ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

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『愛のイエントル(1983)』Yentl

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『愛のイエントル(1983)』とは

1983年公開のアメリカのミュージカル映画

アイザック・パシェヴィス・シンガーによる短編小説"Yentl the Yeshiva Boy"を基にしている。

バーブラ・ストライサンドが監督、製作、脚本、主演を務めた。

ミシェル・ルグラン作曲の楽曲は、アカデミー賞最優秀歌曲賞を受賞した。

また、ゴールデングローブ賞では作品賞、監督賞を受賞し、ストライサンドは女性監督として初めてゴールデングローブ賞を受賞した人物となった。

あらすじ

1904年、ポーランドのペシェヴに住むイエントルというユダヤ人の少女がいた。

当時、女性が勉学に励むことは禁止されていたにも関わらず、イエントルの父は彼女にユダヤ教聖典であるタルムードを教えていた。

父親の死後、向学心に満ち溢れていたイエントルは髪を短く切り、男装し、亡くなった兄弟の名前であるアンシェルと名乗り、故郷から離れた街にある、女人禁制のユダヤ教の宗教学校に入学する。

旅の道すがら出会ったアヴィグドーとタルムードなどについて語り合い、ともに学ぶうちに、仲が深まり、次第にイエントルはアヴィグドーに惹かれていく。

しかし、アヴィグドーに真実を伝えることはできない上に、彼にはすでに婚約者のハダスがいたため、イエントルは彼への気持ちを抑える。

そんなある日、アヴィグドーの弟の死因が自殺であることが判明し、ハダスとの縁談が破談になってしまい、ハダスの両親は代わりにアンシェルとハダスを結婚させようとする。

その頃、ハダスは密かにアンシェルに想いを寄せるようになっていた。

キャスト

イエントル・メンデル バーブラ・ストライサンド

アヴィグドー マンディ・パティンキン

ハダス・ヴィシュクワー エイミー・アーヴィング

レベ・メンデル ネヘマイア・パーソフ

レブ・アルター・ヴィシュクワー スティーヴン・ヒル

シメル アラン・コーデュナー

サラ ミリアム・マーゴリーズ

シャエメン夫人 ドリーン・マントル

感想

この作品はずっと観たいと思っていた作品です。

バーブラ・ストライサンドが主演・監督・脚本・製作などを務めたミュージカル映画です。

この作品の中で、彼女は男性社会で、学業と恋愛に悩みながら生きる男装の麗人を演じています。

それと同時に、男性が多い映画監督の中で、女性として初めてゴールデングローブ賞監督賞を本作で受賞しました。

なかなか国内盤DVDが出なかったため、アメリカ盤DVDを購入し鑑賞しました。

▼trailerです。


Yentl - Trailer

こんなに感動する作品に出会ったのは久しぶりでした。

本作でもバーブラ・ストライサンド節は健在で、素晴らしい歌唱を披露しています。

それと同時に、カットやシーン切り替えなど実に見事で、監督業も完成度が高いと感じました。

一体どのようにして監督と主演を並行して行っていたのか、とても気になりました。

アヴィグドー役のマンディ・パティンキンもブロードウェイミュージカルで活躍する名俳優で、ダンディズム溢れ、素晴らしい声量の持ち主なのですが、本作ではタイトル通り、イエントルの視点を重視するためなのか、ミュージカルナンバー歌うのはバーブラのみでした。

欲張りですが、ブロードウェイファンとしては、せっかくなのだからマンディ・パティンキンの歌声も聴きたかったなぁというのが正直なところです。

楽曲は『シェルブールの雨傘』などを手がけたフランスの作曲家ミシェル・ルグランによるもので、流れるような美しい旋律の数々を楽しむことができました。

▼男性として生きていくと決意し、家を出て野宿をするシーン「Papa Can You Hear Me」


Yentl - Papa Can you Hear Me?

▼見事に口頭試問に合格し、念願の宗教学校入学が決まったシーン「This Is One of Those Moments」


Yentl (3/7) Movie CLIP - One of Those Moments (1983) HD

 個人的には、上の「This Is One of Those Moments」が一番好きなナンバーです。

ずっと夢見ていた宗教の勉強がやっとできるという高揚感、先生に一番優秀な生徒だと認められた喜びが伝わってくる、希望に満ちた楽曲となっています。

また、この後に描かれる、イエントル(アンシェル)とアヴィグドー、そして彼の婚約者ハダスの複雑な三角関係は、イエントルとハダスの対照的なキャラクターの違いでより浮き彫りになっています。

短髪で少年のような容姿のイエントルはとにかくよく喋り、対するハダスは美しい長髪にレースのドレス、言葉少なに料理やお茶を振る舞うお嬢様として描かれています。

ハダスがイエントルに惹かれるようになる頃には、もはやイエントルの性別はどちらだったかわからなくなってしまうほど混乱しました。

普段、生物学的性別ではなく、どれだけ社会学的性別に影響されているかということですね。

最後、しきたりやしがらみを捨て、自由を求めてアメリカに旅立つイエントルが甲板で歌うシーンは『ファニー・ガール』の「Don't Rain On My Parade」を彷彿とさせ、力強さがありますが、今回はアヴィグドーへの思いや郷愁も感じられ、やや憂いも帯びています。

バーブラ・ストライサンドの個性の強さ、歌声の力強さに、抑圧された環境でも強い好奇心で人生を切り開くイエントルという役柄が実にマッチしており、ミュージカルファンならずとも一度は見ておきたい名作と断言できます。

どうか日本でもディスク化してもらえないかと切に願っています。