ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『踊らん哉(1937)』Shall We Dance

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『踊らん哉(1937)』とは

1937年公開のミュージカル映画

フレッド・アステアジンジャー・ロジャースのコンビ主演作としては7作目。

音楽はジョージ・ガーシュウィンとアイラ・ガーシュウィンの2人(ガーシュウィン兄弟)が担当しており、「誰にも奪えぬこの想い(They Can't Take That Away From Me)」がアカデミー賞歌曲賞にノミネートされた。

監督はマーク・サンドリッチ

タイトルは映画監督のヴィンセント・ミネリによるアイディアで、彼が友達であったガーシュウィン兄弟に提案した。

あらすじ

ピーター・P・ピーターズ(ペトロフ)はアメリカのバレエダンサーで、密かに古典的バレエと現代風のジャズダンスを融合させたいと思っており、パリでジェフリーの持つバレエ団のために踊り名をあげていた。

ある時、写真をふと見かけたことをきっかけに、ピーターは有名なタップダンサーのリンダ・キーンに一目惚れする。

ピーターはなんとかリンダに出会い、奮闘するが、リンダはそつない態度をとる。

パリを発つ時、ピーターに今も恋する元彼女であるデニースが訪ねてくるが、既に結婚したと話し追い払う。

パリからニューヨークへ戻る船の上で2人は再会し親しくなる。

しかしそのうちに、デニースによってピーターが秘密裏に結婚したことが噂され、船中にその噂が広まる。

人々はその結婚相手がリンダだと勘違いし、このことに怒ったリンダは船上から飛行機に乗ってニューヨークに発ってしまう。

ニューヨークに着くとすでに新聞各社は2人の結婚の噂を書き立てていた。

キャスト

ペトロフ/ピーター・P・ピーターズ フレッド・アステア

リンダ・キーン ジンジャー・ロジャース

ジェフリー・ベアード エドワード・エヴェレット・ホートン

セシル・フリントリッジ エリック・ブロア

アーサー・ミラー ジェロームコーワ

デニース・タントリン ケティ・ガリアン

ジム・モンゴメリー ウィリアム・ブリスベーン

感想

アステア&ロジャースのコンビ主演作の中でも代表的なものとして多くの方が名前を挙げる作品です。

あらすじは上記のとおり。

この時期のミュージカルコメディにありがちな男女の思い違いやすれ違いという感じで、特段新鮮味はありません。

そんな本作の魅力は、何と言ってもカーシュウィン兄弟が本作のために書き下ろした楽曲を楽しむことができることだと思います。

これらの楽曲には後のブロードウェイミュージカル『Crazy For You』に採用されているものもあるので、『Crazy For You』で馴染みのある曲が多いという方もいらっしゃるかもしれません。

例えば、受賞には至りませんでしたがアカデミー賞にノミネートされた「They Can't Take That Away from Me」はスタンダードナンバー化されている名曲です。

離婚を前提に結婚したはずなのに次第に惹かれあっている場面で、アステアが歌います。

▼「They Can't Take That Away from Me」


They Can't Take That Away from Me – Fred & Ginger in Shall We Dance 1937

英語にも方言というか発音の仕方に地域による差や個人差があり、そういった違いをいちいち気にしないでいようという「Let's Call the Whole Things Off」では、ローラースケートで踊るユニークなダンスが見られます。

ちなみに、私のこの曲との最初の出会いはメグ・ライアン主演の映画『恋人たちの予感』でした。

 ▼「Let's Call the Whole Thing Off」


Fred Astaire and Ginger Rogers - Let's Call The Whole Thing Off HQ

こちらもミュージカル『Crazy For You』に採用されている本作のタイトル曲。

どれだけロジャース演じるリンダが好きなのか想像はできますが、さすがにダンサー全員に同じマスクをつけさせると不気味だなと私は思ってしまいましたが、これもラストの演出のために必要なのだと後から気づくのでした。

でもやっぱり同じマスクのダンサーに囲まれて踊るアステアのダンスがどれだけ上手であっても、やっぱりシュールですね。 


Fred Astaire - Shall We Dance

今回もアステアのダンスは冴え渡っていました。

コンビのダンスもすっかり板についていて、見ごたえがあります。

サブシーンですが、スペルを伝えようとしてもなかなか伝えられない場面など、コメディシーンに尺が取られており、きっと当時の映画館では爆笑の渦が巻き起こっていたのだろうなと想像しながら観るのも楽しいものです。

