ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

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『White Girl in Danger』2023.3.19.14:00 @Tony Kaiser Theatre

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『White Girl in Danger』とは

2021年夏のワークショップを経て2023年にオフブロードウェイの2nd Stageで初演されたミュージカル。

脚本・作曲・作詞は『A Strange Loop』トニー賞ピューリッツァー賞を受賞したMichael R. Jackson。

振付は『A Strange Loop』や『Suffs』などのRaja Feather Kelly。

演出は2022年再演の『The Skin of Our Teeth』でトニー賞にノミネートされたLileana Blain-Cruz。

あらすじ

舞台は架空のソープオペラの世界、オールホワイト。

「オールホワイト・ライター」の脚本を書くドラマで主役を演じるのは全て白人キャスト。

3人の白人女子高生役ー薬物中毒のMegan(メガン)と神経性過食症のMaegan(メイガン)とDV被害者のMeagan(ミーガン)と、それぞれの母親とボーイフレンドが登場し、お決まりのドラマを演じる。

ピンチに陥った時の彼女たちの常套句は "If 〜, my mom's gonna kill me!"(〜したら、ママに殺されちゃう!)

その一方で、黒人たちは「ブラックグラウンド」として召使役、警察から暴力を受ける役、歴史物での奴隷役などの役回りを担うことになっていた。

そんな中、黒人女性キーシャは自身が主人公となるドラマに出演したいという夢を持つが、ウェイトレスや看護師などとして働くキーシャの母ネルや元彼のタリクはそれに反対する。

白人女性俳優が殺されたことで、思いがけずキーシャに主人公の親友役を演じるチャンスが巡ってくる。

徐々にキャリアを積み重ね、クィーン・ビー的役柄も演じるようになったキーシャは、高校生という枠を超え、舞台は病院や裁判所など様々な場面にわたり、同性との恋愛も演じるようになる。

その様子を掃除夫のクラレンスは静かに見守っている。

キャスト

Keesha Gibbs    Latoya Edwards

Nell Gibbs    Tarra Conner Jones

Clarence    James Jackson, Jr. 『A Strange Loop』

Megan White    Molly Hager

Maegan Whitehall    Alyse Alan Louis 『Soft Power』

Meagan Whitehead    Lauren Marcus 『Be More Chill』

Florence    Kayla Davion 『Tina: The Tina Turner Musical』

Abilene    Jennifer Fouché

Caroline    Morgan Siobhan Green

Tarik Blackwell    Vincent Jamal Hooper

Diane Whitehead/Barbara Whitehall/Judith White    Liz Lark Brown

Matthew Scott/Scott Matthew Zack Paul Gosselar    Eric William Morris

感想(ネタバレあり)

『A Strange Loop』を手掛けたMichael R. Jacksonによる新作ミュージカルということは、見逃すわけにはいきません。

現地調達しようとしていたのですが、観劇予定の数日前にネットで調べると残り1席のみだったので慌ててその場で購入しました。センター最前列、$80程度。

▼「What is White Girl in Danger?」


www.youtube.com

▼観劇後の感想

場内に入ると、ステージ上のスクリーンに架空のソープオペラ「White Girl in Danger」の様々なヴァージョンの次回予告が繰り返し流れていました。

その内容はいずれも周囲の大人たちやボーイフレンドとの関係で、若い白人女性が窮地に陥り、さて、どうなる?というもので、開演前から作品の世界観を示していました。

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やっぱり今回も予備知識(80〜90年代のアメリカドラマ)があると笑えるジョークが散りばめられていたようで、私にはさっぱりわからないreferencesが数多くありましたが、それらがわからなくても、導入部分はヒロインのキーシャが社会の慣習を打ち破る物語として、キャッチーな音楽とともに楽しく観ることができました。

コメディックな演技が最高な3人のメーガンたち(それぞれ微妙に発音が異なる)に対して、同じ役者が母親とボーイフレンドを演じます。

『A Strange Loop』でThoughtの1人を演じていたJames Jackson, Jr.演じるクラレンスが何者かが、後半で明かされるミステリーの要素もありました。

徐々にスターダムを駆け上がっていくキーシャが髪色をブロンドに変え、立ち振る舞いも変化していく演技が見事。

2幕は場面転換が多く、セットの切り替えが大変そうでした。

『A Strange Loop』では現代のニューヨークに生きる黒人男性が主人公であったのに対して、今作は架空の世界に生きる黒人女性の物語ですが、いずれも黒人としてのアイデンティティがひとつのキーとなっています。

『A Strange Loop』のナンバー「Inner White Girl」にある、Michael R. Jacksonの心の中に住む「黒人男性の自分とは違う、何でも実現できる白人女性のイメージ」を、この作品の中で具現化したように思いました。

Inner White Girl

Inner White Girl

  • Jaquel Spivey, L Morgan Lee, James Jackson Jr., John-Michael Lyles, John-Andrew Morrison, Jason Veasey & Antwayn Hopper
  • サウンドトラック
  • ¥255

そして、クラレンスは後に「オールホワイトライター」であることが明かされますが、彼はおそらくMichael R. Jacksonが自身を投影させたものです。

この作品は作者のMichael R. Jacksonが幼少期に延々と観ていたソープオペラ(日本でいう昼ドラ)がベースとなり、近年のcolor-blind castingやinclusionといったテーマが融合して誕生したとのこと。

個人的に思ったのはBIPOCの"B"のみでなく"IPOC"についても言及してこそinclusionなのではないかということ。

彼は黒人としてのミュージカルクリエイターとしての使命を背負っていると自覚しているのだと思いますが、キャストが完全にblackとwhiteのみなのは残念かなと、最近のcolor-blind castingに慣れてきた私は感じました。

また、ちょっと上演時間が長すぎやしないかと思いました。

14時に始まって終演が17時過ぎで、さらにその後Michaelによるトークバックの予定でしたが、ソワレに向かう必要があったため参加できずじまいでした。

前述の通り一幕はキーシャの挑戦的な姿勢が楽しいのですが、二幕は場面がやたら切り替わりすぎて冗長だったので、ブラッシュアップを希望したいです。

Michael R. Jacksonの脳内をジェットコースターに乗って駆けめぐったような感覚で観終え、ふらふらしながら帰路につきました。

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