ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Prayer for the French Republic』2024.2.24.14:00 @Samuel J. Friedman Theatre

f:id:urara1989:20240323162131j:image

『Prayer for the French Republic』とは

2022年オフブロードウェイでプレミア上演された後、2024年ブロードウェイで初演された、Joshua Harmonによるプレイ。

2022年ドラマデスク賞最優秀演劇賞を受賞した。

3幕構成。

演出はDavid Cromer。

あらすじ

2016年フランス、パリに暮らすマルセルの自宅を、彼女の遠縁にあたるモリーアメリカから語学研修で訪れる。

マルセルは大学で教鞭を取っていて、アルジェリア出身のユダヤ人医師の夫チャールズと暮らしている。

そこに、彼らの息子ダニエルが顔に怪我を負って帰宅する。

ダニエルはキッパ(ユダヤ教徒特有の帽子)を被っていたことから、反ユダヤ主義の人々のターゲットにされたのだった。

一方、シーンが変わり1944年、ナチスによる迫害に苛まれる第二次世界大戦下。

子どもたちが収容所に連行され、残された夫婦は自宅に閉じこもっている。

2つの時代を行き来しながら、ユダヤ人の生き様を描く。

f:id:urara1989:20240323162142j:image

キャスト

(2016-2017)

Marcelle Salomon Benhamou    Betsy Aidem

Charles Benhamou, Marcelle's husband    Nael Nacer

Elodie Benhamou, their daughter    Francis Benhamou

Daniel Benhamou, their son    Aria Shahghasemi

Patrick Salomon, Marcelle's brother    Anthony Edwards

Molly, a distant American cousin    Molly Ranson

Pierre Salomon, Marcelle & Patrick's father    Richard Masur

(1944-1946)

Irma Salomon, Pierre's grandmother    Nancy Robinette

Adolphe Salomon, Pierre's grandfather    Daniel Oreskes

Lucien Salomon, Pierre's father    Ari Brand

Young Pierre Salomon    Ethan Haberfield

感想

前シーズンでは反ユダヤ主義の流れの中で、『Leopoldstadt』や『Parade』が上演され、特に『Parade』が始まった頃は反ユダヤ主義団体によるデモが劇場前で行われたことも記憶に新しいですが、今シーズンもその流れを汲んだ作品が多く見受けられます。

この作品もその一つで、時代を超えたユダヤ人家族を描いていることから『Leopoldstadt』にやや似ています。

▼trailer


www.youtube.com


f:id:urara1989:20240323162209j:image

f:id:urara1989:20240323162206j:image

戦時中のナチスによる迫害とともに、つい最近のフランスでの反ユダヤ主義による被害も描かれており、とても驚いたと同時に、日本に生まれ育った身では理解するのに難しい場面が多く、想像力をたくましくしないといけませんでした。

廻舞台で盆が回るたびに時代が移り変わり、徐々にそれぞれの相関図が明らかになっていきます。

決して明るい話ではありませんが、マルセルの娘エロディーなどのコメディックな演技が笑いを誘い、張り詰めた場が和む場面もありました。

最終的に、反ユダヤ主義の流れを受け、家族は住み慣れたパリを離れ、仕事も家も捨てイスラエルに移住することになりますが、その日にヘブライ語で唱える祈りの言葉が印象的でした。

『Teeth』2024.2.23.19:30 @Playwrights Horizons Mainstage Theater

f:id:urara1989:20240316164001j:image

『Teeth』とは

2024年オフ・ブロードウェイで初演されたミュージカル。

原作は2004年の同名映画(邦題『女性鬼』)。

作曲はAnna K. Jacobs、作詞はMichael R. Jackson、脚本はAnna K. JacobsとMichael R. Jacksonの共作。

2009年にプロジェクトが発足し、15年の歳月を経て今回のオフ・ブロードウェイでの初演

演出はSarah Benson。

あらすじ

Dawnは敬虔なクリスチャンで結婚するまで貞節を守ると誓い、義父が神父を務める教会に通っている。

ある日、友人のTobeyにレイプされたDawnは、突然Tobeyの叫び声を聞き、足元が血まみれになっていることに気づき、自身がヴァギナ・デンタータを持っていることを知る。

