ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Camelot』2023.3.15.20:00 @Vivian Beaumont Theatre

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Camelot』とは

1960年にブロードウェイで初演されたミュージカル。

アーサー王伝説をもとにした1958年のテレンス・ハンベリー・ホワイトによる小説「永遠の王」が原作。

作曲はフレデリック・ロウ、作詞はアラン・ジェイ・ラーナー。

今回観劇したのは2023年3月からプレヴューが開始されたリバイバル公演で、脚本は元々のアラン・ジェイ・ラーナーのものをもとに、アーロン・ソーキンが手がけた(脚色ではない)。

演出はバートレット・シャー。

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あらすじ

以前書いた映画版のあらすじを参考にしてください。

nyny1121.hatenadiary.com

キャスト

Arthur    Andrew Burnap

Guenevere    Phillipa Soo

Lancelot du Lac    Jordan Donica

Merlyn    Dakin Matthews

Pellinore    Dakin Matthews

Mordred    Taylor Trensch

Sir Dinadan    Anthony Michael Lopez

Morgan Le Fey    Marilee Talkington

Tom of Warwick    Camden McKinnon

Lady Catherine    Tesia Kwarteng

Sir Lionel    Danny Wolohan

Sir Sagramore    Fergie Philippe

Pages    Holly Gould, James Romney

Dap    Paul Whitty

Clarius    Ann Sanders

Lady Sybil    Delphi Borich

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感想

Camelot』は今回の遠征で必ず観ようと心に決めていた作品の一つでした。

『My Fair Lady』などで有名なラーナー&ロウのコンビによるミュージカルで、1967年に映画化もされていますが、舞台版が再演される機会が非常に少なく、今回は30年ぶりのブロードウェイ再演でした。

この作品の魅力は非常にロマンティックなナンバーにあると思うのですが、やや冗長な脚本がネックと言われてきました。

今回はその点をリニューアルするべく、アーロン・ソーキンが脚本を担当し、元の舞台の良さを残しながら新たな『Camelot』として提示されるということで、事前にチケットを購入して観に行きました。

意外だったのはソーキンは大学時代、ミュージカルシアターを専攻していたということ。彼の長いキャリアの中で、今回初めてミュージカル作品に関わることになったそうです。


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▼観劇直後の感想

 

アーロン・ソーキンによる脚本(以後、ソーキン版と呼びます)では、元のヴァージョンにあった魔法の要素を極力消し、より現実的な出来事として現代の観客が捉えられるように変更されたようです。

例えば、石に刺さった剣を抜いた奇跡を起こしたとされるアーサーについて、ソーキン版では実は石に刺さった剣を抜いた人物はアーサー以前にもいたと明言されます。つまり、アーサーをより平凡な男性として描いているのです。

さらにモードレッドの母で、アーサーと過去に関係を持ったとされる魔女のモーガン・ル・フェイは、科学者に変更されています。

また、アーサーを導いてきた魔法使いマーリンの関与も最小限になっているようです。

このように魔法の要素を少なくすることで、アーサーとジュヌヴィエーヴ、ランスロットの三角関係やロマンスの色を濃くし、民主主義によって平穏な理想郷としてのキャメロットをより身近に感じられるようにしたようです。

魔法が幅を利かせる世界ですと、結局、政治にしろ恋愛にしろ、どんな出来事の原因も「魔法」で片付けられてしまい、人間ドラマとしての面白さが薄れてしまう、ということなのだと思います。

この脚本は以上の点でとても効果的に作用していて、個人的にはこのソーキン版に心から拍手を送りました。

ミュージカルナンバーは大きな変更はありませんでしたが、元々はジュヌヴィエーヴが歌う「I Loved You Once in Silence」が、今回のプロダクションではランスロットによって歌われました。OBCRではジュリー・アンドリュースが美しいソプラノで歌いあげるこのナンバーは、ジョーダン・ドニカによって歌われると全く違った雰囲気になり、どちらも甲乙つけ難い魅力があると感じました。彼の歌う「I Loved You Once in Silence」はこちらで聴くことができます。

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まず場内に入ると、しんしんと雪が降りしきり、雪を模した白い布で覆われた荒涼とした大地が舞台上に広がっていました。これに限らず四季の移り変わりを表した舞台美術の一つ一つが、ハッと息を呑むような美しさ。

登場シーンでのジュヌヴィエーヴはパンツスタイルで、姫君らしさはなく新鮮でした。

映画版では冒頭のアーサーとジュヌヴィエーヴの出会いの時点で、かなり彼女は彼にかなり惹かれている様子が演技で表されていましたが、今回のプロダクションでは表面的にはよそよそしさが残ったままでした。2人の雰囲気は最終場面でお互いの気持ちを告白するまで続き、途中で、アーサーはジュヌヴィエーヴに対して「君はいいビジネスパートナーだ」と発言するなど、妻に対する思いを口にすることはありませんでした。このように、アーサーとジュヌヴィエーヴは実は互いに思い合っているけれど、ともに恋愛慣れしておらず、直接的に愛情表現できないというような印象を受けました。


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それとは対照的に、ジュヌヴィエーヴとランスロットは、アーサーが脳震盪で意識を失った出来事をきっかけに急速に惹かれ合う様子が誰の目にも明らかに演じられますが、映画版にあったような人目を忍んで逢瀬を重ねることはなく、ランスロットがジュヌヴィエーヴを会いに行っても、彼女は毅然と拒みます。しかし、遂にランスロットが国を去ることになり、最後の最後で彼がフランス語で数語口走り、それまで食い止めていた何かが消え去り、2人は結ばれる、その流れがとてもロマンティック。

彼らの関係を嗅ぎつけ、アーサーが科学者モーガンの元を訪れている間に突撃した、アーサーの不義の子モードレッドを演じたのはテイラー・トレンチ。『Dear Evan Hansen』 のタイトルロールの後続で知られますが、見事な憎まれ役を演じていました。

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以上の通り、この作品は三角関係が注目されがちで、実際にとてもロマンティックですが、それと同時に、伝説にもなった英国王アーサーでさえ家庭内は穏やかでなく、部下に裏切られるなど痛い目にあいながらも国を治めることに注力したことが描かれており、それがソーキン版ではアーサーがより平凡な男性としてみえることで、彼の悲哀がより痛烈に感じられるように思いました。


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アーサー役のアンドリューはプレイ『The Inheritance』でトニー賞を受賞し脚光を浴びましたが、ミュージカルはおそらく今回が初だと思われますが、歌唱も無難にこなしていました。

ジュヌヴィエーヴ役のフィリッパは『Hamilton』や『Amelie』などでお馴染み。さすがでした。

ランスロットを演じたジョーダンは同じくバートレット・シャーによって演出されたVivian Beaumontでの『My Fair Lady』再演のフレディ役で知られますが、前作に引き続き、Lerner & Loewe作品への出演となりました。

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参考文献:

1. Lincoln Center Theatre Review, Spring 2023, Issue No.78

2. Aaron Sorkin Battled a Stroke as He Reimagined ‘Camelot’ - The New York Times