『Once Upon a One More Time』とは
2021年のワシントンDCでのトライアウト公演の後、2023年にブロードウェイで初演された、ブリトニー・スピアーズの既存曲を用いたジュークボックス・ミュージカル。
物語はブリトニー・スピアーズの人生とは関係がなく、脚本はJon Hartmereによる。
演出・振付はKeone & Mari Madrid。
あらすじ
シンデレラをはじめとする、おとぎ話の登場人物たちが日々、各々に割り当てられた役割をこなしている世界は、ナレーターによって支配されていた。
ヒロインは王子と出会い結婚して幸せに暮らすという筋書きを毎日全うする中で、主人公たちは物語そのものに疑問を持つ。「もし王子を愛せなかったら」「結婚するという結末以外にもっと幸せになれる道があったら」と。
そこにO.F.G.(=Original Fairy Godmother)が現れ、自分たちで物語を作ったらいいのではと彼女たちに提案する。
シンデレラの継母はナレーターと共謀して、何とか自分の娘たちをチャーミング王子に見初めてもらうように画策する。
しかし事態は思わぬ方向に進んでいく。
キャスト
Cinderella Briga Heelan
Prince Charming Justin Guarini
Stepmother Jennifer Simard
Narrator Adam Godley
O.F.G. Brooke Dillman
Snow White Aisha Jackson
Belinda Amy Hillner Larsen
Betany Tess Soltau
Little Girl Isabella Ye
Rapunzel Gabrielle Beckford
Sleeping Beauty Ashley Chiu
Clumsy/Prince Ebullient Nathan Levy
Prince Erudite Ryan Steele
Princess Pea Morgan Whitley
Little Mermaid Lauren Zakrin
Belle Lic Battista
Esmeralda Pauline Casiño
Gretel Selene Haro
Prince Brawny Joshua Daniel Johnson
Goldilocks Ryan Nixon
Red Riding Hood Justice Moore
Prince Mischievous Kevin Trinio Perdido
Prince Gregarious Mikey Ruiz
Prince Suave Josh Tolle
Prince Affable Stephen Scott Wormley
感想
月曜日で基本的にブロードウェイの多くの作品がお休みの中、この作品は上演していたので観に行くことにしました。
ブリトニー・スピアーズがこれまでに発表してきた楽曲を使ったジュークボックス・ミュージカルですが、フェミニズムの流れを汲んだファミリーで楽しめる作品に仕上がっていて度肝を抜かれました。
ワシントンDCからブロードウェイに移る際、だいぶブラッシュアップされて短縮されたようです。
▼trailer
ニューヨーク・マリオット・マーキス内にある劇場前には多くのフォトブースがあり賑わっていました。
私は売店でこのトートバッグを見つけて思わず購入。これを持って日本で観劇に行ったら、ちょっぴり嫌味になるかもしれません(笑)。
会場に入る前、こちらのリストバンドをもらいました。
チケットはTKTSで、メザニンセンター10列目あたりで$80+α。ステージからやや離れた席でしたが、照明が派手で音楽も爆音なので、このくらい離れていてちょうどよかったなと観ていて思いました。
▼観劇後の感想
6本目『Once Upon a One More Time』御伽話の姫達がウーマンエンパワメントに影響され変わっていく。ブリトニー・スピアーズの音楽で綴られたジュークボックスミュージカル。期待しないで行ったら意外と楽しかった。派手な照明や音楽、キレのあるダンス、魔法のような仕掛け。family-friendlyな良作。 pic.twitter.com/vflm8kf2vk
— るん / Lune (@nyny1121) 2023年6月20日
最近の『& Juliet』や『Six』、『Bad Cinderella』といった作品を連想させるようなフェミニズムの色濃い作品で、古典作品を現代的な視点から捉え直しています。
課された役割を疑い、自らの道を自身で見つけようと立ち上がるプリンセスたちに、O.F.G.が差し出すのがウーマンリブ運動に関わったベティ・フリーダン著『新しい女性の創造』The Feminine Mistique(1963)である点からもそのことはわかります。
登場するプリンセスたちは、中心となる『シンデレラ』、その友人である『白雪姫』をはじめ、『ラプンツェル』『眠れる森の美女』『エンドウ豆の上に寝たお姫様』『リトル・マーメイド』『美女と野獣』のベルなど。
例えば、白雪姫が寝ている間に王子が同意なしでキスするなど、古典作品に潜む性的ハラスメントの可能性についても言及されます。
1人だけ登場する子役が物語の読者として傍観しているのが特徴的で、観客の子どもたちにもこの作品のメッセージが伝わりやすくなっていました。
ブリトニー・スピアーズのイメージ通りとにかく派手なショーではありますが、ファミリーで楽しめるミュージカルに仕上がっていて、実際、メザニンは家族連れで溢れていました。
ダンスシーンがいずれもキレッキレでかっこよかったです。
▼リハーサル映像「Circus」
はや着替えや舞い散るキラキラなど、どこかで観たことがあるトリックばかりではありましたが、おとぎの国を彩る舞台の魔法が随所にありました。
最後はメガミックスで、入場の時にもらったリストバンドを光らせてスタンディングで大盛り上がり。
キャストでは『Company』でトニー賞にノミネートされたJennifer Simmardがシンデレラの継母役として圧倒的な存在感を放っていました。この話の主役はシンデレラですが、個人的には、・・・starring Jennifer Simmardでしかありませんでした。「Toxic」終わりの盛り上がりは凄まじかったです。
彼女と一緒に企みを働くナレーターは『The Lehman Trilogy』も出演したAdam Godleyで、彼のパートナーが脚本を担ったJon Hartmereという繋がりがあります。
シンデレラの友人である白雪姫を演じたAisha Jacksonはブラックの方で、最近では『The Frozen』のAnna役のU/Sだったのが記憶に新しいですが、今回もracial issueに対峙する配役で、ブラックだけれど白雪姫、ということを自ら笑い飛ばすようなセリフもありました。
『& Juliet』が好きであればお好みに合うと思うので、ブリトニー・スピアーズという先入観を一度捨てて観ていただきたいなと思います。