ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

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『Sleep No More』2023.10.25.16:00 @The McKittrick Hotel

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『Sleep No More』とは

2003年ロンドンで初演され、2011年にオフ・ブロードウェイで初演されたイマーシヴ・プレイ。

シェイクスピア作の『マクベス』を基にし、ヒッチコック監督によるフィルム・ノワールや、1679年にスコットランドのペイズリーで起きた魔女裁判に影響を受けている。

脚本はイギリスの劇団Punchdrunk。

感想

The McKittrick Hotelで10年以上ロングランされてきた『Sleep No More』が2024年3月にクローズすると聞き、急いで行ってきました。

噂にはずっと聞いていたものの観劇するのは今回が初めて。

『Sleep No More』は最近では一般的となったimmersive theaterの先駆けというイメージ。

土曜日だとマチネとソワレの枠で行くことができるため、行ってみました。

前の枠で観ていたMCC Theaterの『Walk on Through』が15時45分に終演したため、入場予定時間の16時まで15分しか移動時間がなく、地下鉄では確実に遅刻するため、予約しておいたタクシーに乗って急いで会場に向かいました。ギリギリ16時に到着しましたが、15〜16時の間のいずれかで入場すれば良かったようで、特に支障ありませんでした。16時を少し過ぎて到着していた人もいましたが、問題なく入れていました。

▼trailer


www.youtube.com

The McKittrick Hotelは一見するとそれとわからず、『Sleep No More』に入場する列ができていなければ気づかずに通り過ぎてしまっていたかもしれないほど、なんの変哲もない建物でした。

到着してスタッフに声をかけると、チケットホルダーである証明として、右手にThe McKittrick Hotelの™️にもなっているパイナップルのスタンプを押してもらいました。

外の入り口に立つスタッフからして、すでに『Sleep No More』の世界観を受け継いだ話し方*1をされます。

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貴重品(主にiPhoneと財布)以外(コートも含む)を預け、渡されるポシェットに貴重品を入れて鍵をかけ、バーに通されます。このバーも1930年代のマンダレイ*2にあるという設定。

その後、順番に小部屋に集められ、注意事項が伝えられ、マスク(クチバシみたいのがついた白いお面)をつけて、いよいよ入場します。

エレベーターで私は確か、5階に案内されました。人数調整のためでしょうか、3階で降ろされた方もいらっしゃいました。

ホテルは5階建てで、各階でそれぞれ別の展開が繰り広げられ、観客は思い思いに移動できますが、最後には同じ部屋に集まる形になります。

演者は一言もセリフを発することなく、時にコンテンポラリー・ダンス、時にアクロバットと、身体表現のみで物語を提示します。

5階でエレベーターを降りて、薄暗い病室を歩いた時は「ここはお化け屋敷か」と思ったほど。ホラーが苦手な人間としてはかなり怖かったので、近くにいる人からなるべく離れないように必死でついて行きましたが、知らないうちに散り散りになりました。

とにかくストーリーを追いかけるために役者を追いかけて階段を上がったり下がったりを繰り返すのですが、事前に『マクベス』やヒッチコック作品を観ていたものの、この物語を理解するのは難しかったです。最後まで観て、何となくわかったかな…という程度。

各階、1時間の同じシークエンスを3回繰り返すので、様々なキャストについていくうちに徐々に朧げに話がわかる、のかな。

内容が複雑すぎるため、今回はあらすじは割愛させてもらいました。また、Playbillが配布されずキャストボードを撮影し損ねたのでキャストも不明です。残念。

通常、劇場では同じ場所に座って、そこで受容した情報から状況を理解しますが、この作品では「自ら物語を見つけにいく」というこれまでにない能動的なスタイルで面白かったです。

また、演者と同じ高さで観劇し、今まで経験したことがないほどの近さで演者を目の当たりにするので、臨場感が凄まじかったです。ただnudityや乱闘シーンもあるので、役者さんの身の安全が心配になりました。実際に、キャストは突然、全速力でダッシュすることがしばしばあり、普通に観客を押しのけていました。

キャストに耳元で何かを囁かれたり(私は囁かれなかったので何を囁かれたのかはわからないです。)、手を引かれて突然ダッシュされたり、観ている方も安心していられないという状態。

上に書いた通り、セリフなしの身体表現のみで物語は伝えられるわけですが、このコンテンポラリー・ダンスは何か音楽や拍子に合わせている訳ではなかったので、驚きでした。

確かに館内には1930〜1940年代らしいジャズ、ブルース調の音楽が流れていることもありましたが、それはあくまでBGMであり、それに合わせて動きが起こることはなく、ダンス(ダンスという表現自体、正しいのかわかりませんが)はその場にいる役者同士の阿吽の呼吸で始まり終わる、というのが、これまで観たことのない類の舞台芸術でした。

バレエもセリフはないけれど、通常は音楽に合わせてこそですし。

とにかく圧倒され通しでした。

2024年1月10日の時点では、2024年3月31日にクローズすると発表されているため、それまでに渡米される方はぜひ。

*1:TDLホーンテッド・マンションのキャストのようです。

*2:レベッカ』の舞台