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『Cabaret』2024.5.22.20:00 @Kit Kat Club at the August Wilson Theatre

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『Cabaret』とは

1966年ブロードウェイで初演されたミュージカル。

作曲はJohn Kander、作詞はFred Ebb、脚本はJoe Masteroff。

原作はクリストファー・イシャーウッド作の小説「さらばベルリン」をもとにした、ジョン・ヴァン・ドルテン作の戯曲「私はカメラ」。

今回は2021年のウエストエンド公演が2024年にブロードウェイにトランスファーした、リバイバルプロダクションを観劇した。

演出はRebecca Frecknall。

あらすじ

1930年代ベルリン、新作執筆のためにドイツに赴いたアメリカ人小説家のクリフは、ドイツ人のエルンストの紹介で、フロウライン・シュナイダーの経営する下宿先を何とか見つける。

退廃的なキャバレー、キットカットクラブを訪れたクリフは、キャバレーの踊り子で女優志望のサリーに出会う。

その後、恋人と別れたサリーはクリフの下宿先に転がり込み、2人は同棲するようになる。

一方、フローライン・シュナイダーはユダヤ人のシュルツ氏からパイナップルを贈られ、2人は親しくなる。

世の中ではドイツ労働党の勢力が増し、ナチスが台頭してしつつあった。

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キャスト

Sally Bowles    Gayle Rankin

The Emcee    Eddie Redmayne

Clifford Bradshaw    Ato Blankson-Wood

Fraulein Schneider    Bebe Neuwirth

Herr Schultz    Steven Skybell 『Fiddler on the Roof』

Fritzie/Fraulein Kost    Natascia Diaz

Ernst Ludwig    Henry Gottfried

Frenchie    Gabi Campo 『West Side Story』

Helga    Ayla Ciccone-Burton

Hans    Colin Cunliffe

Victor    Marty Lauter

Herman/Max    Loren Lester

Lulu    Christian Kidd

Bobby    Julian Ramos 『New York, New York』

Texas    Corinne Munsch

Rosie    Hannah Florence

感想

問題の『Cabaret』をブロードウェイで観てきました。去年2023年ロンドンでこのプロダクションを観劇して、ブロードウェイでもぜひ観たいと心に決めていたので、半年前からチケットを入手してこの日が来るのを今か今かと心待ちにしていました。ただ少し気がかりだったのがニューヨークの批評家たちからのmixed reviews。ロンドンではオリヴィエ賞を軒並み受賞したこのプロダクションはニューヨークでも好評を博すと期待されていましたが、蓋を開けてみると批評家からの評判も下馬評も芳しくありませんでした。ロンドンからブロードウェイにトランスファーして、いったい何が変わったのでしょうか。期待と不安を胸に劇場に向かいました。

▼ロンドン公演を観劇した感想をまとめた記事はこちら

nyny1121.hatenadiary.com

20時開演の公演で、劇場前に着いたのは18時半。すでに列ができていて、18時45分頃から少しずつ列が動き出し、ホワイエに入ったのは18時50分頃でした。手にスタンプを押され、手渡されたシールをスマホのカメラに貼ると準備万端です。

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ちょっと残念だったのはロンドンでは地下に降りてそのままキャバレーに入る形だったのに対し、ブロードウェイでは地下に潜った後、再び屋外に出てから入場だったので、一旦現実世界に戻されること。劇場の仕様で仕方なかったのでしょう。

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 ▼PV


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19時半までは客席には行けないので、バーのあるホワイエで過ごします。場内に足を踏み入れ簾をくぐると、すぐにパフォーマーと目が合ってなぜか絡まれました。ジェスチャーで何かを表しているようでしたが訴えは分からず、笑うことしか対応できませんでしたが、何とかその場をやり過ごし、バーへ向かいました。バーは地下1階、1階、2階にそれぞれあり、地下1階のバーが最も大きくカクテルの種類も豊富でした。地下1階は手前にステージがあり奥にバーがあるのですが、ステージ以外の場所にも至る所にパフォーマーがいて言葉を発することなく、絶え間なく演じ、時に楽器演奏をしていました。ロンドンとの違いはパフォーマーが表情豊かで、客に積極的な態度をとること。これがアメリカ人向けの変更点なのかと勝手に思いました。1階では楽器演奏がメインだったかと思います。2階でのパフォーマンスはほぼなかったと記憶しています。地下1階のトイレの男女表記がドイツ語なのはロンドンと同じでした。

