『ピピン』とは
1972年にブロードウェイで初演されたミュージカル。
中世のローマ帝国皇帝のカール大帝の息子ピピンをモチーフにしているが、ほとんどがフィクションである。
作詞・作曲はスティーヴン・シュワルツ。
初演時のボブ・フォッシーによる演出版ではトニー賞を5部門で受賞(フォッシーは演出賞と振付賞を受賞)し、2013年再演版では4部門で受賞した。
今回は2013年にブロードウェイで再演された際に演出を務めたダイアン・パウルスによる演出。
あらすじ
旅芸人一座のショーが、今まさに始まろうとしている。
リーディング・プレイヤーが登場し、これから始まる人生という壮大な旅、ミステリアスな陰謀、ユーモアとロマンス、奇想天外なイリュージョンを盛り込んだ、若き王子ピピンの物語について語りかける。
大学を卒業したばかりのピピンは、広い空のどこかに自分の居場所はあるのか自問しながら、人生の大いなる目的を模索していた。
ピピンは父親チャールズを尊敬していたが、次第に戦争の虚しさに気づき始める。
チャールズ王の後妻ファストラーダは自身の息子、ピピンの義弟のルイスを王の後継にしようと躍起になっていた。
人生に迷うピピンは祖母であるバーサのもとを訪れ、悩んでばかりいないで限りある人生を楽しみなさいと諭される。
おおらかな祖母に感化され、さらに旅を続けるピピンだったが、ファストラーダの陰謀にはまり、実父を殺害してしまう。
王位を継承したピピンは、民衆の意見に耳を傾けようと努めるがうまくいかない。
自らの過ちに気づき、悔やむピピンだったが、リーディングプレイヤーの計らいで人生をやり直し、生き返ったチャールズは再び王座につく。
疲れきり倒れてしまったピピンは、未亡人のキャサリンに助けられる。
女手ひとつで息子テオを育てるキャサリンとともに過ごす、素朴な日々の中で、ピピンは彼女に想いを寄せるようになる。
しかし、ピピンはかつてのように特別な何かになるために、彼らのもとを去る決心をするのだが。
キャスト
リーディングプレイヤー クリスタル・ケイ
チャールズ 今井清隆
キャサリン 宮澤エマ
ルイス 岡田亮輔
バーサ 前田美波里
テオ 日暮誠志朗
感想
日本人キャストによる『ピピン』東京公演千秋楽に行ってきました。
この作品とは今まですれ違ってばかりで、なかなか観ることができずにいた作品のひとつで、今回念願の初観劇となりました。
2013年のブロードウェイでの再演と同じダイアン・パウルズさん演出のため、2013年版に近い仕上がりになっていたようです。(後述しますが、特にラスト)
アメリカにいた時、一度だけ舞台を映像化されたもの(ベン・ヴェリーンが出演していた初演版に近いもの)を観たことがあるので、それとの比較も少しできたらいいかなと思っています。
▼本公演のゲネプロ
ブロードウェイミュージカル『ピピン』舞台撮影 城田優 クリスタル・ケイ
まずキャッチーな「Magic To Do」で幕が上がりますが、リーディング・プレイヤー(以下LP)の印象的な影からの登場で惹きつけられ、その後の華やかな曲芸に魅了されました。
以前見たことのある映像では、衣装は奇抜でしたが背景は黒で、暗闇から手だけが出ているやや不気味な雰囲気のあるシーン、という印象だったので、今回の明るいオープニングは意外でした。
サーカス団のメンバーの出身地はロシアやアメリカ、フランスなどの国際色溢れるもので、スタントやサーカスなどユニークな経歴をお持ちのようでした。
空中ブランコ、名前はわかりませんが宙吊りで回転するもの、ジャグリングとかもあったかしら・・・とにかくそこかしこでパフォーマンスが繰り広げられるため、どこを見ていいかわからなくなってしまうほど。
そして、クリスタル・ケイさんのLPですが、ミュージカル初挑戦とはとても思えない仕上がりにでした。
もともとソウルフルな歌声をお持ちなのは存じ上げていましたが、演技、ダンスともに堂々たるものでした。
そして、城田優さんのピピンですが、聡明で繊細な青年を好演されていました。
彼の歌う「Corner of the Sky」は感動的でしたね。
ダイアンさん演出で特に変わったのは「テオエンディング」だそうです。
ピピンが自身の幸せを見つけ、LPの手から離れた後、テオが空中ブランコに乗ってエンディングを迎えます。
ピピンの旅が終わり、次はテオが旅を始める番というメッセージのようにも受け取れました。
▼会場にはピピンの衣装、2013年公演のプレイビル、トニー賞トロフィーが展示されていました。
▼ピピンの衣装。劇中で脱いで着るシーンがありますが、そこでなかなか着られないという可愛らしいハプニングもありましたが、確かにこの薄いウール系素材だと汗をかいた状態では着にくそうです。
▼2013年ブロードウェイ再演時のプレイビル
▼2013年再演版がトニー賞リバイバルミュージカル作品賞を受賞した際のトロフィー。こんなに近くで実物のトニー賞トロフィーを見たのは初めてかもしれません!
今回観て改めて思ったのは、この作品はフォッシーの独特な振付や数々の曲芸のイメージが強いですが、基本的には「自己探求の旅」というミュージカルの王道のテーマに真摯に取り組んだ作品だということです。
思春期のマージナルな青少年にありがちな「自分ってなんだろう」という問いかけは、誰もが経験する通過儀礼だからこそ、このピピンは多くの観客にとって非常にrelatableなのだと思いました。
公式サイト:
最後に、今回演出されたダイアン・パウルズさんが手がける次の舞台は、ミュージカル『1776』です。
2020年5月19日から2020年6月28日まで、マサチューセッツ州ケンブリッジのAmerican Reportory Theatreで上演されることが決まっています。
公式サイト:
その後、こちらのカンパニーは、2021年(日程未定)ブロードウェイにtrainsferすることも決まっているので、こちらもとても楽しみです。