ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Hadestown』2019.5.4.20:00 @Walter Kerr Theatre

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『Hadestown』とは

2016年オフブロードウェイ、New York Theatre Workshopで初演されたミュージカル。

その後、エドモントン、ロンドンを経て、2019年ブロードウェイ初演。

2010年にAnaïs Mitchellによって発表されたコンセプトアルバムを基にしている。

コンセプトアルバムと同じく、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケーにまつわる部分をモチーフにしている。

演出は『Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812』なども手がけたRachel Chavkin。

正式には『Hadestown:The Myth. The Musical』。

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あらすじ

舞台の進行、登場人物の紹介は、狂言回しの役割を持つヘルメスによって主に行われる。

オルフェウスはエウリュディケーに一目で恋に落ち、その場でプロポーズする。

しかし、安定した生活を願うエウリュディケーは、貧乏な音楽家オルフェウスの言葉を信用できない。

オルフェウスは歌で鳥を呼び花を咲かせ、君が悩むことがないように、いつでも春を呼び寄せようとエウリュディケーに語りかける。

夏が訪れ、ペルセポネーがつかの間の地上での生活を楽しんでいるところで、オルフェウスは彼女に、エウリュディケーとの希望に溢れる未来について話す。

一方のエウリュディケーもオルフェウスに対する募る恋心に気づき、2人はどんなことがあっても別れないことを誓い合う。

そのうち、冬が訪れ、ペルセポネーがハデスの率いる地下の世界に戻る時季がやってきた。

地下の世界のひどい噂を聞いていたにも関わらず、エウリュディケーはなんとなくハデスの世界に興味をそそられていた。

ハデスはエウリュディケーに目をつけ、地下の世界に誘い、オルフェウスが作曲に明け暮れている間にエウリュディケーはハデスの誘いに乗るのだった。

オルフェウスが気付いた時にはエウリュディケーはすでに地下におり、オルフェウスはなんとかして彼女を連れ戻そうと模索する。

ヘルメスに案内され、必死の思いでハデスの元へやってきたオルフェウスはエウリュディケーを連れ帰りたいと懇願するがハデスは聞く耳を持たない。

途方にくれたオルフェウスはエウリュディケーのために書いた曲を歌う。

その歌に感銘を受けたペルセポネーは、ハデスにエウリュディケーを帰すように諭す。

渋々ハデスはそれを聞き入れるが、オルフェウスが地上に出るまでの間、一度たりともエウリュディケーの方を振り返ってはならないという条件をつけるのだった。

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キャスト

Orfeus    Reeve Caney

Eurydice    Eva Noblezada

Persephone    Amber Gray 『Here We Are』

Hades    Patrick Page

Hermes    André De Shields

Fates    Jewelle Blackman, Yvette Gonzalez-Nacer, Kay Trinidad

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感想

今シーズン一番の話題作と言ってもいいかもしれない『Hadestown』を観劇しました。

ニューヨークシアターワークショップ出身の本作は、3年間におよぶオフブロードウェイ、エドモントン、ロンドンと様々な規模、地域を変遷して、練りに練り上げてのブロードウェイ入りということで、一音一音、一挙手一投足に意味を感じるような仕上がりになっていました。

オーケストラ席のレフトサイドのセンター寄り、中ほどの席から観劇しました。

▼show clipsです。


Hadestown Broadway Show Clips

▼観劇後の感想です。

 

ギリシャ神話のつながりに関しては、エウリュディケが蛇に噛まれて亡くなり、ハデスのいる地下の世界へ行くことになるという神話の一節とは異なり、ハデスからの誘いで地下の世界に行くという流れになっていました。

印象的だったのは、地下の世界に行くオルフェウスが歌う「Wait For Me」で、天井から吊り下げられた約6つのライトが、曲に合わせて観客方向に揺れてくる様子です。

基本的に役者が客席に降りるということがない限り、舞台の世界は舞台の前端で終わるのですが、このライトがオーケストラ席前方までせり出すことで、舞台により立体感が出る上に、曲とシンクロしてとても優美でした。