客席に行ってみると、ロンドンの劇場と瓜二つの構造。円形の舞台を囲むように客席があり、メザニンにオケがいました。今回、私は入り口側のオーケストラ席センターの前方に座りました。食に興味がなかったので私は座りませんでしたが、いいお値段(900ドル+α)を出せばお食事付きのシートに座れますのでお試しあれ。

本題に入りますが、観劇して分かったのはロンドン公演と演出の付け方はほぼ同じだったということです。もしかしたら軽微な差をつけているのかもしれませんが、少なくとも私が一見した限りではそうでした。ということは、同じ公演がイギリスでは賞賛され、アメリカでは酷評されたということになります。この理由について、どうやらアメリカ人はこの演出をtoo muchに感じてしまったようです。その最たるものがEddy演じるEmcee。これまで様々な役者がEmceeを演じてきて、やはり元祖はJoel Greyですし、Alan Cummingもまた別のアプローチで演じましたが、リバイバルするからにはそれらとは異なる新たなEmcee像が必要で、それを頑張って演じた結果、やりすぎ感が出てしまったと受け取られてしまったようです。私は興味深いと思って観ていたのですが。実際、私の前に座っていたゲイカップルは1幕で帰ってしまいました(お陰で2幕は視界良好でした)。Kit Kat Clubを作り上げたのはブロードウェイでは今回が初めてではないですし、そこに目新しさはなく、演出もやりすぎとみられてしまったようです。

エストエンドでJessie Buckleyが演じたSallyですが、ブロードウェイではGayle Rankinが演じています。彼女の名前をご存知ない方が多いと思われますが、2014年の『Cabaret』ブロードウェイ再演にもSally役ではありませんが出演していました。実は映画『グレイテスト・ショーマン(2017)』にも出演しているので探してみてください。また、Netflix series『GLOW』に主要キャストで出演していますが、その中でライザ・ミネリのモノマネをするシーンがあり、この作品との縁がある方なのだなと思いました。確かに知名度はありませんが、彼女はSallyとして適役だったと思います。ただこのSallyとCliffordの間にケミストリーが全く感じられませんでした。これは役者さんが良くなかったと言っているわけではなく、人選の問題です。もちろんCliffordはバイセクシャルで男の子の方が好き、というような描写もありますし、Sallyとは束の間の関係ではありますが、この2人に肉体関係があったようには一切見えませんでした。

それ以上に熱かったのが下宿先の大家さんであるFraulein Schneiderとユダヤ人の果物屋さんであるHerr Schultzのカップルです。こちらの2人には観客に「何とかうまくいってほしい」と願わせる不思議な魅力、相性の良さがありました。そもそもこの2人のキャスティングがこの上ないのです。Fraulein SchneiderのBebe Neuwirthは現在もブロードウェイでロングランしている『Chicago』でVelmaを演じてトニー賞を個人で受賞していますが、『Chicago』と『Cabaret』は同じKanderとEbbが手がけたミュージカルで縁があります。また、Herr SchultzのStevenは、断続的にオフ・ブロードウェイなどで上演が繰り返されているイディッシュ語版の『Fiddler on the Roof』でテヴィエ役を長年演じている方で、まさにこの役を演じるべくして演じた役者といえます。このプロダクションで最も面白いと思うのが大家さんの持つ紙袋に果物屋さんがゆっくりとパイナップルを入れるシーン。入れ終わると大家さんが「ちょっと横にならないと」と言い観客は爆笑していました。この場面は明らかに2人の性行為のメタファーで、とても可笑しくて個人的にお気に入りです。

▼クリエイティブやキャストが語る『Cabaret』


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反ユダヤ主義が台頭する現代において、この作品をリバイバルする意義は誰の目にも明らかだと思います。ナチスの勢力が拡大していることを表すために、徐々に人々の衣装が変化していきます。サリーは最初は毛皮のコートや可愛らしい服装をしていますが、中絶のためにミンクのコートを売り、最後にはナチス親衛隊の制服のような黄土色のパンツスーツに身を包み、苦しみや痛み、怒りに悶えながらタイトルナンバーを絞り出すように歌います。決して綺麗な歌い方ではないです。でも、この時の傷ついた彼女はこのようにしか歌えなかったのだと想像します。ラストでは、冒頭であれだけ個性豊かだったダンサー達も誰も彼も皆、同じ黄土色のパンツスーツを着て、無機質な人形とともに廻り舞台の上で、時代に流されるままに流されていきます。人から感情を取り去ってしまうナチスによる影響を舞台上で表したこの演出はもっと評価されるべきだと思いました。前半の所謂「やりすぎ感」は、この後半の無個性・無機質なものとの対照性を出すために必要であり、ナチスの影響をより強調するためにも重要だったと私は感じました。

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