『The Music Man』とは
1957年にブロードウェイで初演されたミュージカル。
作詞・作曲はメレディス・ウィルソン。
脚本はメレディス・ウィルソンとフランクリン・レイシー。
今回のプロダクションはヒュー・ジャックマン主演ということで話題となったが、トニー賞では無冠に終わった。
今回の演出はジェリー・ザックス。
あらすじ
1912年夏、楽器販売員のハロルド・ヒルと名乗る男がアイオワ州リヴァーシティに現れる。
彼は各地で子どもたちにマーチバンドを結成すると騙し、楽器とユニフォームのお金を巻き上げる詐欺を働いていた。
ハロルド・ヒルは、町で唯一、音楽に詳しい司書のマリアンに言いよるが、無下に扱われる。
マリアンは独身で、母と、lisp(sやzをthと発音してしまう癖)を持つ弟のウィンスロップとともに暮らしながら、自宅でピアノを教えている。
独立記念日に高校の体育館で開催された市民の集いで、ハロルド・ヒルは市長の面前で、新たにビリヤード台が町に来たことで、風紀が乱れるおそれがあり、それを阻止するために子どもたちのマーチバンドを結成する必要があると民衆を説得する。
ビリヤード場を所有する市長はハロルド・ヒルの身分調査をしようとするが、ハロルドはうまくそれを妨害して言いくるめる。
町中がマーチバンド結成に浮き立つ中、マリアンはハロルド・ヒルの名前が卒業名簿に載っていないことを証明する記録を見つける。
しかし、それまで人前に出たがらなかったウィンスロップが楽器を持ったことで次第に明るくなっていく様子を見て、マリアンの気持ちは変わり始める。
キャスト
Harold Hill Hugh Jackman
Marian Paroo Sutton Foster
Marcellus Washburn Shuler Hensley 『Hercules』
Mayor Shinn Mark Linn-Baker
Eulalie Mackecknie Shinn Jayne Houdyshell 『Uncle Vanya』
Mrs. Paroo Marie Mullen
Winthrop Paroo Benjamin Pajak
Olin Britt Ryan Worsing
Oliver Hix Nicholas Ward
Ewart Dunlop Daniel Torres
Jacey Squires Eddie Korbich
Alma Hix Linda Mugleston
Mrs. Squires Rema Webb
Ethel Toffelmier Garrett Long
Maud Dunlop Jessica Sheridan
Tommy Djilas Nick Alvino
Zaneeta Shinn Emma Crow
Charlie Cowell Remy Auberjonois
Constable Locke Lance Roberts
Amaryllis Emily Jewel Hoder
感想
主演がヒュー・ジャックマンという大スター、相手役にサットン・フォスターを配して上演された往年の名作ミュージカルの再演ということで、非常に話題性のある公演でした。
ヒューといえばOBCRを擦り切れるほど聴いた『The Boy from Oz』のイメージが強く、せっかく観られるなら生で観たい、というミーハーな気持ちで劇場に向かいました。
事前にこのプロダクションのレコーディングを聴いていたのですが、個人的に受け付けない仕上がりとなっていました。
色々思ったことはあるのですが、一番はサットン・フォスターのマリアン。
マリアンは通例ソプラノですが、サットンはメゾソプラノ。
マリアンがアリア的に歌う「My White Knight」など、ソプラノで歌うからこそ生きるナンバーが多いので、サットンのベルティングは合わないのです。
「Good Night My Someone」と「Seventy-Six Trombones」はアレンジが異なるだけで同じメロディーを持つ楽曲であり、マリアンがソプラノであることは、この2つの楽曲におけるハロルドとマリアンの歌声やキャラクターの対照性を際立たせることにも役立っていると思います。
さらに、サットンは「My White Knight」を原曲キーから下げて歌っており、このナンバーの持つ本来の美しい煌めきが失われていました。
サットン以外だと「Ya Got Trouble」で、ハロルド・ヒルの口上に乗せられた民衆が割と早口で捲し立てていく歌唱がなく、全体的にゆったりしているところ。(これは個人の好みかもしれません。)
というわけで、音楽的な魅力が皆無でがっかりしていたのですが、せっかく近くまで来たので、ついでに行ってみようか、ということに。
開幕当初はrushなしで、standing roomで76ドル(作中に登場するseventy-six trombonesと掛けている)という強気の価格設定のチケットが販売され、SNSでは批判が飛び交っていましたが、最近はgeneral rushが登場し、確か45ドル程度で買うことができます。
ただし、曜日によっては朝6時頃から並ばないと手に入らない場合があるらしく(でも平日なら8時くらいでも大丈夫みたい)、私は旅程の終盤で疲れが出始めていたのでrushは断念し、結局オンラインで購入しました。(オーケストラセンター前方で$200+αと、一時期よりだいぶ手頃になりました)
▼trailerです。
期待せずに観たところ、これが意外と面白くて最後にはなんとホロっとさせられてしまいました。
思っていた通り音楽的には…でしたが、マリアンの演技がおそらく良かったからか、「相手の犯したどんな罪も目を瞑ってしまうほどマリアンは彼を愛しているのね」と思わず感涙。
今、冷静な状態では「いや待って、詐欺師は詐欺師。それをこんな強引にハッピーエンドにしていいの?」と思うわけですが、それを覆す勢いが作品にありました。
観客をハッとさせるセットは図書館の「Marian The Librarian」のシーン。
ハロルド・ヒルがマリアンに迫る場面ですが、その背景で、所狭しと座る子どもたちが本を投げ合います。
お行儀は良くないのですが、少しでもタイミングが狂うとうまくいかないので、このナンバーの内容と合わせてスリリングで良かったです。
今回の再演にあたって、変更された点がいくつかあります。
明らかだったのは、独立記念日に体育館で開催されたミーティングでの市長の妻の振る舞いです。
元々の舞台や映画版では、ネイティブアメリカンに扮した市長の妻が寸劇をするような一幕がありましたが、今回のプロダクションでは自由の女神に扮装した市長の妻が登場していました。
また、「Shipoopi」の歌詞の一部がマーク・シャイマンとスコット・ウィットマンによって変更されました。
具体的には、たとえば「the girl who's hard to get / but you can't win her yet」が「the boy who's seen the light / to treat the woman right」に変わり、女性蔑視の要素を排除していました。
ただこれらは言われなければ気づかない程度の変更でした。
こういった細部について、現代の価値観に合わせて変更したように、キャストについてもこれまでのプロダクションとは違う『The Music Man』を目指したのかもしれませんが、サットンは上記の理由で完全にミスキャスト。
ヒューは悪くなかったのですが、個人的には『レ・ミゼラブル』の中でせっかく改心したのだから、今度は詐欺をして罪を犯すなんていうことを(演技だとしても)してほしくなかったですね…
振り付けは2017年の『Hello, Dolly!』再演も手がけたWarren Carlyleで、可もなく不可もなくという印象。
音楽は惨憺たるものでしたし、照明は黄色味がかった、いかにも中西部らしさを印象付けたいような狙った感じがして好きではなかったですが、総じてドラマでみせるミュージカルになっていたように感じました。