『Water for Elephants』とは
2023年アトランタでプレミア上演され、2024年ブロードウェイで初演されたミュージカル。
原作はサラ・グルーエンによる同名小説(邦題『サーカス象に水を』)。この小説は映画化もされた(邦題『恋人たちのパレード(2011)』)。
作詞・作曲はPigpen Theatre Co.による。脚本はRick Elice。
演出はJessica Stone。
あらすじ
あるサーカス団を訪れた老人は昔を懐かしみながら、若き日にサーカス団で仕事をしていた経験について語り始める。
ジェイコブは獣医を目指して勉強に励んでいたが、卒業を間近に控えた頃、両親を不慮の事故で突然亡くす。
結局、学費を支払えないことから大学を去り、放浪の旅に出たジェイコブは、紛れ込んだ電車でオーガスト率いるベンジーニ・ブラザーズ・サーカスの一座に出会う。
オーガストはジェイコブが獣医であることを知り、彼を雇い入れる。
サーカスの団員の中にはオーガストの妻マーリーナがおり、彼女が新たに担当することになった象をジェイコブも一緒に調教するうちに、彼はマーリーナに惹かれていく。
そのうち、ジェイコブはオーガストが動物や団員たちに対して厳しく当たることを知る。
マーリーナと駆け落ちすることを考えるようになるジェイコブだが、2人の関係をオーガストに勘づかれてしまう。
キャスト
Mr. Jankowski Gregg Edelman
Camel Stan Brown
Wade Wade McCollum
Walter Joe De Paul
Barbara Sara Gettelfinger
August/Charlie Paul Alexander Nolan
Marlena/June Isabelle McCalla
Jacob Jankowski Grant Gustin
感想
映画化もされたベストセラー小説が舞台ミュージカル化され、各方面から期待が寄せられているミュージカル『Water for Elephants』を観てきました。
アクロバットや曲芸の数々や、動物との心の交流とともに描かれるラブストーリーに仕上がっていました。
▼trailer
▼開演前
▼プレビュー初日ということでプレゼントをいただきました。このプロダクションは象を保護する団体と提携しているようです。
タイトルにある象は、最初なかなか心を開かず言うことを聞かないという設定なのですが、その時は象の身体の一部(鼻だけ、とか、耳だけ、など)のみが舞台上に登場する形になっていますが、その後、徐々にマーリーナ達と心を通わせられるようになるにつれて、全身が明かされていくという形になっていました。最初から全貌を明かさない見せ方は面白いなと思いました。動物のマペットは『The Lion King』や『Life of Pi』のいずれとも違うタイプのもの。人が中に入るスタイルで、象の四肢の間の胴体から人の足が見えていました。ポーランド語で意思疎通ができるようになった象のつぶらな瞳がぱちぱち瞬きするのが可愛らしかったです。
舞台装置として登場するのは、大きいものとしてサーカス団が移動する列車がありますが、私が観た時は列車らしい縦揺れは全くなく、静止したままの金属の格子の中に乗客がいるという形でした。もしかするとプレビュー中で装置が間に合わず静止させていたのかもしれませんが、電車の揺れに合うようなナンバーもあったので、もったいないなと感じました。
最も気になっていた終盤の動物達の大脱走ですが、これは暗転して静止した逃げ惑う人々を部分的にスポットライトで照らしてみせることで表現していました。
音楽はPigpen Theater Co.というグループによるものですが、彼らは本作で初めてオン・ブロードウェイの作品を手がけたようです。元々はカーネギー・メロン大学の演技コースの学生たちの集まり。これまで、ジュークボックス・ミュージカル以外で、ミュージカルの音楽をグループで担当するのはあまり聞いたことがなく、新しい存在だと感じました。彼らの音楽はアメリカーナ、主にフォークで、正直にいうと玉石混淆で完成度はナンバーによりまちまちですが、列車で揺られながら旅をするサーカス団員たちが歌う「The Road Don't Make You Young」は朗らかで楽しいナンバー。
▼「The Lion Has Got No Teeth」
▼「The Road Don't Make You Young」
『The Prom』のOBCのAlyssa役で知られるIsabelle McCallaはアトランタ公演に引き続き、夫と青年の間で揺れるマーリーナ役を好演しています。先祖がサーカス団と一緒にハイチにやってきたというエピソードを持つ彼女は、この作品に縁を感じているようです。
ブロードウェイデビューを飾ったGrant Gustinが若いジェイコブ役。2012年のJesus Christ Superstar再演などで知られるPaul Alexander Nolanが少々トリッキーなオーガスト役。
個人的に嬉しかったのは大好きな作品である『City of Angels』のOBCのStine役であるGregg Edelmanを観られたこと。
サーカス団員でアクロバットを担当する役者達はオーストラリアやブラジルなど各国からサーカスの教育を受けた方々が抜擢されているようです。
振付はShana CarrollとJesse Robbによるものですが、彼らはシルク・ドゥ・ソレイユの演出や振付をしたこともあるようで、Carroll氏の方はCircus designerの肩書きもあります。
プレビュー初日ということもあり、ややもたつく感じは否めず、年老いたジェイコブの話は迂遠で冗長でした。正直、作品の完成度としては同じプレビュー期間だった『The Notebook』の方が上。ただし、この辺りをプレビュー期間中にブラッシュアップすれば違ってくると思いました。