ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『To Kill a Mockingbird』2019.9.24.19:00 @Shubert Theatre

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To Kill a Mockingbird』とは

1960年に発表されたハーパー・リー原作の同名小説(邦題『アラバマ物語』)を基に、Aaron Sorkinにより舞台化されたもの。

2018年12月にブロードウェイで初演された。

トニー賞では9部門でノミネートし、スカウト・フィンチを演じたCelia Keenan-Bolgerが助演女優賞を受賞した。

演出はBartlett Sher。

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あらすじ

1930年代、アラバマ州

弁護士のアティカス・フィンチは、黒人の青年トム・ロビンソンが白人女性メイエムを強姦した容疑に関する裁判に臨んでいる。

陪審員たちや聴衆の多くが白人女性の発言を信じる中、アティカスは無実のトムの弁護に挑む。

アティカスは寡で、2人の子ども、息子のジェムと娘のスカウト(愛称)とともに暮らしている。

弁護士としての名声や富よりも弱く貧しい立場の人々のために働くアティカスは、周囲からの人望も厚い。

ジェムはそんな父を尊敬しており、6歳のスカウトは男勝りの性格で兄のジェムについて回りながらすくすくと成長していく。

ジェム、スカウト、友人のディルの3人は、ある日、近くの古い小屋に潜り込むが、物音がして逃げ出す時に、ディルが柵に挟まってしまい、仕方なくズボンを脱いで去る。

翌日、その場所に行ってみると、なんとズボンが畳まれているのだった。

その後も不思議な出来事が続き、その正体がブーであると気づき始める。

(膨大な内容なので、要約しにくいです。ぜひ小説を読んでみてください。時間をかけて読む価値はあります。)

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キャスト

Atticus Finch    Jeff Daniels

Calpurnia    LaTanya Richardson Jackson

Scout Finch    Celia Keenan-Bolger

Jem Finch    Will Pullen

Dill Harris    Gideon Glick

Bob Ewell    Frederick Weller

Tom Robinson    Gbenga Akinnagbe

Horace Gilmer    Manoel Felciano

Judge Taylor    Dakin Matthews

Mayella Ewell    Erin Wilhelmi

Shariff Heck Tate    Danny McCarthy

Link Deas    Neal Huff

Mrs. Henry Dubose    Phyllis Somerville

Miss Stephanie/Dill's Mother    Rebecca Watson

Mr. Cunningham    Danny Wolohan

Bailiff    Ted Koch

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感想

こちらはミュージカルではなくプレイですが、事前にチケットを買っておいた作品の一つで、とても楽しみにしていました。

高校時代に小説を原書で読みましたが途中で挫折し(受験勉強の合間に読んでいたら取り上げられてしまい)、時間を経て映画版を観て大変感動し、その後、日本語訳された小説を読みました。

CBSのニュースで報道されたもの


Sneak Peek: 'To Kill A Mockingbird' On Broadway

▼観劇直後の感想です。

素晴らしかったことは素晴らしかったのですが、個人的にはやはり映画版の感動が強く心に残っており、グレゴリー・ペックのアティカス像が頭の中で固定されていて、ジェフ・ダニエルズの少しやさぐれて、やや酒浸りなアティカス像は受け入れ難かったです。

今回の舞台化を主導したアーロン・ソーキンは、映画版のアティカスはあまりに完璧であり、舞台版ではそれを崩して描きたかったそうで、ジェフさん自身も「グレゴリー・ペックを模倣するつもりはなかった」と発言しています。

偏見を持たず、四面楚歌の状況でも、正義のために働くアティカスはアメリカ人にとって「アメリカの良心」そのものであり、だからこそ愛される作品なのでしょう。

▼アティカス・フィンチを演じたジェフ・ダニエルズは、この役をずっと前から強く望んでいたとのこと


Jeff Daniels performs a scene from 'To Kill a Mockingbird' - Live from Here

トニー賞を受賞したセリアさんは実年齢は40代ですが、6歳の少女を見事に舞台上で体現されていました。

ちょっとした仕草や台詞の言い回し、横っ飛びで移動したりと、いたるシーンで子どもらしさを感じられました。

蛇足ですが、弟さんもブロードウェイの舞台を中心に出演する俳優さんで、兄弟揃って活躍されていますね。

▼6歳の少女スカウトを演じ、トニー賞を受賞したCelia Keenan-Bolger


Citizens of TO KILL A MOCKINGBIRD: Celia Keenan-Bolger as Scout Finch

ディルを演じたギデオンは仲良し3人組の中では実年齢がおそらく一番若い俳優さんですが、あまりそういうことは気になりませんでした。

先日書いた『Little Shop of Horrors』のジョナサン・グロフのunderstudyもしていました。

▼Dillを演じたGideon Glickは『Spring Awakening』でブロードウェイデビューを飾った


Citizens of TO KILL A MOCKINGBIRD: Gideon Glick as Dill

小説や映画版との比較ですが、舞台版では冒頭にいきなり裁判のシーンがあり、時系列がバラバラになっていたのが印象的でした。

アーロン・ソーキンとしては、60年代に発表された原作を、現代的にリノベートしたいという考えがあり、それが表れていたのがアフリカンアメリカンの役者たちの台詞が増えたこと。

