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『Jelly’s Last Jam』2024.2.22.19:30 @New York City Center Main Stage Ⅰ

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『Jelly's Last Jam』とは

1992年ブロードウェイで初演されたミュージカル。

「ジャズの創始者」と自称した音楽家ジェリー・ロール・モートンの人生を基にしている。

ジェリー・ロール・モートンの手がけた音楽に加えて、Luther Henderson作曲、Susan Birkenhead作詞の音楽も使われている。

脚本はGeorge C. Wolfe。

今回はシティ・センターによるEncore! seriesの一環で上演されたプロダクションを観劇した。

演出はRobert O'Hara。振付はEdgar Godineaux

あらすじ

ジェリー・ロール・モートンは死ぬ間際、これまでの人生を振り返っている。

そこに謎の男、Chimney Manが現れ、ジェリーの触れられたくない過去について詰問する。

ニューオーリンズの裕福なクレオールの家庭に育ったジェリーはクラシック音楽を学ばせようとする家族に反抗し、酒場に入り浸り、ブルースなどの黒人音楽を好み、そこでバディ・ボールデンらに出会ううちに、クラシック音楽よりも黒人音楽を志すようになる。

そのことを知った祖母は怒り、彼を勘当する。

家族に縁を切られたジェリーは黒人音楽を追求するため修行の旅に出る。

シカゴでのパフォーマンスが成功し、徐々に作曲家、音楽家としての名声を得て、「ジャズの創始者」と自称するようになる。

友人でトランペット奏者のジャックや、恋人のアニタと幸せな日々を送っていたが、それまで肌の色が薄いことで社会的に優遇されていたジェリーは、ニューヨークを訪れた時に初めて「黒人」として扱われたことに傷つき、自身の中にある人種差別の意識と向き合うことになるのだった。

黒人音楽、ジャズを志してきたにも関わらず、ジェリーはこれまでの特権階級にいるという意識を捨てられず、自身の「黒人性」を否定し続け、ついには親友や恋人まで彼から離れていってしまう。

キャスト

Jelly Roll Morton    Nicholas Christopher

Jack the Bear    John Clay Ⅲ

Young Jelly    Alaman Diadhiou

The Hunnies    Mamie Duncan-Gibbs, Stephanie Pope Lofgren, Allison M. Williams

Anita    Joaquina Kalukango

Miss Mamie    Tiffany Mann

Buddy Bolden    Okieriete Onaodowan

Chimney Man    Billy Porter

Gran Mimi    Leslie Uggams

感想

なかなか再演される機会の少ない名作ミュージカルをリバイバルする、シティ・センターのEncores!のシリーズ。今シーズンは記念すべき30周年ということで、通常1週間程度の公演期間が2週間と長めになっています。訪米した際に公演期間が被っていると必ず観ていますが、今回は『Jelly's Last Jam』でした。実在した音楽家ジェリー・ロール・モートンについての伝記ミュージカルで、彼の手がけた音楽も使われているためジュークボックス・ミュージカルの要素もある作品です。伝記ミュージカルなのだから、その人をヨイショする内容になっているのだろうと思いきや、逆にジェリー・ロール・モートンという人の隠したい闇の部分を暴いていくような内容になっていて大変驚きました。しかも、それが被差別側にある人種差別の意識、いわゆるカラリズムに関わっていて、30年以上前の作品ですが現代人の心にも響くテーマが扱われていたのが印象的でした。

▼trailer


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ジェリーは黒人と白人を祖先にもつ、いわゆる混血で、黒人の中では肌の色が薄く、そのことで地元のニューオーリンズでは社会的に優遇され、裕福な家柄だったようです。このあたりの感覚は日本人の自分には理解しづらいですが、同じ人種の中で色が薄い方が優位な立場を得られるというカラリズムが表れていると言えるのでしょうか。地元では良い扱いを受けていたのが、ニューヨークに行ったら「少しでも黒人の血が混じっていたら黒人」という一般認識なので、ジェリーは突然黒人として扱われてたいそう屈辱を受けるわけですね。そこで、ジェリーは「俺はお前らとは違う」と親友にNワードを言ってしまいます。

カラリズムは最近でも問題になっている概念で、ミュージカル映画『イン・ザ・ハイツ』においても指摘されていたのが記憶に新しいかと思います。

今回のプロダクションは、これまでのEncores!シリーズと比べて、オーケストラ(バンド?)がかなり後方に陣取り、中央から前方に広く動けるスペースが取られていて、よりダイナミックなダンスシークエンスを堪能することができました。やはりこの作品のオリジナル・ブロードウェイ・キャストがグレゴリー・ハインズにサヴィオン・グローバーというタップ界のレジェンドだけあり、タップの見せ場が盛りだくさんでした。

主演のNicholas Christopherは『Sweeney Todd』2023年再演でPirelli役を演じていますが、今回はタップを存分に披露しつつ、プライドがズタズタになってもがき苦しむジェリーを好演していました。

▼「The Whole World's Waitin' to Sing Your Song」


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また、女性陣のパワフルなボーカルも聴き応えがありました。ジェリーとのロマンスを繰り広げるアニタ役を演じた、トニー賞受賞者のJoaquina Kalukangoのほか、『Be More Chill』などのTiffany Mannなど。オリジナル・ブロードウェイ・キャストが当時と同じコーラスガールズ役を演じたのも熱かったです。

▼Joaquina KalukangoとNicholas Christopherによる「Last Chance Blues」


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Tiffany Mannによる「Michigan Water」


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ビリー・ポーターは謎の人物で、狂言回しで、且つ、今際の際のジェリーをじわじわと問い詰める検察官のような役柄でした。

現代でも響くテーマを扱っているというだけでなく、音楽、ダンスを含めて、短期公演で留めてはもったいないようなプロダクションでした。