『カルメン』とは
メリメの小説を原作とするビゼー作曲の1875年初演のオペラ『カルメン』を基にした、1943年初演のブロードウェイミュージカル『カルメン・ジョーンズ』を映画化したもの。
出演者全員がアフリカ系アメリカ人で構成されている。
音楽はビゼーのものをほぼ使用しており、それにオスカー・ハマースタインⅡ世が英語の歌詞をつけている。
主演のドロシー・ダンドリッジは本作でタイトルロールを好演し、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
ゴールデングローブ賞最優秀作品賞受賞。
監督は、オットー・プレミンジャー。
あらすじ
第二次世界大戦中、ジョーは南部駐屯黒人部隊の伍長で、間も無く航空部隊に転属する予定だった。
婚約者であるシンディ・ルーとともに明るい未来を描いていた。
駐屯場所の近くにあるパラシュート工場に勤めるカルメン・ジョーンズという娘はジョーに目をつけ、気を引くそぶりをするが、ジョーは軽くあしらうばかり。
しかし、工場で喧嘩をしたカルメンを留置場に連れていく役目をジョーは引き受けることになってしまう。
その道中、カルメンの誘惑にジョーは抵抗するが、途中カルメンの実家に立ち寄っている間にその誘惑にジョーは屈してしまう。
翌朝、カルメンの姿はなかった。
拘置所のジョーの元にカルメンからバラが届き、ジョーはカルメンへの思いを募らせる。
ナイトクラブでジョーの出所を待つカルメンのところに、ヘビー級ボクサーのハスキー・ミラーがやってくる。
彼はカルメンに目をつけ、一緒にシカゴに行こうと誘うが、カルメンの心は動かない。
その後、ようやくジョーとカルメンは再会を果たすが、ジョーはその夜に航空隊に参加するために旅立つことを告げる。
カルメンはジョーに一緒にシカゴに行くように説得する。
婚約者も航空隊員になる夢も捨て、ジョーはカルメンと一緒になる道を選ぶが、それは自滅への道だった。
キャスト
カルメン ドロシー・ダンドリッジ(歌:マリリン・ホーン)
ジョー ハリー・ベラフォンテ(歌:LeVern Hutcherson)
フランキー パール・ベイリー
シンディ・ルー オルガ・ジェイムズ
ハスキー・ミラー ジョー・アダムズ(歌:Marvin Hayes)
ブラウン軍曹 ブロック・ピーターズ
ラム・ダニエルズ ロイ・グレン(歌:ブロック・ピーターズ)
マート ダイアン・キャロル(歌:Bernice Peterson)
感想
オール黒人キャスト出演というと『ウィズ』が思い出されますが、今回はそれよりも20年ほど前に制作されたミュージカル映画です。
▼trailerです。
ご覧通り、おなじみのビゼーの『カルメン』の楽曲に英語の歌詞がつけられ歌われています。
お話は舞台が第二次世界大戦中のアメリカに移され、登場人物名もアメリカ風に変えられています。
オペラを基にしたミュージカルは『アイーダ』など多くありますが、基になったオペラの音楽をここまでそのままそっくり用いている作品は少ないかなと思います。
『レント』の劇中で、ロジャーが『ラ・ボエーム』のテーマをギターで弾く場面はありますが、あくまで部分的な引用ですよね。
さて、作品内容に関して、印象的だったのが、何より、主演のドロシー・ダンドリッジの名演です。
カルメンはあらゆる男を誘惑する悪女であり、最初はとても憎たらしいほどにジョーを誘惑するのですが、途中からジョーを愛するただの女に変わり、健気な視線を送ったりする場面もあるのです。
彼女は、カルメンのそういった、コケティッシュさや純真さなど、様々な顔を全身で演じていました。
アカデミー賞にノミネートされたのは当然です。
カルメンの相手役のジョーは、ハリー・ベラフォンテが演じていますが、彼が「バナナボート」の歌い手だということをこの作品で初めて知りました。
脱線してしまいましたが、優等生気質だったジョーが徐々に魔性の女カルメンに魅せられ、出世コースを外れて行く姿を好演していました。
本作では歌部分は吹き替えになっている場面が多いのですが、ややセリフ部分と歌声との差がはっきりしていて、違和感が残るのが残念でした。
確か説明にはジャズ的歌唱とされていますが、私の印象としてはオペラ的歌唱で英語歌詞を歌っているという印象で、ドロシー・ダンドリッジのあんなに細い体からあのようなオペラ的歌声が出るかしらと思ってしまいました。
映画全体としては、同時期のミュージカルコメディとは一線を画す、シリアスドラマミュージカルに仕上がっており、一見の価値ありだと思います。