ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Fiddler On the Roof』2019.5.2.13:00@Stage 42

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Fiddler On the Roof』とは

1964年ブロードウェイ初演のミュージカル。

邦題は『屋根の上のヴァイオリン弾き』で知られる。

ショーレム・アレイヘムによる短編小説「牛乳屋のテヴィエ」を原作とし、帝政ロシア領となったシュテットルに暮らすユダヤ教徒の家族が描かれている。

作曲はジェリー・ブロック、作詞はシェルドン・ハーミック、脚本はジョセフ・スタイン

演出は映画『キャバレー』の怪演が有名な俳優ジョエル・グレイが務めている。

今回はイディッシュ語による上演(英語字幕付き)を、オフブロードウェイの劇場で観劇した。

このプロダクションは、2018年7月にニューヨークのMuseum of Jewish Heritageでプレビューが開始され、2018年末まで上演された後、2019年2月からオフブロードウェイの劇場に場所を移して再上演されているものである。

あらすじ

テヴィエはウクライナ地方の小さな村アナテフカで牛乳屋を営み、妻と5人の娘たちと暮らしている。

テヴィエは娘たちの幸せを願い、結婚相手探しに奔走するが、なかなかうまくいかない。

長女ツァイテルにテヴィエと険悪な仲の肉屋のラザールとの結婚話が舞い込むが、彼女にはすでに仕立て屋のモーテルという恋人がいた。

テヴィエは猛反対するが、最終的には2人は結婚する。

次女ホーデルは革命を夢見る学生闘士パーチックと恋仲になり、逮捕されたパーチックを追ってシベリアへ発つ。

三女チャバは宗教の異なるロシアの青年と駆け落ちする。

娘たちの巣立ちと並行して、ユダヤ人排斥運動ポグロムは激化の一途を辿り、テヴィエたち一家は住み慣れた故郷アナテフカを追われ、新天地アメリカへと旅に出ることになるのだった。

キャスト

Tevye    Bruce Sabath

Golde    Jennifer Babiak

Tsaytl    Rachel Zatcoff

Hodl    Stephanie Lynne Mason

Khave    Rosie Jo Neddy

Shprintze    Raquel Nobile

Beylke    Samantha Hahn

Leyzer-Volf    Adam B. Shapiro

Motl Kamzoyl    Ben Liebert

Pertshik    Drew Seigla

Fyedke    Cameron Johnson

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感想

続いては、オフブロードウェイの劇場で観劇した『屋根の上のヴァイオリン弾き』についてです。

私は映画版と、日本での市村正親さん主演の舞台を何度か観劇したことがあるのですが、その時は「ユダヤ人家族を描いた作品」という捉え方ではなく、「父親と娘たちの理解し合えないながらも互いを思いやる気持ち」に感動した覚えがあります。

今回は、イディッシュ語による上演ということで、作品に流れるユダヤ人の歴史や文化といった部分をより色濃く感じられるのではないかと期待して、観劇に行ってきました。

さて、イディッシュ語だけではもちろん理解できる方がきわめて限られるので、もちろん英語の字幕が舞台の両側についていました。

私はイディッシュ語という存在自体、映画の影響などでおぼろげに知っていた程度で、詳しくは知らなかったので、少しだけ調べてみました。

イディッシュ語中欧や東欧のユダヤ人の間で話されていたドイツ語に近い言葉で、ユダヤ語とも呼ばれるそうです。

現在では主に話されることはないようですが、このページの一番下に掲載した動画内で、ユダヤ系のSteven Skybellが「祖父母の世代が話の内容を他の人に知られたくない時に使っていたのを聞いたことがある」と話しています。

ユダヤ系の方でさえその程度ですから、出演する俳優たちはほとんどがイディッシュ語を話すことはできず、最初は英語で読み合わせを行った上で、イディッシュ語に変えていくというプロセスを経て、今の舞台が出来上がったそうです。

