ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Suffs』2024.5.26.15:00 @Music Box Theatre

f:id:urara1989:20240609150622j:image

『Suffs』とは

2022年オフ・ブロードウェイのPublic Theaterで初演され、2024年ブロードウェイで初演されたミュージカル。

1920年に合衆国憲法第19条が批准されるまでに尽力した、実在したアメリカの女性参政運動家たちを描く。

作詞・作曲・脚本はShaina Taub。

演出はLeigh Silverman。

f:id:urara1989:20240609150700j:image

あらすじ

1913年、Alice Paulは、全米婦人参政権協会(National American Women Suffrage Association: NAWSA)による女性参政運動が遅々として進まないことを嘆き、Woodrow Wilsonに圧力をかけるため、彼の大統領就任日にワシントンDCでデモ行進をすることを決意する。

NAWSA代表のCarrie Cattをデモ行進に誘うが断られる。

Aliceは仕方なく大学時代の友人Lucy Burnsを誘い、さらに社交界で知られるInez Milholandやポーランド系の労働組合活動家Ruza Wenclawskaらも趣旨に同意し参加することになる。

学生のDoris Stevensも記者として行進の様子をレポートすることが決まる。

批判の声があり、有色人種の女性は別の行進で参加すること余儀なくされ、黒人女性のための人権活動家であるida B. Wellsはこのような活動を続けても世間は決して有色人種の女性に目を向けないと語る。

行進の最中、反対派にb*tchと呼ばれたDorisはショックを受けるが、仲間はその呼ばれ方はむしろ立ち向かった強さの証であると言い、皆で祝杯をあげる。

Carrieはアメリカが欧州の戦争に参加しないと誓った見返りに、Wilson大統領に取り繕うにふるまうが、Aliceはこれに賛同しなかった。

DorisはWilson大統領の秘書官であるDudley Field Maloneと関わる中で、彼と恋に落ちる。

CarrieとAliceは決裂するが、Aliceは仲間と活動を続ける。

そんな中でInezが講演中に倒れて亡くなったことが知らされ、AliceはInezのためにも活動を終わらせるわけにはいかないという思いを強くする。

Aliceらは大統領が女性参政権を認めるまでホワイトハウスの門前に立ち続けると決めるが、大統領の命令で逮捕されてしまう。

f:id:urara1989:20240609150730j:image

キャスト

Alice Paul    Shaina Taub

Carrie Catt    Jenn Colella

Ida B. Wells    Nikki M. James

Harry T. Burn    Jenna Bainbridge

Lucy Burns    Ally Bonino

Dudley Field Malone    Tsilala Brock

Inez Milholland    Hannah Cruz

Ruza Wenclawska    Kim Blanck

Doris Stevens    Nadia Dandashi

Alva Belmont/Phoebe Burn    Emily Skinner

Mary Church Terrell    Anastaćia McCleskey

Mollie Hay    Kirsten Scott

President Woodrow Wilson    Jaygee Macapugay

Phyllis Terrell/Robin    Laila Erica Drew

Mrs. Herndon    Ada Westfall


f:id:urara1989:20240609150814j:image

f:id:urara1989:20240609150822j:image

f:id:urara1989:20240609150820j:image

f:id:urara1989:20240609150817j:image

感想

Public Theaterで上演された時から『Hamilton』の再来と呼び声が高かったので、今回ようやく観られるので楽しみにしていました。

▼trailer


www.youtube.com

▼開演前

f:id:urara1989:20240609150842j:image
f:id:urara1989:20240609150849j:image

登場人物は全て実在の人物で、Alice Paulを中心とした女性参政運動が史実に基づいて描かれており、男性の役も含めて全ての役を、女性とノンバイナリーの役者が演じています。(特に言及する必要性はありませんが、トランス女性の役者や車椅子ユーザーの役者も出演しています。)さらに、オーケストラにも男性の姿はありません。かなり徹底しているなと感じました。

頭の硬い年上の女性参政運動家たちと反りが合わず、一途に邁進するAliceを、脚本と音楽も手がけたShaina Taubが演じていました。『Hamilton』でいうところLin-Manuel Mirandaと比較されることが多いですが、制作開始から10年を経てブロードウェイ上演に漕ぎ着けました。

彼女の周りに集う仲間たちも個性豊かで、キャラクターの描き分けが明確にされていました。馬に乗りこなし器量の良いInez、Aliceと気心知れた間柄でユーモア溢れるLucy、ポーランド語訛りで猪突猛進なRuzaなど。

仲睦まじい様子がわかるのが、b*tchと罵られたことこそ戦った証というこのナンバー。このシーンはとにかく笑えました。

▼「Great American Bitch」


www.youtube.com

ただ単に史実を並べているような"お勉強ミュージカル"ではなく、しっかりとした人間ドラマが出来上がっていて、かつ、コメディシーンもあり、見応えがありました。ミュージカルとして教科書的な仕上がり。

女性の権利というだけでなく、人種差別にも触れられています。女性でかつ有色人種であるIda B. Wellsは、さらに厳しい現実と向き合っていたわけです。彼女のことは以前、別の作品(ミュージカル『She Persisted, the Musical』)の中で描かれているのを見たことがありますが、黒人、その中でも黒人女性の権利のために活動をしたことで有名な方です。Nikki M. Jamesが怒りに満ちたナンバーを圧倒的な歌唱力で歌い上げていました。

f:id:urara1989:20240609150939j:image

衣装は描かれている時代のものを踏襲したデザインになっていました。舞台セットも同様。

キャストはオフからオンへのトランスファーで、InezがPhilippa SooからHannah Cruzに、RuzaがHannah CruzからKim Blankに変わっています。

登場人物の中でコメディリリーフの役割を担っていたのがKim Blank演じるRuzaだと思います。ポーランド語訛りで豪快な笑い方をする愛すべきキャラクターに仕上がっていて、大好きになりました。

上述の通り、男性の役も女性もしくはノンバイナリーの役者が演じています。登場する男性の役は大統領とその側近なのですが、側近はDorisと結婚して大統領から離れるのに対し、大統領はやはり悪者として描かれています。その演じ方がやや漫画的というかわざとらしいというか、仕方ありませんが。

何もない舞台で、舞台後方に横1列に並んで女性参政運動家たちのシルエットが浮き上がり、徐々に前進しながら歌っていく姿も印象に残っています。

▼ステージドアでShaina Taubにサインをもらい、一緒に写真を撮ってもらいました。

f:id:urara1989:20240609150948j:image