
『Operation Mincemeat』とは
2019年ロンドンでプレミア上演され、2023年ウエストエンドで初演、2025年ブロードウェイで初演されたミュージカル。
第二次世界大戦中、イギリス軍がナチス率いるドイツ軍に対して行ったミンスミート作戦を題材としている。
脚本・作詞・作曲はコメディグループ「SpitLip」のメンバーでもある、David Cumming、Felix Hagan、Natasha Hodgson、Zoë Robertsによる。
オリヴィエ賞では6部門でノミネートし、2部門(ミュージカル作品賞、ミュージカル助演男優賞)で受賞した。
今回はブロードウェイ公演プレビュー初日を観劇した。
演出はRobert Hastie。

あらすじ
舞台は1943年、イギリスの保安局、軍情報部第5課(MI5)。
ジョン・ビーヴァン大佐は政府からの要請により、イギリス軍が実際に攻め入る予定のシチリアではなく、サルディーニャ島を攻撃するとナチスに思い込ませるために、様々な案を練っていた。
海軍将校のユーエン・モンタギューやイアン・フレミングらが案を出すが、いずれも却下されてしまう。
そんな中、モンタギューは空軍に属すチャールズ・チャムズリーに出会う。
最初はチャムズリーを小馬鹿にしていたモンタギューだったが、彼が考え出したミンスミート作戦が画期的なものであると確信する。
一方、MI5の秘書であるヘスター・レジットの元に、新人書記のジーン・レズリーがやってくる。
ジーンは女性が男性の脇役的な仕事しか任されないことを嘆きつつ、ビーヴァン大佐にお茶を出す。
ビーヴァン大佐の元を訪れたモンタギューやチャムズリーは、ミンスミート作戦の計画案を提示する。
それは、イギリス軍の兵服を着せた死体に偽の機密情報の記された書簡を括りつけ、それを海に流すことでナチスの目を欺こうというもの。
ビーヴァン大佐は訝しみながらも計画を決行するよう指示を出し、モンタギューやチャムズリーらは喜ぶ。
計画を大佐にプレゼンする際に加勢したジーンやヘスターも作戦グループに加わることになる。
彼らは「ビル・マーティン」という名の架空のイギリス海兵を作り上げることに決め、婚約者への手紙や婚約指輪など、事細かな設定を取り決める。
ビル・マーティンの遺体は、病理医のバーナード・スピルズブリーから提供された、殺鼠剤中毒で死亡した身元不明の死体が使われることになる。
こうしてミンスミート作戦のために作り上げられたビル・マーティンの遺体は、潜水艦を使って海中に沈めることに成功するが、作戦はうまくいくのか…
▼本作でフィーチャーされているキャラクターは実在の人物をモデルにしており、その写真を使ったポスターが劇場地下にあった

キャスト
Charles Chomondeley & others David Cumming
Jean Leslie & others Claire-Marie Hall
Ewen Montagu & others Natasha Hodgson
Hester Leggatt & others Jak Malone
Johnny Bevan & others Zoë Roberts

感想
今回、わざわざ極寒のニューヨークを訪れた1番の理由は、こちらの作品のブロードウェイ初演プレビュー初日を観るためでした。2023年にウエストエンド公演を観て「こんなに面白くてクールで感動的な作品があるんだ」と思い、絶対にブロードウェイに上陸するだろうと信じていました。2024年春、ニューヨークで本作のトートバッグを持ってDrama Book Shopに行った時のことですが、見知らぬ人に「I hate you!」と突然言われ、驚いて理由を尋ねたら「この作品すごく面白いって噂だから、これを観るために今すぐロンドンに飛んで行きたいんだ」とのこと。このようにニューヨーカーの間でも話題を呼んでいました。プレビュー初日のチケットはブロードウェイ公演としては例外的に、発売当日に完売し、この作品に対する期待の高さがうかがえました。
▼ロンドン公演を観劇した際のブログ記事はこちら
映画『オペレーション・ミンスミート ーナチを欺いた死体ー(2021)』と同じ題材を扱っていますが、映画はシリアスなタッチなのに対し、本作はコメディ・タッチで描かれており印象は大きく異なります。
▼PV
今回はオーケストラ席の後方、通路席で観劇しました。プレビュー初日だと来場者プレゼントをいただけるのですが、今回は薄黄色のトートバッグでした。家宝にします。

開演前に、演出家が登壇して軽く挨拶があり「SNSに感想を書く時は優しく書いてね、それから何か気づいたことや改善すべきことがあったらxxxxx@gmail.comまでメールで送ってね」と話していました。公演が決定する前から、製作陣はこの作品がニューヨークでウケるか相当気にしている様子でした。これは『Cabaret』2023年再演が酷評されたことを受けてのことだと思われます。
▼開演前


ブロードウェイでもこの作品の面白さは健在でした。おそらく観客はイギリスからの作品の熱心なサポーターや筋金入りのオタクのいずれかだったと感じました。幕が上がった瞬間に歓声沸き起こり、各ナンバー終わりもショーストップするほどの拍手が続きました。
この作品の魅力は史実に基づきつつ、5人という少人数で1人多役で巻き起こす古典的なドタバタ劇や、『Hamilton』を彷彿とさせるラップ、ジェンダー・ベンディング、シスターフッドなど様々な要素を組み合わせることで、観終わった時にじんわり泣けてスカッと爽快な気分にもなれるところだと改めて思いました。カタルシス万歳。キャスト5人それぞれが作品にとって必須の構成要員で、1秒でもタイミングが狂うと舞台が成り立たなくなってしまうスリルの中、それぞれの役割を全うしていて見事でした。
▼休憩中

アメリカでの上演に向けてアメリカ人向けに少し演出などを変更するようなことを聞いていましたが、自分にはよくわかりませんでした。本当に役立たずの記憶力です。「All the Ladies」だったかな、ロンドンでは観客にhands upを促すシーンでブロードウェイではそれがなかった、と観劇したお友達が話していました。舞台装置に大きな違いはなかったはずです。
ジェンダー・ベンディングで、女性の役を男性キャストが演じていたり、男性の役を女性キャストが演じていたりするわけですが、モンタギュー役のNatasha Hodgsonがフィナーレで、トップハットに黒燕尾で、マレーネ・ディートリヒのような出立ちでした。オリヴィエを個人で受賞したへスター役のJak Maloneは今回も「Dear Bill」終了後にスタンディング・オベーションが長く続き、ショーストップしていました。ロンドンのオリジナルキャストがそのままトランスファーした形なので、安定した息のあったパフォーマンスは格別でした。
『Maybe Happy Ending』と並んで、2024/2025シーズンで決して外せない新作ミュージカルだと思います。強くお勧めします。
▼カーテンコール

