『ペンチャー・ワゴン(1969)』とは
1951年ブロードウェイ初演の同名の舞台ミュージカルを映画化したものだが、あらすじは異なる。
舞台版の音楽は、後に『マイ・フェア・レディ』や『キャメロット』を手がけることになるアラン・ジェイ・ラーナーとフレデリック・ロウのコンビによる。
映画化の際、ラーナーとロウのコンビはすでに解消しており、ロウは作曲家として引退していたため、映画化のために新たな楽曲はラーナーの作詞にアンドレ・プレビンが曲をつけた。
監督はジョシュア・ローガン。
あらすじ
ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアが舞台。
ベンは荒野で負傷した2人の兄弟を助けるが、弟は怪我により亡くなってしまう。
助かった兄をベンはパートナーと呼び、2人はともに生活することとなる。
ある日、町にモルモン教(一夫多妻)の夫婦が訪れ、妻を競売にかけることとなる。
酒に酔っていたベンは誤って、その競売でその妻エリザベスを競り落としてしまう。
ベンとパートナー、そしてエリザベスの奇妙な3人での共同生活が始まる。
キャスト
ベン・ラムソン リー・マーヴィン
パートナー クリント・イーストウッド
エリザベス ジーン・セバーグ(歌唱部分は吹き替え)
ホールトン トム・リゴン
ダンカン レイ・ウォルストン
ウィリー ハーヴ・プレスネル
ジョン アラン・バクスター
感想
西部劇風のミュージカルということで、この作品はミュージカル映画の中では異色の存在かもしれません。
『マイ・フェア・レディ』を手掛けたラーナーとロウのコンビによる音楽はやはり美しいのですが、残念ながら公開時期を逸してしまい、ミュージカル映画黄金期の終焉を迎えた公開時、この作品の評価はあまり良いものではありませんでした。
▼trailer
まず、この作中の女性の扱い方はその時代のものとはいえ、見るに耐えないものでした。
女性を競売にかけ、娼館を建てて客を呼び込むなど、女性を「もの」としてしか見ていない様子で、ミュージカル好きの私でさえ最後まで観ているのが正直きつかったです。
もう2度とこの作品を観ることはないでしょう。
モルモン教では一夫多妻を認めていて、その妻のうちの1人を競売にかけるわけですが、今度はその妻が2人の男性と共同生活をするという、言うなれば「一妻多夫」の関係になるという皮肉を描いています。
この作品で役者としてできることの限界を感じたクリント・イーストウッド大先生は、これを機に監督になろうと決意したのだとか。
とはいえ、ラーナーとロウのコンビによる美しい音楽を楽しむこともでき、『マイ・フェア・レディ』『キャメロット』『ジジ』あたりがお好きな方は一見の価値ありだと思われます。
特に下の2つのナンバーはこの作品の数少ない美しいシーンだと思います。
▼「They Call the Wind Maria」
「They Call the Wind Maria」は旋律を一聴しただけで雄大な自然への畏敬の念が感じられます。
悲しげでもありながら強さもあり、不思議な魅力を放っています。
朗々と歌い上げるこの俳優さんも素敵です。
▼「Wand'rin' Star」
哀愁を感じさせる「Wand'rin' Star」というナンバーはリー・マーヴィンによってぼやくように歌われています。
決して舞台俳優のような歌い方ではありませんが、このナンバーにはこの方が合っている気がします。
一人の夜、ウィスキーをすすりながら聴きたい一曲です。
やはりキャッチーな楽曲は舞台版からのロウによる作曲のものばかりです。(プレビンさんごめんなさい。)
イーストウッド先生もがんばって歌われていて、意外な一面を垣間見ることができました。