ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『The Prom』2019.5.3.20:00 @Longacre Theatre

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『The Prom』とは

2016年アトランタでトライアウト上演された後、2018年にブロードウェイで初演されたミュージカル。

実際にあった出来事を元に、『Drowsy Chaperone』のボブ・マーティンと作詞のBeguelinがオリジナルの脚本を仕上げた。

音楽はMatthew Sklar(作曲)とChad Beguelin(作詞)のコンビ。

演出・振付は『Drowsy Chaperone』『The Book of Mormon』『Something Rotten!』などブロードウェイのヒット作を手がけるCasey Nicholaw。

今後、Netflixで映画化されることが発表されている。

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あらすじ

エレノア・ルーズベルトの生涯を描いたミュージカル『エレノア!』の初日の夜、出演したベテラン俳優のディー・ディーやバリーたちは宴を開いていたが、演劇批評で役を理解しておらず自己陶酔しすぎと酷評され、初日で閉幕することが決まる。

名誉挽回、イメージアップのため、ディーディーたちは、役者仲間のトレントとアンジーも引き連れ、社会貢献活動をしようと考える。

トレントは名門ジュリアード卒だが落ちぶれ役者、アンジーは万年コーラスガールでロキシー役は無理だと伝えられ20年出演していた『シカゴ』を降りたばかり。

そこで、彼らはTwitterで「インディアナ州に住むエマという女子高校生が、プロムに同性のパートナーを連れて行こうとしたため、PTAがプロムを中止した」というストーリーを見つける。

これぞ好機と見て、エマを助けるために彼らはインディアナ州に向かう。

その頃、インディアナ州に住むエマは学校でひどいいじめに遭いながら日々過ごしていた。

エマが一緒にプロムに行きたい相手は、学校では人気者だがレズビアンであることを隠しているアリッサだ。

しかも、アリッサの母親はプロムを中止に追い込んだPTA会長の娘だった。

アリッサはエマを想う気持ちと、母親の期待に応えたい気持ちの狭間で揺れ動いていた。

2人はプロムに行くことができるのか。

落ち目の役者集団は状況を打開することができるのか。

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キャスト

Emma    Caitlin Kinnunen

Alyssa    Isabelle Mccalla 『Hercules』

Barry Glickman    Brooks Ashmanskas 『Dear World』

Dee Dee Allen    Beth Leavel

Trent Oliver    Christopher Sieber

Mr. Hawkins    Michael Potts

Angie    Angie Schworer

Mrs. Greene    Courtenay Collins

Sheldon Saperstein    Josh Lamon

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感想

こちらも、2018年秋頃からずっと観たいと思っていた作品でした。

私の大好きな『Drowsy Chaperone』や『Something Rotten!』などを手がけたクリエイティブ陣による作品ということもありますが、何よりOBCRを一聴して、Emma役のCaitlin Kinnunenのbeltingに聴き惚れてしまったからです。

以来、ほぼ毎日OBCRを聴き続けているほど、ハマってしまいました。

ブロードウェイの前はアトランタで初演されていますが、これは本作の舞台であるインディアナに近いLGBTQへの考え方をもつ中部の地域でトライアウトしたいという狙いがあったとのことでした。

これはアウェイで試合をするようなものですね。

いやはや、このプロデューサー陣、なかなか挑戦的です。

2019年のトニー賞では、作品賞脚本賞作曲賞主演男優賞(Brooks Ashmanskas)、主演女優賞(Beth Leavel, Caitlin Kinnunen)、演出賞(Casey Nicholaw)の6部門でノミネートされています(主演女優賞では2人それぞれノミネート)。

老舗デパートMacy'sが毎年行っているサンクスギビングデーのパレードでは、ブロードウェイの話題作のキャストがパフォーマンスを行い、それが全米にテレビ中継されるのが恒例となっていますが、本作も昨年2018年11月に「It's Time to Dance」を披露しました。

実は、この時アメリカのテレビで初めてレズビアン同士のキスシーンが放送された、記念すべき瞬間を迎えていたのです。

▼2018年11月のMacy's Thanksgiving Day Paradeにて「It's Time to Dance」


The Prom Live performance on Macy’s Thanksgiving Day Parade 2018

この放送後、一部の保守派から批判が上がったり、一方では歓声が上がったり、一時SNSは騒然としたのですが、この時初めてこの作品が現代のアメリカでも(特に中西部)controversialなテーマを扱った作品なのだと思わされました。

というのも、私はミュージカルを通してアメリカという国を見てきた傾向がありますが、『RENT』や『Fun Home』など多くのミュージカル作品でLGBTQは描かれていたので、アメリカ全土でLGBTQへのコンセンサスは得られていると思っていたのです。

