『生きる』とは
2018年日本で世界初演されたミュージカル。
1952年公開の黒澤明監督の同名の日本映画を基にしている。
音楽はジェイソン・ハウランド、演出は宮本亜門。
あらすじ
役所の市民課の課長、渡辺勘治は、早くに妻を亡くし、男手一つで息子の光男を育て上げ、息子夫婦と同居している。
ある日、渡辺に胃がんが見つかり、自分の人生が残りわずかであることを知る。
疎遠になりつつある光男にそのことを打ち明けられない渡辺は、自らの生涯を振り返り、意味あることを何一つ成し遂げていないことに気づき愕然とする。
現実逃避のため、大金をおろして夜の街に出るも、金の使い道がわからない。
彼は30年間真面目一筋に貫き、自分の金で酒を飲んだことすらなかったのだ。
そんな時、居酒屋で売れない小説家に出会う。
渡辺の境遇に興味を持った彼は、「人生の楽しみを教えてやろう」と宣言し、盛り場を二人で何軒もはしごする。
しかし渡辺の心は一向に晴れず、虚しさばかりが募る。
翌日、役所の後輩、小田切とよが渡辺の元を訪ねる。
渡辺は、はつらつとしたとよの初々しさに触れるうちに、自分の人生になかったものを見出すようになる。
そしてついに、わずかな余生でなすべきことを、見つけるのであった・・・
キャスト
渡辺勘治 鹿賀丈史
渡辺光男 市原隼人
小説家 新納慎也
渡辺一枝 May'n
助役 山西惇
感想
今回は、世界初演のミュージカルを観たいということもありましたが、久々に鹿賀さんを拝みたいと強く思い観劇することにしました。
小説家役の新納さんによる狂言回しによって舞台は進んでいきました。
主人公の渡辺勘治の寡黙で無骨な雰囲気が、まさに鹿賀さんにぴったり。
病気のため徐々に体が弱りながら歌う終盤のナンバーは、弱々しい声でかつ感情を込めて歌われていて、胸が熱くなりました。
息子との関係がテーマの一つで、正直私は息子の鈍感さに少々呆れてしまいましたが、市原さんは父親の鹿賀さんに対して体当たりで演じていましたね。
とよの唯月さんの天真爛漫さは、大げさではなく、この作品の中での唯一の救いでした。
勘治がとよの存在によって生きることを改めて決意するのがよくわかりました。
はじめから結末はわかっているのですが、どうしても途中気持ちが暗くなって、つらくなってしまって・・・そんな時に唯月さんの存在が希望の光に思えました。
アンサンブルには来年のレミゼのジャヴェール役の川口竜也さんもいらっしゃいました。
ミュージカル『生きる』最終舞台稽古 鹿賀丈史 市原隼人 新納慎也 May’n 唯月ふうか
黒澤明さんの映画作品は世界的に評価が高く、今までどうしてミュージカル化されなかったのだろうと逆に不思議に思えるほど。
自分の死と向き合った時に、ようやく人生を生きる意味を知る勘治。
病気のことを家族にも職場にも言えず、ひとり抱える思いを歌い上げる様は、鹿賀さんのそれまでの紆余曲折の俳優人生を象徴しているかのように思え、圧巻でした。