ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『Be More Chill』2019.5.2.19:00@Lyceum Theatre

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『Be More Chill』とは

2015年にニュージャージーで初演され、2018年オフブロードウェイ公演を経て、2019年3月(プレビューは2月)にブロードウェイで初演されたミュージカル。

原作はNed Vizziniによる同名小説。

作詞作曲はジョー・アイコニス(Joe Iconis、ジョー・イコニスとも表記される)による。

演出はステファン・ブラケット。

今後、映画化が予定されている。

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あらすじ

父子家庭の高校2年生のジェレミーは、家ではズボンを履かない父親にイライラし、学校ではリッチを中心とした人気者たちにいじめられている。

親友のマイケルとともに、その日を何とか生きのびるのに必死だ。

ある日、ジェレミーは長年片思いを続けている演劇オタクのクリスティーンが、学校で開催される劇に参加することを知り、彼女に少しでも近づくため、自身も参加する決意をする。

劇の練習後、リッチはジェレミーをトイレに連れ込み、どうやって人気者の座を手にしたのかを話し出し、Super Quantum Unit Intel Processor、略してSQUIPというコンピューター制御装置のついた錠剤を飲んだことを告白する。

そのSQUIPの命令通りに行動すると、自然とcoolになれるというのだ。

ジェレミーは親友のマイケルにそのことを話すと、騙されているだけだと言われてしまうが、半信半疑のまま2人は売人からSQUIPを買ってしまう。

ジェレミーが言われた通りに緑のマウンテンデューと一緒に飲み込むと、いきなりけいれんが起き、キアヌ・リーブス似のSQUIPが登場する。

SQUIPの指示通りの服を買い、指示通りのことを話すと、急に女の子にモテ出し、学校内の評価も高まるのだが、意中のクリスティーンには密かにジェイクのことが好きであると告白されてしまう。

落ち込むジェレミーにSQUIPはブルックを踏み台にして人気を高めてからクリスティーンにアタックするよう指示する。

あまりの急展開にジェレミーは一時的にSQUIPの作用を止めたいと言うが、SQUIPは視神経ブロックという方法を使い、ジェレミーにあえてマイケルを見えないようにし、マイケルの邪魔が入らないようにしていたのだった。

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キャスト

Jeremy Heere    Will Roland

Michael Mell    George Salazar

Christine Canigula    Stephanie Hsu

The Squip    Jason Tam

Rich Goranski    Gerard Canonico

Chloe Valentine    Katlyn Carlson

Jenna Rolan    Tiffany Mann 『Hercules』

Brooke Lohst    Lauren Marcus 『White Girl in Danger』

Jake Dillinger    Britton Smith

Mr. Heere/Mr. Reyes/Scary Stockboy    Jason Sweettooth Williams

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感想

続いては、2018年9月、オフブロードウェイ公演が完売していたために観ることができず、首を長くして待っていた、この作品について書きたいと思います。

▼trailerです。


Be More Chill on Broadway - Highlights

2015年のニュージャージー公演で特に10代の若い世代から絶大な支持を得たこの作品。

昨年2018年にオフブロードウェイ公演を大盛況のうちに終え、満を辞して今年2019年オンブロードウェイへとやってきました。

去年9月下旬に渡米した際には、8月頃からすでに存在は知っていて、ただチケットは現地で取ることが多いので、後でいいだろうとタカをくくっていたところ、気づいた時には完売しており、lotteryにも挑戦したのですが外れ、泣く泣く諦めたという経緯があります。

それ以来、オフブロードウェイ公演は席数が少ないので人気演目は埋まるのが早いと心に刻むようになりました。

さて、この作品の存在を以前から知ってはいたのですが、実際に音楽に触れたのは去年9月の行きの飛行機の中でした。

とにかく予想のつかない音の動き、テルミンを使っているためSF風であり、ポップでキャッチーで、今まで聴いたことのない衝撃的なOCRだったのです。

ブロードウェイ公演が決まり、これは絶対にいち早く観たいと思い、急遽ゴールデンウィーク遠征を決行したのでした。

今回の遠征は『Be More Chill』を観るためと言っても過言ではありませんでした。

キャストについて語る

まずは、Christine役のStephanie Hsu

Christineと言えば、ミュージカルファンであればまず先にあれを思い浮かべることでしょう。

オペラ座の怪人』のクリスティーヌ・ダーエです。

白人で典型的なヒロインであるそのChristineとはかけ離れた、アジア人でぽっちゃり体型のStephanieを、主人公の憧れの対象Christineとしている点が、この作品のミソでもあります。(対して、典型的なチアリーダータイプのKatlyn Carlsonは脇役のChloe役です。)

