『ヨランダと泥棒(1945)』Yolanda and the Thief - ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

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1945年公開のMGMによるミュージカル映画。

作曲はハリー・ウォレン、作詞は製作も務めたアーサー・フリード。

興行的には大赤字となった。

ここは、アクアビバ家が統治しているどこか遠い国。

アクアビバ家の一人娘ヨランダは寄宿学校を卒業し、自身の王国に戻り、政権を引き継ぐこととなった。

アマリラおばさんと一緒の生活が始まるが、まだうら若いヨランダは大役が務まるか不安でならず、庭にある天使像を守護天使に見立て、心中を吐露する。

それを聞いていた泥棒のジョニーとヴィクターは、ヨランダを騙して債権の委任状にサインをもらい、大金をせしめようと考える。

ジョニーはヨランダに電話をし、守護天使になりきり、一人でホテルに来るように指示する。

ヨランダはすっかりジョニーを守護天使だと信じてしまい、翌日王宮にジョニーを招き入れ、委任状にサインをしてしまう。

しかし、そのことでアマリラおばさんはヨランダがジョニーと婚約をしたと勘違いしてしまう。

ジョニー・パーキンソン・リッグズ　フレッド・アステア

ヨランダ　ルシル・ブレマー（歌唱吹き替えはトゥルーディー・アーウィン）

ヴィクター・バドロー・トラウト　フランク・モーガン

アマリラおばさん　ミルドレッド・ナトウィック

キャンドル氏　レオン・エイムス

アーサー・フリードと当時愛人関係にあったルシル・ブレマーのためにつくられたとも言われている作品。

商業的には失敗となりましたが、当時としては斬新なドリームバレエ、若き日のルシル・ブレマーアステアのダンスを楽しむことができました。

▼trailerです。

徹頭徹尾、ファンタジーの世界で、あらすじはツッコミどころ満載ですが、アステア主演のミュージカル映画として楽しむには十分な作品だと感じました。

特に印象的なのは「Dream Ballet」のシーン。

これは、アステア演じるジョニーが、一攫千金を目の前にしながらヨランダの美しさに魅せられ、夢の中で苦悩している様子がダンスで表現されている、15分ほどの長尺シーンです。

この時期のミュージカル映画には珍しい抽象化されたダンスで、ヴィンセント・ミネリ監督は「映画史において初めてのシュールレアリスティックなダンスシーンである」と語っています。

布を効果的に使って、布に映るシルエットを魅せたり、布に絡まって苦悩している様子を表しています。

また、ブレマーが布に包まれて水中から現れるシーンは、どことなく『雨に唄えば』のワンシーンを連想させられます。

一般的に「Dream Ballet」と言えば、作品自体の知名度が高い『オクラホマ！』や『パリのアメリカ人』が思い浮かびます。

本作の撮影が1945年1月で、一方舞台ミュージカル版の『オクラホマ！』の初演が1943年なので、『オクラホマ！』のDream Balletを観た誰かがこのシーンを考案した可能性は十分にあります。

ただ、映画史という枠組みではミネリ監督の言う通り本作が初めての試みだったのでしょう。

ブレマーは歌こそ吹き替えですが、踊りの難易度はそれほど高くないものの、アステアとともに優雅なダンスを披露しています。

▼「Coffee Time」

上記のシーンも含め、お城の様子や大人数のエキストラを使った祝祭的な雰囲気も、個人的には嫌いではありませんでした。

多くのミュージカル映画を手がけているヴィンセント・ミネリ監督の撮り方、構図も見事だと思います。

ただ脚本があともう一歩練られていれば、まだ少しは良かったのかもしれません。

この映画をきっかけに、アステアが引退を考えるようになったのはとても残念なことでした。

また、彼がファンタジー映画はリスクが高いと考えるようになったのも本作が原因とのことですが、そんな彼が後年『フィニアンの虹』に出演したのはどういった心変わりがあったのかしらと色々思いを巡らせています。