しかし、実情は特に保守的な考えの強い地方では、本作のようなことは今でも毎年起こっているということで、とても意外でショッキングでした。

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▼観劇後の感想です。 

本作は安値のチケットが多く出回っていたので、現地に着いてからrushでもいいかなと思っていたのですが、せっかくだしと思い、最終的に最前列を買ってしまいました。

しかも指揮者後ろのどセンター席という特等席(でも2万円弱とreasonableでした)。

サーっと開けた視界で、人の頭を気にせずに観劇できたので、ストレスフリーでした。

さて、舞台ですが、まずCaitlin Kinnunenの透明感、か弱くて力強いbelting outが素晴らしかったです。

まだ1幕なのに、Izzyとのduetもある「Dance With You」の1音目から号泣してしまいました。

「暴動を起こしたいわけじゃないし、

 新しいことをして目立ちたいわけじゃない。

 私はただあなたと踊りたいだけなの。」

シンプルな曲なのに、じんと胸に響きます。

▼2018年10月にセントラルパークで行われたElsie Festにて「Dance With You」


The Prom the Musical - Dance With You (Live) @ Elsie Fest 2018

Caitlinはのブロードウェイでのキャリアは実は長く、ブロードウェイデビューは15歳頃『Spring Awakening』、その後『The Briges of Madinson County』の主人公の娘役などでオリジナルブロードウェイキャストとして参加しています。

Emmaの相手であるAlyssaを演じるのはIzzyことIzabella Mccalla

彼女は最近まで『アラジン』のブロードウェイと全米ツアーでジャスミンを演じていた方で、Caitlin同様素晴らしい若手です。

CaitlinとIzzyは互いのInstagramにほぼ毎日と言っていいほど頻繁に登場するくらい、とても仲良しで、私はいつも癒されていたのですが、舞台上では2人はほとんどの時間、やや険悪気味。

何せ劇中では別れ話が持ち上がっているほどですから。

それも2人とも迫真の演技で、SNSで見せる顔とは全く違う、女優魂を見せつけられた思いでした。

タイトル通り、ダンスシーンは若手のダンス精鋭陣の迫力ある、ややアクロバティックなダンスで大いに会場は盛り上がりました。

Casey Nicholawの振り付け、さすがです。

▼2019年Stars In the Alley Concertにて「You Happened」


"You Happened" from The Prom, sung by Caitlin Kinnunen, Isabelle McCalla, and company

▼以前、本作のナンバー「You Happened」を和訳したことがあるので、よろしかったらご覧ください。

nyny1121.hatenadiary.com

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また、落ち目のベテラン俳優陣についてですが、Brooks以外は本人を元に作られたキャラクターになっています(おそらく)。

特にAngieはそのままAngieですからね。

Brooks Ashmanskas小堺一機風のいく先々で笑いを巻き起こすおじさんという感じ。

もう何度笑わされたことか、最後は腹筋が痛くなったほどでした。

2幕で彼が歌う「Barry Is Going to a Prom」はsmootheで小気味いい大好きなナンバーです。

そして、トニー賞女優Beth Leavel

『Drowsy Chaperone』でタイトルロールを演じてトニー賞を受賞した彼女も『Something Rotten!』では年齢を理由にビー役を降ろされるなどした一件もあり、そういう思いも込めてこの役を演じているのかなと、色々考えてしまいました。

ナルシシズムに酔った大女優役を演じ、見事な歌声を披露していました。

ミュージカルコメディとして、中毒性のある感じも含めて、評価は高いですが、役者陣の話とレズビアンの高校生の話の2つのストーリーが融合していない点や、根本的な問題の解決にはなっていない点など、脚本の粗さも指摘されています。

ただ、そこは気にせずに楽しむものこそ、ミュージカルコメディだとも言えますし、実際観劇している間は楽しくて全くその辺りは気になりませんでした。

SDまとめ

観劇後はステージドア(SD)で、わずかな時間ではありましたが、キャストたちと交流することができました。

まずはAngie。

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そしてIzzy。

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その後、なんとCaitlinが出てきてくれました。

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普段はこんなことしないのですが、Caitlinと2人で撮ってもらいました。

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そしてBrooksさんも。

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そして、この日発売された本公演のOBCRのvinylを持って行っていたので、みなさんにサインをいただくことができました。

いやあこれは心底嬉しかったですし、これから末永く大切にします。

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▼私が観劇した翌日、GLAAD Media AwardsでのCaitlinの歌唱披露「Unruly Heart」


The Prom star Caitlin Kinnunen performs “Unruly Heart” at the 30th Annual GLAAD Media Awards

最近、プライベートでの同性のパートナーの存在を明かしたCaitlin。

これからもLGBTQの理解を広める活動とともに、女優としても様々な作品で活躍してほしいと願っています。

最後に、Caitlinは1型糖尿病を持ってます。(下記事参照)

Caitlin Kinnunen: Type 1 on Broadway

そういった経緯もあり、体調を崩しやすくunderstudyの子が2人以上います。

これから観劇される方、もし観劇日のEmmaがunderstudyの子だったとしても、温かく見守っていただけると嬉しいです。

公式サイト:

The Prom | 7 Tony Award Nominations including Best Musical | Official Site

▼今回はLongacre Theatreで観劇しました。 

▼Brooks, Beth, Caitlinによるトークセッション


Brooks Ashmanskas, Beth Leavel & Caitlin Kinnunen Discuss "The Prom"

 

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