
『Oh, Mary!』とは
2024年にオフブロードウェイ、ブロードウェイで初演された、Cole Escolaによるプレイ。
エイブラハム・リンカーンの妻として知られるメアリー・トッド・リンカーンをモデルにしているが、史実とは大きく異なり、コメディ・タッチで描かれている。
タイトルはメアリー・トッド・リンカーンのMaryと、ゲイを表す隠語であるMaryの掛け言葉となっている。
今回はブロードウェイ公演を観劇した。
1幕構成。
演出はSam Pinkleton。

あらすじ
メアリー・トッド・リンカーンは人目を忍んで禁じられている酒を楽しむが、夫のエイブラハムに見つかってしまう。
戦争で酒を楽しんでいるどころではないと夫に叱られるが、メアリーは全くそんなことに気を留めていない様子で、いつかキャバレーの舞台に立つことを夢見ている。
一方、エイブラハムは男性に色目を使ってしまうことを密かに自覚していたが、そんな意識を懸命に抑えている。
暇を持て余すメアリーに夫は趣味に勤しむよう勧め、メアリーは演技のレッスンを受け始め、演技の先生と恋に落ちる。

キャスト
Mary Todd Lincoln Cole Escola
Mary's Husband Conrad Ricamora
Mary's Teacher James Scully
Mary's Chaperone/Bill Bianca Leigh
Mary's Husband's Assistant/Kyle Tony Macht
感想
オフ・ブロードウェイ公演のあまりの評判の良さから、今回の遠征で観ないわけにはいかなかったこの作品ですが、想像を遥かに上回る面白さで、観客の笑いで劇場が揺れるのを初めて体感しました。曜日によっては17時開演の枠があるので、既存枠と被らずに観ることができ、短期滞在者にとってはありがたかったです。基本的にブロードウェイのチケットは現地に到着してから調達するのですが、この作品は人気と聞いていたので1週間前に公式サイトで確認したら、観る予定の回の残席がなんと1席のみだったので、慌ててその場で購入したのでした。
▼役者やクリエイティブらへのインタビュー

まず場内に入ると紫色の緞帳が目に入り、バーブラ・ストライサンドやパティ・ルポーンといったstrong female vocalistsの音源が陽気に流れており、会場全体が"gay vibes"に溢れていました。この時点で「あ!これこそ私の大好物」と確信しました。
メアリー・トッド・リンカーンはエイブラハム・リンカーンの妻で、悪妻として有名ですが、史実に基づいているわけではなく、作者のCole Escolaによってデフォルメされ、Cole Escola自身によって滑稽に演じられています。メアリーは巻き髪をブンブン振り回して、輪っかのドレスをぐわんぐわん揺らしながら、舞台を縦横無尽に動き回ります。大好きなお酒をやめられなかったり、キャバレーのスターになることを本気で目指していたり、現実をいまいち理解できていないところもあるけれど、人間的で愛すべきキャラクターとして描かれています。
一方、エイブラハム・リンカーン(劇中ではメアリーの夫と呼ばれるのみ)はゲイであることを隠しながら生きている様子が描かれます。歴史的な記録から彼が同性愛者であったことを示唆するものがあることにヒントを得たと思われますが、これもCole Escolaの想像の賜物です。クローズドのゲイの内的な葛藤を扱っている時点で、ブロードウェイ業界がこの作品を愛さないわけがありません。
Cole Escolaという人についてはこの作品を通して知りましたが、長年、映像作品や自身のYouTubeチャンネルなどでコメディックな演技やパフォーマンスを披露し、有名だったようです。その芸風を舞台で披露したのがこの『Oh, Mary!』。本作で華々しくブロードウェイ・デビュー(役者としても劇作家としても)を飾ることになりました。
▼Cole Escolaの作品
誰もが知っている歴史上の人物を、Cole Escolaのレンズを通して滑稽に描いている点、Coleを含めて*1様々なジェンダー背景を持った役者を配している点*2、など、ヒットの要因は様々あったと思いますが、やはりコロナ禍を経て、多くの方がこういった何も考えずにお腹の底から笑えるプレイを待っていたんじゃないかと思います。昨シーズンから、社会派もしくはシリアスなプレイが続いていましたから。80分、1幕構成でサクッと観られるのもちょうど良かったです。笑いつつ涙が出てきて、この作品の笑いによるヒーリング効果を実感しました。
滑稽とは書きましたが、いわゆる「man in a dress」*3で笑いを取っているわけではありませんでした。単純に役者の演技が面白くて笑ってしまうだけで、役者のジェンダーが頭に思い浮かぶことはありませんでした。Cole Escolaの演技の巧みさ、実に見事でした。
もし今ニューヨークにいるとしたら、ある程度奮発しても観る価値のある作品だと思います。おすすめです。
