『Hell's Kitchen』とは
2023年オフ・ブロードウェイで初演されたジュークボックス・ミュージカル。
作詞・作曲はアリシア・キーズ。彼女の既存曲が使われている他、本作のために書き下ろしたナンバーもある。
あらすじは、マンハッタンのヘルズ・キッチンで育ったアリシア・キーズ自身の半生が基となっているが、事実と異なる部分もある。
脚本はKristoffer Diaz。振付はCamile A. Brown。編曲にTom Kittらが関わっている。
演出はMichael Greif。
2024年3月下旬にブロードウェイ公演のプレビューが始まる予定である。
あらすじ
舞台は1990年代のニューヨーク、マンハッタン。
ヘルズ・キッチンで暮らす17歳の高校生アリは、母のジャージーとともに生活している。
音楽家である父デイヴィスは母と離婚し、仕事が忙しく、アリとの約束をすっぽかしてばかり。
女手一つで子育てするジャージーは、大都会で生きる娘の身を案じ、厳しくしつけている。
そんな中、アリは建築現場で仕事をする年上のレイに恋をする。
また、同じアパートで偶然に出会ったピアノ教師にレッスンを受け、音楽の才能が開花していく。
様々な出会いや別れ、母親への反発を繰り返しながら、アリは成長していく。
キャスト
Ali Maleah Joi Moon
Jersey Shoshana Bean 『Waitress』
Davis Brandon Victor Dixon
Ray Chad Carstarphen
Tiny Vanessa Ferguson
Crystal Crystal Monee Hall
Junio/Q Jakeim Hart
Millie Mariand Torres
Riq Lamont Walker Ⅱ 『MJ』
Knuck Christ Lee
Jessica Jackie Leon
Miss Liza Jane Kecia Lewis
感想
今シーズンのPublic Theaterのミュージカルということで、発売日と同時にチケットを購入し、ずっと楽しみにしていた作品です。
「No One」「Empire State of Mind」「Girl on Fire」などお馴染みのアリシア・キーズの名曲に加えて、本作のための新曲もあったため、彼女のファンにとっても新鮮だったと思います。
アリシア自身の半生がモデルとなっていますが、一部異なります。例えばアリシア自身は幼少期からピアノを習っていますが、作品の主人公は高校生になってからピアノを習うなど。
これが期待以上に良かったので、記録を残しておこうと思います。
▼稽古風景
お話が人種や性別、国籍など関係なく誰もが感情移入しやすい類で秀逸。
シンプルなのですが、やはり家族、子どもを愛するが故に厳しく叱る親、特に一対一の親子の物語なので、誰もが身に覚えがあるからでしょう、私含め観客みんなが号泣していました。
最初は教える気がない様子だったピアノの先生も、交流を重ねていくうちに徐々に変わっていくのですが、後半でずっと秘めていた思いを歌で吐露するシーンが忘れられません。
この物語にアリシア・キーズの24曲の楽曲が織り交ぜられていて、物語の中で既存曲も新たな色彩を放っていたのが興味深かったです。例えば母が娘に向けて歌う「No One」は、これまで自分の中にあったイメージとは異なっていて新鮮に響きました。
▼開演前
振付を手がけたのは最近オペラやミュージカルと様々なジャンルで活躍しているCamile A. Brown。若者たちがニューヨークの街中で所狭しと群舞するシーンでは、ストリート系やブレイクダンスを駆使していてエネルギッシュな印象を受けました。
この動画内でバケツの底を叩いていますが、バケツはボーイフレンドのレイが仕事で使っているもので、身の回りのものをパーカッションにしていくスタイルも『STOMP』のようで面白かったです。
▼休憩中
2023年のブレイクスルーとして各紙に絶賛されていた主人公アリ役のMaleahの歌声に、鳥肌が止まりませんでした。歌も良いし、母のShoshana Beanとの掛け合いでもShoshanaに引けを取らない演技で、オフ・ブロードウェイデビューとは思えませんでした。
▼「Unthinkable」
安定のShoshana Bean。言うことなし。
アーティストの伝記ミュージカルにありがちなのですが、元夫だったり元父だったり、男性キャラクターが徹底的にひどく描かれることが多いのが典型的。ただ、本作では確かに家族との約束より仕事を優先する父ですが、Brandonが柔和な雰囲気であるせいかどうしても憎めないキャラクターに仕上がっていました。
個人的なことですが「Empire State of Mind」が発表された時、ちょうどニューヨークに留学していまして、街中どこを歩いていてもこの曲が流れていたんです。
その頃はお金がなくて舞台を観たくてもチケットが高すぎて時々しか観られず、rushに並んだり、図書館で舞台の資料をあさったりしていたのですが、その時と変わらず今もこうして舞台が好きで、何とか毎年ニューヨークを訪れて、今この作品を観て大団円で「Empire State of Mind」を聴くことができている、その事実に心から感謝しました。
そして、これからどれだけつらいことがあっても、この街で舞台を観ることをよすがに生き抜いていこうと心に決めました。
▼カーテンコール