『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とは
2000年公開のデンマークの映画。
『奇跡の海』『イディオッツ』に続く『黄金の心』3部作の3作目。
あらすじ
舞台はアメリカのある町。チェコからの移民セルマは、息子ジーンと2人暮らしをしていた。貧乏だが工場での労働の他に、地元のミュージカルに『サウンド・オブ・ミュージック』のマリア役として出演するなど、日々楽しいものだった。
だが、セルマは先天性の病気で徐々に視力が失われつつあり、今年中には失明する運命にあった。ジーンもまた、彼女からの遺伝により13歳で手術をしなければいずれ失明してしまうため、必死で手術費用を貯めていた。
しかし、セルマは視力の悪化により仕事上のミスが重なり、ついに工場をクビになってしまう。しかも、ジーンの手術費用として貯めていた金を親切にしてくれていたはずの警察官ビルに盗まれてしまう。セルマはビルに金を返すよう迫り、もみ合っているうちに拳銃が暴発、ビルは死んでしまうのだった。
キャスト
セルマ ビョーク
キャシー カトリーヌ・ドヌーヴ
ビル デヴィッド・モース
ジェフ ピーター・ストーメア
ノーマン ジャン=マルク・バール
ジーン ヴラディカ・コスティック
リンダ カーラ・シーモア
オールドリッチ ジョエル・グレイ
サミュエル ヴィンセント・パターソン
感想
この映画を初めて観たとき、一週間くらい引きずって、もう二度と観たくないと思いました。
でも、また、何度か観てしまう自分がいます。
主人公はチェコから息子の眼の手術のために渡米したセルマ。
ミュージカルが大好きで、地元のミュージカルに出演したり、工場で働いている間もミュージカルの白昼夢を見るほど。
ただ徐々に視力を失いつつあり、ミュージカル映画を観てもキャシーが隣で解説をしないとわからないこともよくある状態。
工場の単調な作業、数々の受け止め難い現実。
そういったものをセルマは全て頭の中でミュージカルにして、自分の理想的な世界に変えて乗り越えていくのです。
ミュージカルは往々にて明るく勧善懲悪のhappy-go-luckyな世界と捉えがちですが、この作品は辛い、辛すぎる現実への対処法としてミュージカルを用いています。
この点では、少し『嫌われ松子の一生』に近いのかなとも思いました。
ビョークのアンニュイな歌声と言うのでしょうか、独特な歌声が手持ちカメラのラフな撮影方法に合っていて、なんとも不思議な雰囲気を持ったミュージカル映画になっています。
ミュージカルの華やかな舞台には立てなかったセルマですが、最期には皮肉にも別の舞台(絞首台)に立つことになることから、まさに文字通りダンサー・イン・ザ・ダークなのです。
脇を固める俳優陣は『シェルブールの雨傘』のカトリーヌ・ドヌーヴや『キャバレー』のジョエル・グレイなど、ミュージカル映画史を彩ってきた名優ばかり。
初めて観たとき、こんなに暗い映画があるのかと思いました。
しかし、さらに暗い、もう一つ別のラストの案もあったそうです。
それは、セルマが最期の時、ジーンの手術が失敗したという知らせが入り、セルマが半狂乱になるというもの。
結果的にビョークが猛反対し却下されたそうですが、トリアー監督どこまで鬼なのか。
暗い結末に目を背きたくなることは何度もありますが、この映画描いているのは、子どもの幸せを願う、ある母親の子どもへの愛です。
どなたにも、一度は観ていただきたい一作です。