Tobeyの受けた傷害事件の犯人探しが始まるが、Dawnに全てを打ち明けられたゲイの友人であるRyanは、彼女の無実を証明するために自ら関係を持つことを提案する。

Ryanにも同じことをしてしまうかもしれないと心配するDawnだったが、レイプでなければ問題ないのではないかと考え、彼の案に乗ることにする。

無事に行為を終えるものの、その一部始終をネットでライヴ配信していたことを知ったDawnは怒り、その瞬間にRyanにもTobeyと同じ悲劇に見舞われる。

キャスト

Dawn O'Keefe    Alyse Alan Louis

Pastor/Godfather/Truthseeker/Dr. Godfrey    Steven Pasquale

Brad    Will Connoly

Tobey/Truthseeker    Jason Gotay

Ryan/Truthseeker    Jared Loftin

Promise Keeper Girl Becky    Courtney Bassett

Promise Keeper Girl Fiona    Phoenix Best

Promise Keeper Girl Trisha    Jenna Rose Husli

Promise Keeper Girl Rachael    Lexi Rhoades

Promise Keeper Girl Stephanie    Wren Rivera

Promise Keeper Girl Keke    Helen J Shen

感想

オフ・ブロードウェイのPlaywrights Horizonsで上演されている新作ミュージカル『Teeth』を観ました。2000年代の同名のB級映画を基にした作品ですが、映画『プロミシング・ヤング・ウーマン(2020)』を彷彿とさせる内容。これは、この数年ブロードウェイで立て続けにテーマとされているウーマン・エンパワメントに繋がるものですが、15年前の2009年にはプロジェクトが発足していました。元々はMichael R. Jacksonが発案し、女性の視点が必要と考え、Anna K. Jacobsとの共作となりました。

▼footage


www.youtube.com

▼開演前

f:id:urara1989:20240316164023j:image

この作品のテーマは大きく2つあります。1つは性的暴力を受けた女性のリベンジ、もう 1つはキリスト教で教えている貞操観念への疑問。

主人公のDawnとともに教会に集っているPromise Keeper Girls(彼女たちがPKGと書かれたジャケットを着ているのがもう面白い)ですが、Promise Keeperとは実在するキリスト教団体で、婚前交渉や妊娠中絶、同性愛、ポルノ、フェミニズムなどを否定している宗派の人々です。この辺りのキリスト教の教義に対する疑問や皮肉といったものは、Michael R. Jacksonの手がけた『A Strange Loop』にも通じるものだと感じました。

ヴァギナ・デンタータが活躍するシーンでは当然、爆笑が巻き起こるわけですが、想像以上に生々しくてギョッとしてしまいました。ヴァギナ・デンタータによって切り取られたイチモツはシリコン製で見た目の質感が妙にリアルで(プルプルしている)、流血も凄まじかったです。(最前列で観るもんじゃなかったです。)確実にR18の舞台でした。

▼タイトルナンバー


www.youtube.com

Stephen Pasqualeは神父であるDawnの義父と彼女を受け持つ産婦人科医の2役を好演。

Dawnの義理の兄であるBradを演じるWill Connolyは、『Be More Chill』のオフ・ブロードウェイ公演でJamieを演じていました。今回はバーチャル・リアリティを使って色々していました。(あえてぼかしておきます。)最近Apple社からVision Proが発売されたばかりなので、旬だなと思いました。

このようにバーチャル・リアリティであったり、動画サイトでの生配信であったり、2000年代にはなかったものが登場することから、原作映画の内容とは結構異なっているようです。

▼「Modest Is Hottest」


www.youtube.com

途中、床から天井までの長さの2/3くらいまで上がる炎や大量のドライアイスの靄など、オフ・ブロードウェイとは思えないような舞台装置が敷かれていました。