケにしか聞こえなかったのですが、実際に観劇して物語の中でこの曲を聴くと、なるほど、と腑に落ちることもあり、その点で興味深いなと思いました。
例えば「I'm Not a Girl, Not Yet a Woman」。
原曲はブリトニー・スピアーズが歌っていますが、本作の中ではノンバイナリーのメイが歌得ことで、「while I'm in between」という歌詞が「少女と大人の女性の中間」ではなく「男女という二元論の中間」という意味合いになっていることです。
ここに、フランス語などの欧州言語の特性を引用しているのも面白いです。
実際、メイ役をノンバイナリーの役者さんが演じているのも素晴らしいことだと思いました。
本作がブロードウェイデビューのデイヴィッド・サリヴァンが、繊細で情感豊かに歌い上げている様子は感動的でした。
ただし、これは個人的な意見ですが、お話の流れをみると、メイという役柄はノンバイナリーと規定するよりもジェンダー・ノンコンフォーミングとする方が適しているのでは、とも思いました。
いずれにせよ、LGBTQ+は昔から存在していたことを示し、数少ないトランスジェンダーの役をメインに据えたことは、ブロードウェイコミュニティにおいても、トランスジェンダーコミュニティにおいても、意義深いことだと思います。
このノンバイナリーであるジャスティンが、役者が男女で部門分けされているトニー賞のノミネーションを棄権したことは記憶に新しいですが、早くトニー賞も役者部門のジェンダー分けについて議論し、どのようなジェンダーの役者にとっても居心地の良い、真の意味でinclusiveな環境になってほしいものです。
このお話はジュリエットという架空の人物を通したアン・ハサウェイの物語だと思います。
実際にアン・ハサウェイが文筆家として活動していたのかはわかりません。(英国演劇の専門家ではないですが、ざっとインターネットで調べた限りではそのような史実はないようでした。)
ただ、男性しか舞台に上がれないなど、演劇は男性のものという意識が強かったシェイクスピアの時代に、女性であるアンが夫の作品に意見するということと、今日のフェミニズムを重ねて描いているのがとても面白いと思いました。
このアンを巧みに演じているのがベッツィー・ウルフ。流石でしたね。
スターク・サンズ演じるシェイクスピアは、ややあっけらかんとした男性として描かれていて、時々「この台詞は僕が書いたんだよ」と自作の自慢をします。
物語の進行とともにこの夫妻の対立が顕在化してくることで第二幕は盛り上がっていきます。
ところで、ジュリエットたちがパリで出会うフランソワの父役がパウロさんということは驚きでした。
パウロさんはブロードウェイだと『South Pacific』で観ているのですが、主な活動の場はオペラで、メトロポリタンオペラにも出演されているオペラ歌手。
本作ではポップスを歌っているわけですが、当然圧倒的な歌唱力で、「パウロさん、こんなこともされるのですね」と内心クスクスしながら観ていました。
あとは、フランソワとメイのカップルがとにかく可愛らしくて、彼らのキスシーンに会場は黄色い声で溢れていました。
冒頭の始まり方はspontaneousで、演者が唐突に舞台に登場してダンスを踊り始めたり、観客に話しかけたりするスタイル。
舞台上には「& Juliet」のロゴのネオンサインに加え、よくみるとその周囲にバラバラになったRomeoのロゴがありましたが、二幕の冒頭ではRomeoのロゴがメインとなり、彼の復活を表しているようでした。
背景の上2/3はLEDパネルで鮮やかに舞台を彩っていました。
アンサンブルキャストのエネルギッシュなダンスも、派手な舞台装置と相まって、作品に活力をもたらしていました。