客席側までせり出す舞台装置だと、他に『オペラ座の怪人』の冒頭に落下するシャンデリアがありますね。

オーケストラは舞台後方サイドに配置されていました。

舞台中央には廻り舞台があり、オルフェウスの旅路を表す時や、場面転換の際に使われていました。

また、地下の世界から登場する/落ちて行く場面を表すのにせりが使われていました。

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3年間の熟成期間を経ているため、衣装や所作の一つ一つに到るまで作り込まれている印象があり、メインのキャラ立ちがはっきりしていて理解しやすかったです。

Anaïs Mitchellの音楽はオルフェウスとエウリュディケのシンプルな旋律と、地下の世界を描くサルーン風ミュージックとの対比が見事でした。

特に「Way Down Hadestown」は本作における最もiconicなnumberと言っていいでしょう。

OBCによる「Way Down Hadestown」


"Way Down Hadestown" - Sung by the Cast of Hadestown on Broadway

ギリシャ神話上の登場人物たちの立ち位置や「Way Down Hadestown」の和訳については、こちらの記事を参照してください。

nyny1121.hatenadiary.com

この曲をメインで歌っているのは、狂言回しの役割を持つヘルメスを演じるAndré De Shields

彼は1970年代からブロードウェイで活躍する息の長い役者さんです。

この方、そしてペルセポネーのAmber Gray、ハデスのPatrick Pageはかなり個性が強く、正直に言って、オルフェウスとエウリュディケの存在を圧倒していました。

Amber Grayは酒瓶を片手にケラケラと笑い、フリルのついた肩を震わせながら踊る様は『アニー』のミス・ハニガンのようでもありますが、ペルセポネーの背負っている悲しい運命も見事に演じていました。

続いて、ハデスを演じるPatrick Pageについてですが、彼は舞台版の『ノートルダムの鐘』でオリジナルキャストでフロローを演じていた方です。

彼のバリトンヴォイスが人間でこんなに低い声が出せるのかというくらいとても低くて、ハデスの威厳や冷酷さを表すのに役立っているようでした。

さて、オルフェウスReeve Carneyは、普段はシンガーソングライターで、ミュージカル『スパイダーマン』でタイトルロールを演じて以来のブロードウェイ。

オルフェウスは一目惚れした初対面のエウリュディケに対して、突然「君が好きなんだ。家においでよ」と言ってしまうような愚直(と言っていいのか)な青年として描かれているのですが、彼にはそういう雰囲気が元々あり、好演していました。

相手役のEva Noblezadaは『レ・ミゼラブル』再演でエポニーヌ役、そして『ミス・サイゴン』再演のキム役でトニー賞にノミネートされたシンデレラガールですが、今回は全くの新作で、悲劇のヒロインであることに変わりはありませんが、今までの彼女の役の雰囲気とはまた違うイメージの役でした。

改めて、やはりbeltingも素晴らしいし、ちょっとしたダンスもこなれていて素敵でした。

いや、今から6年ほど前、こんなのがノースカロライナの田舎町の高校生でいたとしたら、彼女を最初に見出した人はえらく驚いただろうなと思いますよね。

まあ、才能というのはそういうものですが。

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2019年トニー賞では、作品賞脚本賞(Anaïs Mitchell)、作曲賞(Anaïs Mitchell)、主演女優賞(Eva Noblezada)、助演女優賞(Amber Gray)、助演男優賞(André De Shields, Patrick Page)、舞台デザイン賞(Rachel Hauck)、衣裳デザイン賞(Michael Krass)、照明デザイン賞(Bradley King)、音響デザイン賞(Nevin Steinberg & Jessica Paz)、演出賞(Rachel Chavkin)、振付賞(David Neumann)、編曲賞(Michael Courney, Todd Sickafoose)の13部門と同年で最多ノミネートされています。

SDまとめ

会場を出る時には、来場者全員に、本作のイメージにもある赤い花(レプリカ)を渡され、いい記念になりました。

そして、SDではキャストたちが、その赤い花のついたペンでサインをしてくれました。

ただ、SDはものすごい待ち人数で、とてもお話をする余裕はありませんでしたが、待っていた人全員にサインをして帰られていきました。

▼Orfeus役のReeve Carney

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▼Eurydice役のEva Noblezada

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すでにリピーターも多くいるようでしたね。

公式サイト:

HADESTOWN

 ▼今回は、Walter Kerr Theatreで観劇しました。合い向かいは『The Prom』を上演するLongacre Theatreなので、終演後には周囲がそれぞれのファンで溢れていました。

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