彼女のコメディエンヌとしてのセンス、確かな歌唱力、くるくる変わる声色や表情から目が離せませんでした。

演劇オタクで、頭の回転が速く、ナルシストで、やや大げさに表現しがちなクリスティーン像は「I Love Play Rehearsals」に表れています。

たった一曲の中で、このキャラクターの個性がよく分かります。

オリジナルキャストとして、無の状態からこのChristineというキャラクターを創り上げた彼女はもっと評価されるべきだと思います。

トニーの助演女優賞にノミネートされなかったのが不思議で仕方ないのですが・・・、このあたりは後ほど語ります。

▼Stephanie Hsuによる「I Love Play Rehearsals」歌部分は2:30〜です。


Stephanie Hsu sings I Love Play Rehearsal at the Be More Chill Vinyl Release

続いて、大好きなのがいじめっ子のRichを演じるGerald Canonicoです。

彼は子役からブロードウェイの舞台に立っているキャリアの長い俳優さんです。

やや恰幅のいい体から放たれる彼のシャウトまじりの「The Squip」は、いやあ心底しびれました。

▼Gerald Canonico「The Squip」歌部分は1:40〜です。


Gerard Canonico sings The Squip Song at the Be More Chill Vinyl Release

その他、音楽を手がけたジョー・アイコニスの妻であるLauren Marcusも出演しています。

▼オリジナルブロードウェイキャストによる「Smartphone Hour」


Be More Chill on Broadway - "Smartphone Hour"

また、Squip役のJason Tam

彼もキャストの中では長いキャリアの方ですが、私が以前観たのは『A Chorus Line』のrevivalの時。

その時はPaul役で、ソロの歌やダンスがない代わりに、印象的な長台詞を言う役でした。

今回は、それとは打って変わってソロで歌い、時には日本語も話す個性的な役どころです。

最後に、みんなが大好きなGeorge Salazarです。

初めて彼のperformanceを目の当たりにしたのはブロードウェイの『Godspell』のリヴァイヴァル公演です。

その時、彼が「The Light of the World」を熱唱していたのが非常に印象的でした。

まさかこのような形で再会できるとは思っていませんでしたね。

彼の見せ場、というよりむしろ本作一番の盛り上がりは2幕後半で訪れます。

ジェレミーと喧嘩をして彼がトイレに一人でこもって歌う「MIchael in the Bathroom」です。

Georgeはこのnumberをもう何百回も歌っているでしょうに、決して投げやりにならず、いつもと変わらず情感を込めて歌っていました。

この場面を観られただけで、私はもう胸がいっぱいでした。

▼George Salazarによる本作のiconicなnumber「Michael in the Bathroom」


Be More Chill on Broadway - "Michael in the Bathroom"

 以前「Michael In the Bathroom」を和訳した時の記事はこちらです。

公式サイト:

Be More Chill | Official Website

舞台について語る

▼観劇後の感想です。

色々と妄想し続けた時間が長かったせいか、少し思い描いていたものとは違ったんですよね。

ブロードウェイの大きい箱に移ったから、ネオンなり映像なりできることはやってみようという感じで、とにかく盛り沢山という印象でした。

今回はメザニン前方センターだったのですが、特に照明は目がチカチカするほどで、ちょっとやりすぎでないかなと思いました。

ハロウィンの衣装が可愛かったのですが、おそらくこれは『オズの魔法使い』をイメージしたものかなと後から思いました。

Chloeがドロシー、Brookeがライオンであることはわかりましたが、それ以外は予想ですが、JennaがカカシでChristineが東のいい魔女かなと予想しました。

どうでしょう。

Image result for be more chill halloween costumes

もちろんオフブロードウェイ公演は観ていないので、オンブロードウェイ公演との比較はできません。

しかし、オフからオンブロードウェイに上がる時、「Loser Geek Whatever」が加わったり、衣装もハロウィンの衣装を中心に変えたようなのですが、客席からは「オフ版の方が良かった」という声がちらほら聞こえてきました。

オフの小さめの箱でもっとシンプルな舞台セットの方が、ジョー・アイコニスの音楽がもっと活きたんじゃないかなと個人的にも思いました。

ただ、ニュージャージーやオフであれだけの熱気だったのですから、運営陣がオンに挑戦したいと思った気持ちも十分に理解できます。

ウィークデイということもあったかもしれませんが、残念ながら、各種割引チケットサイトでだいぶ値引きされていたものの、私の前2列は空席でした。

おかげで視界の遮りなく舞台を観ることができましたが。

巷の評価とトニー賞について語る

2019年のトニー賞では、『Be More Chill』は作曲賞(Joe Iconis)の1部門のみノミネートされました。

これは多くのBMCファンにとってショッキングなニュースだったと思います。

特にファンにとって想定外だったのが、George Salazarが助演俳優賞にノミネートされなかったことです。

その他に、Stephanie Hsu助演女優賞ノミネートもあると思っていました。

終わったことを蒸し返すことはしたくありませんが、この結果に関して個人的な見解を書いてみます。

トニー賞はコテコテのコメディに軍配があがることもありますが、やはり何らかの社会的なメッセージを含む作品が勝つことが多い印象があります。

今年で言えば、『The Prom』はブロードウェイ界隈のテーマの一つでもあるLGBTQの問題にスポットを当てた作品ですし、『Oklahoma!』の再演では銃廃止に貢献するなど、社会へのコミットメントを明確にしています。