原作ではあくまで添え物的存在だった乳母兼メイドの黒人女性に、舞台版では自分の意見をはっきり言わせています。

これは作品中の30年代では絶対にありえなかったことです。

また、原作ではトムが脱獄しようとして撃たれたのは17回でしたが、舞台版では5回に変更されています。

こういった点でも後述する裁判沙汰の火に油を注ぐことになってしまったのです。

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古典的名作の舞台化とあり、各方面から注目され、ロングランを続けていますが、初演に至るには数々の論争がありました。

まず1点目が原作者ハーパー・リーとの裁判。

前述の通り、アーロン・ソーキンは現代的価値観を作品中に盛り込み、現代を生きる観客に訴えかけようとしていました。

当初、ハーパー・リーは舞台版の脚本を読み、非常に強い拒否を示したそうです。

どの部分をどの程度修正したのか、詳細は伏せられたままですが、なんとか原作者との合意に至り、現在の脚本での上演の許可が下りたそうです。

それでも、ハーパー・リーとしては、今回のブロードウェイでの上演に諸手を挙げて喜んでいるわけではないようです。

古典作品に現代的価値観を与えリヴァイヴァルさせた『Oklahoma!』と通じるものがあるように感じました。

正直、この『Oklahoma!』再演版にオリジナル版の雰囲気は全くといっていいほど残っていません。

しかし、トニー賞でミュージカル作品賞を受賞した『Oklahoma!』とは対照的に、『To Kill a Mockingbird』は演劇作品賞にノミネートすらされませんでした。

これには私も大変驚きましたが、理由は定かではありません。

ミュージカルだけでなくプレイにおいても、演出家や脚本家が現代の観客に訴えかけるよう手を加える作品が立て続けにありましたが、今後もこの傾向は続くと思われます。

原作者の意図を大切にしながら、どの程度変更するのか、クリエイティブ陣のリテラシーやモラルが問われる時代だなと感じます。

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2点目がChristopher Sergelによる舞台版との抗争。

実はアーロン・ソーキンによる舞台版の前に、Sergelという人によりこの小説は舞台化されており、地方のアマチュア劇団で頻繁に上演されていたのです。

今回の舞台化にあたり、Sergel側が舞台化の権利は当方にあると言い張り、Sorkin版の売上の一部を得る資格があると主張したのです。

それに伴い、Sergel版の上演が一時中断され、上演を予定していた地方の劇団は戸惑ってしまったわけです。

以上2点がメインの論争ですが、それを押し切ってでも、クリエイティブ陣はこの作品をブロードウェイで上演したかったわけです。

そういった強い思いを感じはしましたが、この作品に限っては、小説が一番好きだったかなと思います。

 ▼原語版の小説

To Kill a Mockingbird

To Kill a Mockingbird

 

 ▼日本語訳された小説

アラバマ物語

アラバマ物語

 

▼映画版

 今回のプレイの脚本は出版されていないので、今後に期待したいところです。

まとまった時間ができたら、また原書を最後まで読んでみたいです。

最後に、翌日の観劇後、たまたまこSchubert Theatreの前を通りかかったら、ジェフ・ダニエルズさんが出てきていて、持っていたPlaybillにサインをもらうことができました。

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感想を伝えたら、私の目をしっかり見据え、"Thank you."と言ってくれました。
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一生の宝物です。

蛇足ですが、ジェフさんはHBOのドラマ『ニュースルーム』というシリーズで主演しています。

とても素晴らしい作品なので、ぜひ観てみてください。

『Little Shop of Horrors』2019.9.23.20:00 @Westside Theatre/Upstairs

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『Little Shop of Horrors』とは

1982年にオフオフブロードウェイを経て、オフブロードウェイで初演されたミュージカル。

1960年の同名の低予算映画を基にしている。

作曲はアラン・メンケン、作詞はハワード・アシュマン。

本作をきっかけにして、メンケン&アシュマンコンビはディズニーに声をかけられ、のちにディズニールネサンスの一連の作品を担当することになる。

今回の演出はMichael Mayer

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あらすじ

アル中が徘徊するような貧民街(スキッド・ロウ)で生まれ育ったシーモアは、閑古鳥の鳴く花屋の店員として雇われていた。
皆既日食の起こった日、偶然手に入れた不思議な花に、片思いの女性の名前にちなんで“オードリーⅡ”と名づける。
それを花屋のショーケースに出すと、みるみるうちに客が押し寄せ、店は大繁盛。
新聞やTVの取材など、シーモアの人生は一転し、一躍有名人になる。
しかし、“オードリーⅡ”の大好物は、なんと人間の生血だったのだ。
シーモアは自身の血を与えるが、それだけでは足りない。
そこで、オードリーの恋人で、暴力ばかり振るうS気質の歯医者・オリンを“オードリーⅡ”に与える。
オリンの消失後、シーモアはオードリーと恋仲になるが、“オードリーⅡ”の食欲は衰えず、その矛先はオードリーに向かう。