物語の舞台であるウクライナ地方に合わせて、その地に住む当時のユダヤ人が話していたイディッシュ語で上演するという画期的な企画だと思いました。

イディッシュ語を初めて聞く私には、ドイツ語のように聞こえました。

▼本公演のtrailerです。


FIDDLER ON THE ROOF IN YIDDISH - Montage

▼観劇後の感想です。

1階席しかないこじんまりした客席の最後列センターで観ましたが、見下ろすことはなく、ちょうど役者さんの目線の高さくらいで観やすかったです。

シンプルな舞台上で、大人数の陽気なナンバーあり、テヴィエが哀愁を漂わせながら歌うソロナンバーありで、あっという間の3時間でした。

内容を知っていたこともあり、英語字幕は途中から追うのはやめて、役者さんの表情や声色などから意味を類推して観劇を楽しみました。

(英語字幕の文字は小さめでしたし、文字を追っていると役者さんが見えず、役者さんを追っていると文字を追えず、どっちつかずになってしまうので、結局字幕はやめました。)

冒頭にも書いたように、ユダヤ人の文化を特に色濃く感じられたのは、三女チャバとロシアの青年との恋愛の場面かなと思いました。

ユダヤ教を捨てて、ロシア正教会に入ったチャバを心配するテヴィエの気持ちを思うとたまらなく切なくなりました。

客席に入るとまず目に飛び込んでくるのが、舞台背景に堂々と並ぶ4つの文字。

その意味が気になったので、後で調べようとメモをしていたのですが、Twitterでfollowしている方が教えてくれました。

モーセ五書だったわけです。

ネタバレを避けるために書きませんが、この文字の書かれた舞台背景は紙でできていて、後半に大胆にもあることをされてしまいます。

この言葉の意味を知った上で思い返すと、テヴィエたちにとって相当屈辱的な出来事だったのだろうと理解できました。

▼ニュース映像


Yiddish version of Fiddler on the Roof

 

 公式サイト:Fiddler on The Roof

▼今回はStage 42というオフブロードウェイの劇場で観劇しました。 

木曜日のマチネ枠としてオススメの一作です。

▼本公演のプロデュースから携わったJoel Greyとオリジナルキャストでテヴィエを務めるSteven Skybellが本作への想いを語っています。お時間のある時にどうぞ。


Joel Grey & Steven Skybell On The Yiddish Version Of "Fiddler on the Roof"

『Kiss Me Kate』2019.5.1.20:00@Studio 54

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『Kiss Me Kate』とは

1948年ブロードウェイ初演のミュージカル。

作曲はコール・ポーター。脚本はサミュエル・スペワックとベラ・スペワックによる。

初演時はトニー賞5部門を受賞した。

今回は2019年のRoundabout groupによるrevival公演について書く。

演出はスコット・エリス。振付はウォレン・カーライル。

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あらすじ

次の演目は、シェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』を元にしたミュージカル『キス・ミー・ケイト』。

その公演に、フレッド、フレッドの元妻のリリー、若手女優のロイスらが出演することとなる。

公演初日、フレッドは若手女優ロイスに向けて花束を贈るが、誤ってリリーの元にその花束が届いてしまう。

リリーは花束を受け取って上機嫌だったが、1幕の途中でロイス宛だったことがわかってしまう。

怒ったリリーは幕間で帰ってしまう。

一方、ダンサーのビルと恋仲にあるロイスは、ビルのギャンブル癖に頭を悩ませていた。

果たしてショーは無事に最後まで上演できるのだろうか。

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キャスト

Lili Vanessi/Katherine    Kelli O'hara

Fred Graham/Petruchio    Will Chase

Bill Halhoun/Lucentio    Corbin Bleu

First Man    John Pankow

Harrison Howell    Terrence Archie

Louis Lane/Bianca    Stephanie Styles

Hattie    Adrienne Walker

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感想

今年初のブロードウェイ遠征に行ってまいりました。

到着日に観劇した、こちらの作品からレビューしていきます。

この作品はコール・ポーターの代表作であり、主演のケリー・オハラの歌声を楽しみたいということから選びました。

メザニン最後列センターでしたが、時差ボケも吹き飛ぶ迫力のあるダンスシークエンス、美声、演技を楽しめました。

▼本公演のtrailer


Kiss Me, Kate - Montage - Roundabout Theatre Company

作品は映画にもなっており、日本でも最近では松平健さんと一路真輝さん主演で公演されているので、ご存知の方も多いでしょう。

劇中劇としてシェイクスピアの「じゃじゃ馬ならし」が演じられている舞台の表と裏で、元夫婦や恋人たちの悲喜こもごも描いたミュージカルです。

このプロダクションは2019年のトニー賞で、リバイバル作品賞主演女優賞(Kelli O'hara)、振付賞(Warren Carlyle)でノミネートされています。

