ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Hadestown』2019.5.4.20:00 @Walter Kerr Theatre

f:id:urara1989:20190516082442j:image

『Hadestown』とは

2016年オフブロードウェイ、New York Theatre Workshopで初演されたミュージカル。

その後、エドモントン、ロンドンを経て、2019年ブロードウェイ初演。

2010年にAnaïs Mitchellによって発表されたコンセプトアルバムを基にしている。

コンセプトアルバムと同じく、ギリシャ神話のオルフェウスとエウリュディケーにまつわる部分をモチーフにしている。

演出は『Natasha, Pierre & The Great Comet of 1812』なども手がけたRachel Chavkin。

正式には『Hadestown:The Myth. The Musical』。

f:id:urara1989:20190516082538j:image

あらすじ

舞台の進行、登場人物の紹介は、狂言回しの役割を持つヘルメスによって主に行われる。

オルフェウスはエウリュディケーに一目で恋に落ち、その場でプロポーズする。

しかし、安定した生活を願うエウリュディケーは、貧乏な音楽家オルフェウスの言葉を信用できない。

オルフェウスは歌で鳥を呼び花を咲かせ、君が悩むことがないように、いつでも春を呼び寄せようとエウリュディケーに語りかける。

夏が訪れ、ペルセポネーがつかの間の地上での生活を楽しんでいるところで、オルフェウスは彼女に、エウリュディケーとの希望に溢れる未来について話す。

一方のエウリュディケーもオルフェウスに対する募る恋心に気づき、2人はどんなことがあっても別れないことを誓い合う。

そのうち、冬が訪れ、ペルセポネーがハデスの率いる地下の世界に戻る時季がやってきた。

地下の世界のひどい噂を聞いていたにも関わらず、エウリュディケーはなんとなくハデスの世界に興味をそそられていた。

ハデスはエウリュディケーに目をつけ、地下の世界に誘い、オルフェウスが作曲に明け暮れている間にエウリュディケーはハデスの誘いに乗るのだった。

オルフェウスが気付いた時にはエウリュディケーはすでに地下におり、オルフェウスはなんとかして彼女を連れ戻そうと模索する。

ヘルメスに案内され、必死の思いでハデスの元へやってきたオルフェウスはエウリュディケーを連れ帰りたいと懇願するがハデスは聞く耳を持たない。

途方にくれたオルフェウスはエウリュディケーのために書いた曲を歌う。

その歌に感銘を受けたペルセポネーは、ハデスにエウリュディケーを帰すように諭す。

渋々ハデスはそれを聞き入れるが、オルフェウスが地上に出るまでの間、一度たりともエウリュディケーの方を振り返ってはならないという条件をつけるのだった。

f:id:urara1989:20190516091456j:image

キャスト

Orfeus    Reeve Caney

Eurydice    Eva Noblezada

Persephone    Amber Gray 『Here We Are』

Hades    Patrick Page

Hermes    André De Shields

Fates    Jewelle Blackman, Yvette Gonzalez-Nacer, Kay Trinidad

f:id:urara1989:20190516131004j:image

感想

今シーズン一番の話題作と言ってもいいかもしれない『Hadestown』を観劇しました。

ニューヨークシアターワークショップ出身の本作は、3年間におよぶオフブロードウェイ、エドモントン、ロンドンと様々な規模、地域を変遷して、練りに練り上げてのブロードウェイ入りということで、一音一音、一挙手一投足に意味を感じるような仕上がりになっていました。

オーケストラ席のレフトサイドのセンター寄り、中ほどの席から観劇しました。

▼show clipsです。


Hadestown Broadway Show Clips

▼観劇後の感想です。

 

ギリシャ神話のつながりに関しては、エウリュディケが蛇に噛まれて亡くなり、ハデスのいる地下の世界へ行くことになるという神話の一節とは異なり、ハデスからの誘いで地下の世界に行くという流れになっていました。

印象的だったのは、地下の世界に行くオルフェウスが歌う「Wait For Me」で、天井から吊り下げられた約6つのライトが、曲に合わせて観客方向に揺れてくる様子です。

基本的に役者が客席に降りるということがない限り、舞台の世界は舞台の前端で終わるのですが、このライトがオーケストラ席前方までせり出すことで、舞台により立体感が出る上に、曲とシンクロしてとても優美でした。