 

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『スリル・ミー』2018.12.23.16:00@東京芸術劇場シアターウエスト

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『スリル・ミー』とは

2005年にオフブロードウェイで初演されたミュージカル。

1924年に実際に起きたレオポルドとローブ事件を基にしている。

作詞・作曲・脚本はステファン・ドルギノフ。

日本では2011年に初演され、以来断続的に上演されている。

演出は栗山民也。

あらすじ(ネタバレなし)

刑務所内の審理室。

受刑囚「私」の仮釈放請求審理委員会が行われている。

34年前、「私」と「彼」とともに犯罪史上に残る残忍な誘拐殺人事件を起こした。

動機は「スリルを味わいたかったから」。

物語は二人が19歳の青年だった遠い過去へと遡っていく。

「私」と「彼」は幼い頃からいつも一緒だった。

裕福な家庭に育ち、頭脳明晰な二人は、飛び級の末、弁護士を目指して同じ大学に進む。

ところがしばらくして「彼」は突然姿を消してしまう。

久しぶりに再会した「彼」は、哲学者ニーチェの思想に傾倒しており、自分を超人だと信じていた。

「彼」はスリルを味わうため、そして自ら超人だと証明するために犯罪に手を染めていく。

「彼」を深く愛する「私」は、「彼」の愛を得たいがためにその犯罪に手を貸す。

二人の関係は、“お互いの要求に全て応える”という“血の契約書”によって、さらに強固なものになっていった。

放火や空き巣を繰り返す日々。

だが、やがてそれらに満足できなくなった「彼」は、「私」に次なる“完全犯罪”を持ちかける。

それは殺人だった。

ターゲットに決まったのは見ず知らずの少年。

計画は完璧に進んでいるはずだった。

しかし、あることをきっかけに警察の手が2人に伸びていく。

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キャスト

私  成河

彼  福士誠治

ピアノ 朴勝哲

感想

クリスマスイブイブに、ずっと観てみたかった『スリル・ミー』に行ってきました。

これ以降もネタバレなしで書いていきます。

↓観劇直後の私るんのツイートです。

↓trailerです。


ミュージカル『スリル・ミー』2018 成河×福士誠治

2人のキャストによるミュージカルは今までも観たことがあります(今年でいえば『グーテンバーグ・ザ・ミュージカル』ですね)が、こんなにシンプルな舞台演出でここまで圧倒されるとは驚きでした。

舞台はモノトーンの色調の2階構造で、1階中央に2階への階段があり、2階の上手側にピアノさんがいます。

役者さんは1階の階段裏から出入りする形になっていました。

客席はF列以降から段差がある座席になっているのですが、私は段差のない最後列からの観劇でしたが、どセンターだったので全体を満遍なく観ることができました。

福士さんは『RENT』以来かなと思いますが、サディスティックで「私」をコントロールしきっていると思っており、父からの愛を弟から奪取したい「彼」を好演していました。

成河さんは『エリザベート』ではすれ違ってしまったので実は今回初めましてでしたが、かねがね評判は聞いていたのでとても楽しみにしていました。

まず印象的なのは「私」の年齢による声色の変化のつけ方。

青年期は良家の坊や感のあるややマゾヒスティックな雰囲気の中に、時折秘めた愛憎を露呈させる荒々しい声。

壮年期はある程度の年月を壁の中で過ごしたことにより人生を悟りきった声。

照明の明暗に伴う、声の変化で年代のシフトが明確になっていました。

シアターウエストという空間の狭小さにより、2人の愛憎、感情のぶつかり合いがより直接的に、痛いほど観客に伝わるように思いました。

舞台装置は上記の階段以外に、中央上方に刑務所の窓、2階の中央に扉、殺人のための道具くらいでした。

それ以外、被害者の少年やその家族はもちろん出演しませんし、背景の変化はなく、そういったほぼ全てが観客の想像に任されていたので、その分広がりがあり、様々な捉え方ができる舞台だと感じました。

彼らがしたことは決して許されることではありませんし、そのことは事前によく理解していたのですが、上演が始まると、次から次へと矢継ぎ早に感情に押し流されて、決断力とかそういったことはないがしろにされながら事件が起きていき、あっという間に100分間が過ぎ去っていました。