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キャスト

Seymour    Jonathan Groff

Audrey    Tammy Blanchard

Orin & Others    Christian Borle

Mushnik    Tom Alan Robbins

The Voice of Audrey II    Kingsley Leggs

Ronnette, an Urchin    Ari Groover

Crystal, an Urchin    Salome Smith

Chiffon, an Urchin    Joy Woods 『I Can Get It for You Wholesale』

Audrey II (manipulation)    Eric Wright, Teddy Yudain, Kris Robert, Chelsea Turbin

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感想

今回一番期待していたミュージカルといっても過言ではない公演でした。

映画版が大好きで何度も見直した作品に、ジョナサン・グロフとクリスチャン・ボールが出演するのですから。

▼紹介動画


Jonathan Groff & More Talk Bringing LITTLE SHOP OF HORRORS Back to Its Off-Broadway Roots

▼観劇後の感想です。

※今回の公演で新曲はありませんでした。誤った記載です。すみません。

まずクリスチャン・ボールの一人多役には驚かされましたし、彼の俳優としての矜持を強く感じました。

ホームレスでもおばあちゃんでもサラリーマンでも何でもござれ!とでも言わんばかり。

オープニングからして、「あら?すごく観たことがある人がいる!」と思ったら、アル中役のクリスチャン・ボールだったのです。

彼の役名をよく見ると「Orin & Others」となっているけれど、othersがあまりに多すぎて、役に合わせて衣装だけでなく声色まで変えて、よくここまで演じ分けられるなぁと驚愕しました。

また、下のような衣装の場面もありました。

これは私の深読みかもしれませんが、ミュージカルファンであればこのシーンで『Legally Blonde』のElleを思い起こすことでしょう。

彼も『Legally Blonde』のオリジナルブロードウェイキャストでエメット役を演じていましたが、Elle役のLaura Bell Bundyと不倫したことがきっかけで(あくまで噂)、Sutton Fosterと離婚したことは有名な話です。

Elleのようなショッキングピンクの衣装で登場するということは、ある意味、自虐ネタなのかなと個人的に思ってしまいました。

ジョナサン・グロフの素晴らしさは、歌と演技の完璧さはもちろんだけれど、健気でウブなシーモアの雰囲気が出ていたこと。

全身から汗、台詞のたびに唾を撒き散らしながら、全身全霊で役を全うしている彼にしびれました。

彼は『Frozen2』のPR活動を挟みながら、なかなかハードな公演スケジュールをこなしていましたが、後述するファンサービスも非常に丁寧で、さらに好感が持てました。

▼ジョナサン・グロフのインタビュー動画


Show People with Paul Wontorek: Jonathan Groff of LITTLE SHOP OF HORRORS

また、オードリー役のTammyさんは、ABCテレビの『Life with Judy Garland: Me and My Shadow』でジュディ・ガーランドを演じたことがあるのですが、本作の雰囲気も何だかジュディに似ていました。

最初、ジュディが蘇って舞台に現れたのかと思ったほど。

私だけかなと思っていたら、観劇後のSDで隣だった方とも「そっくりだったよね」とハモってしまいました。

オードリーはオリジナルと映画版のエレン・グリーンのイメージが強く、オードリーはブロンドでもっと若い方がいいという意見もありました。

でも、男性が年上のお姉さんを好きになることもよくあるし、これもいいのではと個人的には思いました。

(逆に、日本は実力の不確かな若手を起用しすぎなのですよ。日本のロリコン文化には辟易します。)

オードリーIIは蛍光グリーンで、4人がかりで動かす形。

舞台はシンプルながら、歯医者の医療器具など小物はしっかり作り込まれている印象でした。

この作品のラストは、もともと悲劇でしたが、その後、観客の声に合わせてハッピーエンディングに変更され、映画もそのエンディングになりました。

その後の舞台プロダクションでは、公演ごとにどちらのエンディングにするか選ばれるようになりました。

今回は、オリジナルのサッドエンディングで、登場人物全員がオードリーIIになるというショッキングなエンディングでした。

SDもなかなか玄人度が高く、周りの方とおしゃべりするのが楽しかったです。

一番仲良くなったのが元CAのお母さんと娘さんで、娘さんはブロードウェイ女優を目指していて、ジョナサン・グロフのレッスンも受けたことがあるそうで、実際にそのことを楽しそうにグロフと話していました。

▼オードリーを演じたTammyさん

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▼オリンだけでなく様々な役を演じ分けたクリスチャン・ボール
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▼ジョナサン・グロフは自撮りを手伝ってくれました。
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▼クリスチャン・ボールとも一緒に写真を撮れましたが、私が目を閉じてしまったので、また次回。
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大げさでなく、一生の思い出になりました。

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