『アテナ(1954)』とは
1954年のMGMによるミュージカル映画。
原作はなく、脚本はこの映画のためのオリジナルストーリーである。
音楽はヒュー・マーティン、ラルフ・ブレインによる。
監督はリチャード・ソープ。
タイトル及び主人公の名前は原語では「アθィーナ(θはthの発音)」だが、このサイトでは由来であると思われるギリシャ神話の「アテナ」で統一して記載する。
あらすじ
弁護士のアダムは仕事は順調で、婚約者のベスもおり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、アダムが買った桃の木が育たない理由を聞くために種苗場に行くと、アテナという変わった娘に出会う。
アテナは7人姉妹の長女で、数秘術や占星術を信じ、ベジタリアンで飲酒や喫煙を極度に嫌う家庭で育ったという。
アダムはアテナに桃の木の根の正しい覆い方を教えると言われるが、アダムはアテナの言うことを聞かず帰ってしまう。
しかし、アテナはアダムに無断で彼の家を訪れ、桃の木の根覆いをしてしまう。
ベスに嫉妬され、アダムは困惑してアテナに家に来ないよう言うが、アテナは彼女とアダムは結ばれる運命にあると伝え自らキスする。
一方、アダムの友人の歌手ジョニーは、アテナの妹のミネルヴァと相性がいいと考えたアテナは、2人の仲を取り持ち、彼らは急速に親しくなる。
アテナはアダムのライフスタイルに合わせようとするが、なかなかうまくいかず、彼女の祖母に「星の動きが変わったため、アダムと一緒になる道は厳しい」と言われてしまう。
その頃、アダムもアテナに惹かれるようになっており、2人は相思相愛になっていた。
キャスト
アテナ・マルヴェイン ジェーン・パウエル
アダム・カルホーン・ショウ エドマンド・パードム
ミネルヴァ・マルヴェイン デビー・レイノルズ
ジョニー・ナイル ヴィック・ダモーン
感想
知名度は低いですが、SNSで偶然見かけた「I Never Felt Better」のめくるめくステージングに惹かれ、アメリカ版DVDで観てみました。
▼trailer
Athena (1954) - Official Trailer - Jane Powell, Debbie Reynolds Movie HD
この作品は、同年に公開されたミュージカル映画『掠奪された七人の花嫁』の「アンサーソング」ならぬ「アンサーフィルム」とでも言うべきものとなっています。
『掠奪された七人の花嫁』では7人兄弟が古代ローマのサビニの女たちの掠奪を参考にして町から女性を誘拐してくるという、まさかのタイトル通りの内容のミュージカル映画でした。
詳しくは別記事にまとめてあります。
本作はその逆で、7人姉妹のうちの2人が堅気の男性に積極的にアプローチする形式となっており、主にフィーチャーされるのは長女のアテナと6番目の妹のミネルヴァです。
アテナはギリシャ神話の知恵、芸術、工芸などを司る女神であり、ミネルヴァはローマ神話におけるアテナに当たり、この辺りも前者との呼応を感じます。
さらに、主演のジェーン・パウエルは前者でも主演しており、本作でも美しい歌唱を披露しています。
▼「Vocalize」
ただ私の勝手なバイアスかもしれませんが、ジェーン・パウエルは品のある良家のお嬢さんというイメージが強いので、婚約者のいる男性の家にいきなり押し入って「私とあなたは結ばれる運命よ。キスしていい?」と尋ねるような突拍子もない役は似合わないと感じてしまいました。
この点、妹役を演じたデビー・レイノルズであれば少しばかり跳ねっ返りの強い役がお似合いになるので、まだ耐えられました。
デビーの相手役はヴィック・ダモーンで、彼はミュージカル俳優というより歌手としての方が有名な方ですが、素晴らしい美声を披露しています。
デビーとのデュエットもとてもチャーミングです。
▼「Imagine」
本作で一番盛り上がるキラーチューンは、姉妹そろってアダムの家に押しかけてインテリアを思い通りにしてしまう「I Never Felt Better」。
メインで歌うのはデビー・レイノルズで、このデビーがどうしようもなく可愛いのです。
▼「I Never Felt Better」
[HQ] I Never Felt Better (Athena-1954)
楽曲は個性的で、BGMでクラシックやタンゴ(ボディービルダーの披露会で流れているのは「ジェラシー」というタンゴ)など往年の名曲を織り交ぜており、ミュージカル映画としては個人的に楽しめました。
しかし、ミュージカル映画という観点を抜きにすると、プロットがあまりにぶっ飛んでいて、正直万人にお勧めできる作品ではありません。
姉妹たち家族の異常なまでの健康志向は、なんとなく新興宗教を彷彿とさせるほど不気味なものでした。
特にラストで姉妹一家とともに床に腰を下ろし、ローテーブルで食事をとる様子は何かに洗脳された人々のように見えました。
監督は相当この作品を嫌っていたそうですが、東洋趣味や風変わりな人々など、MGMが何か新しいことをしようと試行錯誤していたのであろうことは想像できました。