客席側までせり出す舞台装置だと、他に『オペラ座の怪人』の冒頭に落下するシャンデリアがありますね。

オーケストラは舞台後方サイドに配置されていました。

舞台中央には廻り舞台があり、オルフェウスの旅路を表す時や、場面転換の際に使われていました。

また、地下の世界から登場する/落ちて行く場面を表すのにせりが使われていました。

f:id:urara1989:20190516124838j:image

3年間の熟成期間を経ているため、衣装や所作の一つ一つに到るまで作り込まれている印象があり、メインのキャラ立ちがはっきりしていて理解しやすかったです。

Anaïs Mitchellの音楽はオルフェウスとエウリュディケのシンプルな旋律と、地下の世界を描くサルーン風ミュージックとの対比が見事でした。

特に「Way Down Hadestown」は本作における最もiconicなnumberと言っていいでしょう。

OBCによる「Way Down Hadestown」


"Way Down Hadestown" - Sung by the Cast of Hadestown on Broadway

ギリシャ神話上の登場人物たちの立ち位置や「Way Down Hadestown」の和訳については、こちらの記事を参照してください。

nyny1121.hatenadiary.com

この曲をメインで歌っているのは、狂言回しの役割を持つヘルメスを演じるAndré De Shields

彼は1970年代からブロードウェイで活躍する息の長い役者さんです。

この方、そしてペルセポネーのAmber Gray、ハデスのPatrick Pageはかなり個性が強く、正直に言って、オルフェウスとエウリュディケの存在を圧倒していました。

Amber Grayは酒瓶を片手にケラケラと笑い、フリルのついた肩を震わせながら踊る様は『アニー』のミス・ハニガンのようでもありますが、ペルセポネーの背負っている悲しい運命も見事に演じていました。

続いて、ハデスを演じるPatrick Pageについてですが、彼は舞台版の『ノートルダムの鐘』でオリジナルキャストでフロローを演じていた方です。

彼のバリトンヴォイスが人間でこんなに低い声が出せるのかというくらいとても低くて、ハデスの威厳や冷酷さを表すのに役立っているようでした。

さて、オルフェウスReeve Carneyは、普段はシンガーソングライターで、ミュージカル『スパイダーマン』でタイトルロールを演じて以来のブロードウェイ。

オルフェウスは一目惚れした初対面のエウリュディケに対して、突然「君が好きなんだ。家においでよ」と言ってしまうような愚直(と言っていいのか)な青年として描かれているのですが、彼にはそういう雰囲気が元々あり、好演していました。

相手役のEva Noblezadaは『レ・ミゼラブル』再演でエポニーヌ役、そして『ミス・サイゴン』再演のキム役でトニー賞にノミネートされたシンデレラガールですが、今回は全くの新作で、悲劇のヒロインであることに変わりはありませんが、今までの彼女の役の雰囲気とはまた違うイメージの役でした。

改めて、やはりbeltingも素晴らしいし、ちょっとしたダンスもこなれていて素敵でした。

いや、今から6年ほど前、こんなのがノースカロライナの田舎町の高校生でいたとしたら、彼女を最初に見出した人はえらく驚いただろうなと思いますよね。

まあ、才能というのはそういうものですが。

f:id:urara1989:20190516124949j:image

2019年トニー賞では、作品賞脚本賞(Anaïs Mitchell)、作曲賞(Anaïs Mitchell)、主演女優賞(Eva Noblezada)、助演女優賞(Amber Gray)、助演男優賞(André De Shields, Patrick Page)、舞台デザイン賞(Rachel Hauck)、衣裳デザイン賞(Michael Krass)、照明デザイン賞(Bradley King)、音響デザイン賞(Nevin Steinberg & Jessica Paz)、演出賞(Rachel Chavkin)、振付賞(David Neumann)、編曲賞(Michael Courney, Todd Sickafoose)の13部門と同年で最多ノミネートされています。

SDまとめ

会場を出る時には、来場者全員に、本作のイメージにもある赤い花(レプリカ)を渡され、いい記念になりました。

そして、SDではキャストたちが、その赤い花のついたペンでサインをしてくれました。

ただ、SDはものすごい待ち人数で、とてもお話をする余裕はありませんでしたが、待っていた人全員にサインをして帰られていきました。

▼Orfeus役のReeve Carney

f:id:urara1989:20190516130706j:image

▼Eurydice役のEva Noblezada

f:id:urara1989:20190516130742j:image

すでにリピーターも多くいるようでしたね。

公式サイト:

HADESTOWN

 ▼今回は、Walter Kerr Theatreで観劇しました。合い向かいは『The Prom』を上演するLongacre Theatreなので、終演後には周囲がそれぞれのファンで溢れていました。

f:id:urara1989:20190516130848j:image

 

