『Operation Mincemeat』とは
2019年にオフウエストエンドで、2023年からウエストエンドのFortune Theatreで初演されたミュージカル・コメディ。
第二次世界大戦中、ナチス率いるドイツ軍に対してイギリス軍が行ったミンスミート作戦を扱っている。
SpitLipという4人グループのメンバーであり、役者でもあるDavid Cumming、Felix Hagan、Natasha Hodgson、Zoë Robertsが共同で、作詞・作曲・脚本を手がけた。
今回はウエストエンド公演を観劇した。
演出はRobert Hastie。
あらすじ
舞台は1943年、イギリスの保安局、軍情報部第5課(MI5)。
ジョン・ビーヴァン大佐は政府からの要請により、イギリス軍が実際に攻め入る予定のシチリアではなく、サルディーニャ島を攻撃するとナチスに思い込ませるために、様々な案を練っていた。
海軍将校のユーエン・モンタギューやイアン・フレミングらが案を出すが、いずれも却下されてしまう。
そんな中、モンタギューは空軍に属すチャールズ・チャムズリーに出会う。
最初はチャムズリーを小馬鹿にしていたモンタギューだったが、彼が考え出したミンスミート作戦が画期的なものであると確信する。
一方、MI5の秘書であるヘスター・レジットの元に、新人書記のジーン・レズリーがやってくる。
ジーンは女性が男性の脇役的な仕事しか任されないことを嘆きつつ、ビーヴァン大佐にお茶を出す。
ビーヴァン大佐の元を訪れたモンタギューやチャムズリーは、ミンスミート作戦の計画案を提示する。
それは、イギリス軍の兵服を着せた死体に偽の機密情報の記された書簡を括りつけ、それを海に流すことでナチスの目を欺こうというもの。
ビーヴァン大佐は訝しみながらも計画を決行するよう指示を出し、モンタギューやチャムズリーらは喜ぶ。
計画を大佐にプレゼンする際に加勢したジーンやヘスターも作戦グループに加わることになる。
彼らは「ビル・マーティン」という名の架空のイギリス海兵を作り上げることに決め、婚約者への手紙や婚約指輪など、事細かな設定を取り決める。
ビル・マーティンの遺体は、病理医のバーナード・スピルズブリーから提供された、殺鼠剤中毒で死亡した身元不明の死体が使われることになる。
こうしてミンスミート作戦のために作り上げられたビル・マーティンの遺体は、潜水艦を使って海中に沈めることに成功するが、作戦はうまくいくのか…
キャスト
Charles Cholmondeley and others Seán Carey
Jean Leslie and others Claire-Marie Hall
Ewen Montagu and others Natasha Hodgson
Hester Leggett, Bernard Spilsbury and others Jak Malone
Johnny Bevan, Ian Fleming and others Zoë Roberts
感想
史実をもとしたミュージカルですが、コメディータッチで、たった5人の演者によって繰り広げられる展開に終始惹きつけられっぱなしでした。
舞台を観た後に、すぐにまた観たいと思えたのは久々のことです。ただただブラボーの一言。
▼trailer
この作品は2019年から何度かのオフウエストエンドでの公演を経て、2023年満を持してウエストエンドにトランスファーした形となりましたが、オフ時代から各所で絶賛されていたので、今回必ず観ようと心に決めていました。
そもそも「ミンスミート作戦」そのものが滑稽*1なのですが、この作品の魅力は単にその史実をなぞるのに留まらず、登場人物のcharacterizationや構成が卓越した脚本、ラップやバラードなど多様な音楽を織り交ぜたミュージカルナンバー、歴史書では表立って書かれなかった女性の活躍を描いた点、などにあると思いました。
trailerにある通り、ラップシーンは『Hamilton』を彷彿とさせますし、コメディシーンはどことなくメル・ブルックス作品や『Book of Mormon』を連想させます。
5人のみの演者で構成されたとは思えないほど、1人複数役を皆巧みに演じ分けていますが、特徴的なのは、モンタギューやビーヴァン大佐といった主要な男性役を女優がドラァグで演じている点です。また、女性秘書のヘスターは男優によりドラァグで演じられています。
このドラァグの演技が、うまく表現できないのですが、この作品の独特な雰囲気を醸成しています。
例えば、モンタギューからジーンに向く恋愛感情は、役柄の上では男性から女性に向いていますが、演者のジェンダーとしては女性(ブッチ)から女性(フェム)に向いており、ある意味クィア的描写になっていると感じました。*2
Jak Maloneが演じるヘスターに関しては、ややもすると「A man in a dress*3」になりかねないのではと心配していたのですが、その場面では女性役として登場するのでそういったことはありませんでした。
Jak Maloneは声色や所作も変えて、ヘスターを演じていて素晴らしかったです。
▼開演前
音楽は昔ながらのショーチューンから、最近の電子音楽風のもの、ラップなど、様々で聞き飽きません。
信憑性を持たせるためにビルの婚約者からの手紙を書く「Dear Bill」、同名の米軍パイロットが事故に遭ったことにより作戦が危うくなる「The Ballad of Willie Watkins」など。
作中で繰り返し登場する「Some were born to follow, but we were born to lead.」というイギリス人のプライドを刺激する歌詞が印象的です。
この作品は作詞、作曲、脚本が4人の共同制作で、彼らはミュージカルコメディグループ「SpitLip」と名乗っていて、そのうち3人はオリジナルキャストとして出演しています。
私が観た回ではチャムズリーをオリジナルで演じるDavid Cummingは出演しておらず、アンダースタディーでした。
ミュージカル界には作詞・作曲のコンビは多くいますが、4人組は聞いたことがなかったので、彼らの今後にも注目したいです。
▼SpitLipの公式動画より
対ナチスの話ですし、ニューヨークでもきっと受けることでしょう。
きっと近い将来、ブロードウェイにトランスファーすると確信しています。
▼休憩中
Fortune Theatreはウエストエンドの中ではやや小さめの劇場で、ストールはほぼ平坦なので前の人の頭がやや気になる構造でした。私のように背が小さめ〜標準的な日本人身長の方はサイドの通路側の席の方が視界良好かと思いました。