▼観劇後の感想です。

今まで『Light in the Piazza』や『South Pacific』『The King and I』などで正統派ヒロインを数多く演じてきたケリー・オハラですが、本作では元夫と共演することとなったベテラン女優役を演じています。

劇中劇の役どころは男嫌いでやや乱暴な女性で、全くケリー・オハラの清楚なイメージには合わないのですが、なんとか頑張って演じていらっしゃいました。

でもやはり、ケリーが「I Hate Men」を歌っても、歌がうますぎるが故に、優雅な響きに聞こえてしまい、いまいちキャサリン(「じゃじゃ馬ならし」の中の役名)らしくないのですよね。

難しい役どころです。

一方、ケリーの歌う美しい「So In Love」は持ち前のdivaっぷりを存分に発揮しており、私は思わずうっとりと聴き惚れてしまい、自然と涙が流れてきました。

▼Kelli O'haraの歌う「So In Love」


Kelli O'Hara Sings 'So in Love' from KISS ME, KATE

キャストは他に、ハイスクールミュージカルシリーズでおなじみのコービン・ブルーがダンスの腕前を披露しています。

私はコービンと気付かずに観劇していて、ステージドアでも目の前でサインをもらったにも関わらず、トレードマークのアフロヘアーではなかったので全く気付かずじまいで、宿に帰ってから気づきたいそう後悔したのでした。

また、そのコービンの相手役として、本作でブロードウェイデビューを飾ったステファニー・スタイルズは新人ながら「Tom, Dick or Harry」や「Always True To You (In My Fashion)」などの名ナンバーを全うしていました。

残念ながらトニーにノミネートはされませんでしたが、今後に期待大の若手です。

蛇足ですが、ちなみにこちらの役は、元々『Mean Girls』のGretchen役でトニー賞助演女優賞にノミネートされたAshley Parkが演じると報道されていましたが、彼女はおそらく映像系の仕事の方を取ったのでしょう。

それにしても、「Tom, Dick or Harry」で「Dick Dick」のところを腰を振る振り付けにしていて、会場から爆笑が沸き起こっていたのですが、これは「Dick=男性器の隠語」を強調していたからで、私もさすがに失笑してしまいました。

少々下品ではありますが、コール・ポーターも天国で笑っていてくれることを願います。

Warren Carlyleによる振付の最たるものは「Too Darn Hot」で観ることができます。

実際に観劇した際には、「Too Darn Hot」のパフォーマンス後、約1分間くらい拍手が鳴り止まなかったほどの盛り上がりでした。

▼本公演キャストによる「Too Darn Hot」、振付はWarren Carlyleによる。


‘Kiss Me Kate’ cast perform ‘Too Darn Hot’ live

また、私の回ではなかったのですが、別の回では手話を使った上演もされていたようです。

ブロードウェイでも様々な形でバリアフリーが進んでいます。

改めて、時代によらない、コール・ポーターの音楽性の普遍性に気づかされるとともに、ブロードウェイの魅力がたっぷり詰まった作品であると感じました。

終演後はステージドアへ移動し、ケリーやコービン、ステファニーらキャストさんたちとお話しすることができました。

他の観客の方に聞いたのですが、渡辺謙さんは映画の宣伝で渡米されていたようですね。

いつも遠くから見つめているだけで、お話できたのは今回初めてでしたが、ケリーさんはとても気さくで素敵な方でした。

お疲れのところ、ありがとうございました。

公式サイト:

Kiss Me, Kate – Roundabout Theatre Company

 ▼今回の劇場はStudio 54でした。