『Oklahoma!』2019.5.4.13:00 @Circle in the Square Theatre

f:id:urara1989:20190515184338j:image

『Oklahoma!』とは

1943年ブロードウェイ初演のミュージカル。

原作はリン・リッグズによる「ライラックは緑に育つ」。

音楽は『サウンド・オブ・ミュージック』など数々の名作を手がけたオスカー・ハマースタインⅡ世とリチャード・ロジャース

初演時は、『マイ・フェア・レディ』が登場するまでの間、ブロードウェイの最長ロングラン記録を持っていた。

今回観劇したプロダクションは、2015年のバード大学でのワークショップ、2018年ブルックリンにあるSt. Ann's Warehouseでの上演の後、2019年からブロードウェイに移行したもので、チケットの売上金の一部を銃廃止を推進する活動に寄付することを発表し話題になった。

演出はDaniel Fish。

f:id:urara1989:20190515184431j:image

あらすじ

舞台は1906年オクラホマ州

エラーおばさんに育てられたローリーは、カーリーのことが好きだが、彼が他の女性たちとも仲が良いことを怒ったローリーは勢いで、農場手伝いのジャッドと村祭りに一緒に行く約束をしてしまう。

村祭りに行く前、庭先でうっつらうっつらしていたローリーは、ジャッドがカーリーを殺す不吉な夢を見る。

一緒に馬車で行く途中で、ジャッドはローリーにキスを強要しようとしたので、彼女はジャッドを馬車から突き飛ばして置き去りにしてしまう。

ローリーが村祭りの会場に到着すると、余興で学校の資金集めの競りが行われようとしていた。

すると、ローリーが寄付した料理入りの籠を巡って、カーリーとジャッドが争い、カーリーが大事にしている馬やピストルなど全財産を叩いて競り勝つ。

ローリーはカーリーの思いに素直になり、2人は遂に結婚することになる。

しかし、それを恨んでいたジャッドは、2人が乗っている干し草に火を放ち、殺そうとする・・・

f:id:urara1989:20190515184515j:image

キャスト

Curly McLain    Damon Daunno

Laurey Williams    Rebecca Naomi Jones 『I Can Get It for You Wholesale』

Jud Fry    Patrick Vaill

Aunt Eller    Mary Testa 『The Gardens of Anuncia』

Ado Annie Carnes    Ali Stroker

Will Parker    James Davis

Andrew Carnes    Mitch Tebo

Ali Hakim    Will Brill

Gertie Cummings    Mallory Portnoy

Lead Dancer    Gabrielle Hamilton

f:id:urara1989:20190515184618j:image

感想

この日のマチネは、ロジャース&ハマースタインⅡ世が手がけた名作『オクラホマ!』を斬新に演出したrevivial公演を観劇しました。

私が今まで触れてきた『オクラホマ!』は映画版、そしてヒュー・ジャックマンがカーリーを演じた舞台版を収録したものなどですが、これらからはいずれも中西部の古き良きアメリカという印象を得ていました。

しかし、今回の公演はそういったものを想定して劇場を訪れると、だいぶ裏切られるかと思われます。

▼highlightsです。


Highlights From Broadway's Oklahoma!

▼観劇後の感想です。

https://twitter.com/nyny1121/status/1124799624248582144

今回の劇場はCircle in the Square Theatreというアリーナ型の劇場でした。

こちらでは今まで『Godspell』や『Once On This Island』などを観劇したことがあります。

▼座席表はこんな感じです。

Image result for circle in the square theatre

今回は上の座席に加えて、舞台と同じ高さにテーブル席が設けられていました。

劇場に入ると、天井から垂れた色とりどりのリボン、ステージには机の上に置かれた鍋など、祝祭的雰囲気を感じた次の瞬間、壁全面に取り付けられたおびただしい数の銃に気づき、すぐに尋常ではない雰囲気を察知しました。

台詞や基本的な楽譜は同じものを使っているはずなのに、なんだかとても不穏な印象を受ける舞台でした。

まず音楽ですが、従来のオーケストラによる演奏とは異なり、ヴァイオリン、ベースに加えて、アコースティックギターマンドリンバンジョー、エレキによる少数のバンドで、イメージが全く違いました。

曲と曲の繋ぎの音楽も、ハマースタインとロジャースの音楽ではあるのですが、マイナー調に変調されていました。

冒頭ではカーリーがギターを弾き、「Oh What a Beautiful Morning」を歌いながらゆっくりステージ上を歩きます。

カーリーを演じるのはDamon Daunno

もともとロンドン公演以前の『Hadestown』でOrfeusを演じていた方です。

彼の歌い方が、もうとてもセクシーでかっこいいのです。

そして、アニーを演じるAli Stroker

彼女はエネルギッシュな魅力に溢れていて、やや重苦しい雰囲気を吹き飛ばしてくれる存在でした。

「車椅子だから選ばれたと思われたくなくて頑張っている」と語る彼女もまた、既存のアニー像に縛られない彼女らしいアニーを演じています。

▼Ali Strokerによる「I Cain't Say No」


"I Cain't Say No" | Rodgers & Hammerstein's OKLAHOMA!

https://twitter.com/nyny1121/status/1124800783126413312

実際には、幕間にチリとコーンブレッドを配っていたようなのですが、私がお手洗いに行っている間に終わってしまっていました。

劇中のお祭りで振る舞われたものを食べることで、immersive感が増しそうです。

f:id:urara1989:20190515184812j:image

さて、今回の観劇で非常に印象的だったのは、「Dream Balletのシーン」と「暗転と映像の効果」です。

まず「Dream Balletのシーン」。

これはローリーが「Out of My Dream」を歌った後、彼女の夢の中で繰り広げられる葛藤をダンスで表現するというものです。

映画版もヒュー・ジャックマン版も、ローリーがカーリーとジャッド2人の男性の狭間で揺れ動く気持ちを表現しています。

映画版ではローリー自身ではなく、ローリー風のダンサーとカーリー風のダンサーによるダンスでしたが、ヒュー・ジャックマン版では実際のローリーがダンスしていたので、特別規定はないようです。

特に映画版のDream Balletは「小さい頃に見てトラウマになった」というアメリカ人続出のトラウマシーンとしても有名ですね。

 今回は、Lead Dancerの若い女性がメインで踊るものとなっていました。

このLead Dancerは、丸坊主で裸足で、布を身にまとっているという中性的な出で立ち。

最初から何かから逃げ惑うかのように、ステージ上を独特なステップで激しく駆け回ります。

すると、途中で照明が落ち、天井から何か大きなものが落ちてきます。

何かと目を凝らすと、大きな靴のオブジェでした。

これがいくつも天井から立て続けに落ちてくるのです。

これは、単にカーリーとジャッドの2人の間で揺れるというより、ボックスソーシャルという「自分の料理カゴに最高値をつけた男性と踊らなければならない」というしきたり自体が男性優位社会の象徴で、そういった伝統やしがらみに抑圧され、自身には選択権のない女性像を描いているのかなと想像しました。

「Me Too問題」に端を発した現代的な解釈というように捉えました。

f:id:urara1989:20190515184927j:image

もう一点、「暗転と映像の効果」。

本公演では普通の劇場と違って、客席が暗くステージ上だけ明るいということはなく、基本的にステージと同じ明るさで客席も照らされています。

しかし、劇中、ステージと客席が一斉に、何度も暗転したり、緑照明になったりします。

緑照明はdrugか何かを表現しているのかなと最初は思ったのですが、おそらくそれは関係なさそうで、深い意味はよく分かりませんでした。

暗転は唐突に起こり、暗転中はわずかな明かりもない真っ暗闇で、キャストのセリフだけで状況を判断せざるを得ませんでした。

暗転したのは、記憶している限りでは、ジャッドがローリーに迫るシーンとカーリーがジャッドと争うシーンだったかと思います。

前者はやや猥褻な響きが広がり、後者は暴言とともに途中で銃声なども聞こえました。

暗転させて視覚をブロックすることで、観客に想像の余地を与え、舞台に深みを持たせる効果がありました。

また、暗転中、ビデオカメラでジャッドの表情をアップで撮影し、背景に投影させていましたが、これはいまいち何のためだったのか、よく分かりませんでした。

2019年のトニー賞では、リバイバル作品賞主演男優賞(Damon Daunno)、助演女優賞(Ali Stroker, Mary Testa)、演出賞(Daniel Fish)、舞台デザイン賞(Laura Jellinek)、音響デザイン賞(Drew Levy)、編曲賞(Daniel Kluger)の7部門でノミネートされています。(助演女優賞は2人それぞれノミネートされています。)

SDまとめ

今回もステージドアへ。

マチネ後だったにも関わらず、多くのキャストと交流できました。

▼Curly役のDamon Daunno。トニーノミネートおめでとう。

f:id:urara1989:20190515183759j:image

▼Aunt Eller役のMary Testa。ブロードウェイの重鎮ですが、とても気さくな方。トニーノミネートおめでとうございます。

f:id:urara1989:20190515183829j:image

https://twitter.com/nyny1121/status/1124820205044023296

▼Jud役のPatrick Vaill。話し振りから作品への思い入れが強い方なのだなと感じました。

f:id:urara1989:20190515184006j:image

公式サイト:

Rodgers & Hammerstein’s OKLAHOMA! | Official Broadway Site | Home

 

▼今回はCircle in the Square Theatreで観劇しました。ロングランしている『Wicked』が上演されているGershwin Theatreの隣の劇場です。