BMCは思春期の劣等感を描いており、同世代の観客にとっては強く共感できるのでしょうが、既存のtheatregoerたちには響かなかったということなのかなと思いました。

一方、ドラマ・デスク・アワードでは作品賞、助演男優賞(George Salazar)、助演女優賞(Stephanie Hsu)、作曲賞、作詞賞(ともにJoe Iconis)など8部門ノミネートされてましたし、Broadway.comというサイトが行ったAudience Choice Awardという観客が選ぶ賞では11部門にノミネートされました。

SDまとめ

観劇後は、いつものStage Doorへ。

▼Jeremy役のWill Roland

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Chloe役のKatlyn Carlson。The 理想体型です。
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▼Michael役のGeorge Salazar。一人一人の声に耳を傾けているのが印象的でした。
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▼GeorgeとKatlynにオリジナルキャストによるレコードにサインをもらいました。大切にします。本当はStephanie, Gerald, Jasonにももらいたかったけれど、それはまた次の機会ということで。
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▼今回は、midtownど真ん中にあるLyceum theatreで観劇しました。 

この劇場は以下の点、要注意です。

 

『Fiddler On the Roof』2019.5.2.13:00@Stage 42

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Fiddler On the Roof』とは

1964年ブロードウェイ初演のミュージカル。

邦題は『屋根の上のヴァイオリン弾き』で知られる。

ショーレム・アレイヘムによる短編小説「牛乳屋のテヴィエ」を原作とし、帝政ロシア領となったシュテットルに暮らすユダヤ教徒の家族が描かれている。

作曲はジェリー・ブロック、作詞はシェルドン・ハーミック、脚本はジョセフ・スタイン

演出は映画『キャバレー』の怪演が有名な俳優ジョエル・グレイが務めている。

今回はイディッシュ語による上演(英語字幕付き)を、オフブロードウェイの劇場で観劇した。

このプロダクションは、2018年7月にニューヨークのMuseum of Jewish Heritageでプレビューが開始され、2018年末まで上演された後、2019年2月からオフブロードウェイの劇場に場所を移して再上演されているものである。

あらすじ

テヴィエはウクライナ地方の小さな村アナテフカで牛乳屋を営み、妻と5人の娘たちと暮らしている。

テヴィエは娘たちの幸せを願い、結婚相手探しに奔走するが、なかなかうまくいかない。

長女ツァイテルにテヴィエと険悪な仲の肉屋のラザールとの結婚話が舞い込むが、彼女にはすでに仕立て屋のモーテルという恋人がいた。

テヴィエは猛反対するが、最終的には2人は結婚する。

次女ホーデルは革命を夢見る学生闘士パーチックと恋仲になり、逮捕されたパーチックを追ってシベリアへ発つ。

三女チャバは宗教の異なるロシアの青年と駆け落ちする。

娘たちの巣立ちと並行して、ユダヤ人排斥運動ポグロムは激化の一途を辿り、テヴィエたち一家は住み慣れた故郷アナテフカを追われ、新天地アメリカへと旅に出ることになるのだった。

キャスト

Tevye    Bruce Sabath

Golde    Jennifer Babiak

Tsaytl    Rachel Zatcoff

Hodl    Stephanie Lynne Mason

Khave    Rosie Jo Neddy

Shprintze    Raquel Nobile

Beylke    Samantha Hahn

Leyzer-Volf    Adam B. Shapiro

Motl Kamzoyl    Ben Liebert

Pertshik    Drew Seigla

Fyedke    Cameron Johnson

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感想

続いては、オフブロードウェイの劇場で観劇した『屋根の上のヴァイオリン弾き』についてです。

私は映画版と、日本での市村正親さん主演の舞台を何度か観劇したことがあるのですが、その時は「ユダヤ人家族を描いた作品」という捉え方ではなく、「父親と娘たちの理解し合えないながらも互いを思いやる気持ち」に感動した覚えがあります。

今回は、イディッシュ語による上演ということで、作品に流れるユダヤ人の歴史や文化といった部分をより色濃く感じられるのではないかと期待して、観劇に行ってきました。

さて、イディッシュ語だけではもちろん理解できる方がきわめて限られるので、もちろん英語の字幕が舞台の両側についていました。

私はイディッシュ語という存在自体、映画の影響などでおぼろげに知っていた程度で、詳しくは知らなかったので、少しだけ調べてみました。

イディッシュ語中欧や東欧のユダヤ人の間で話されていたドイツ語に近い言葉で、ユダヤ語とも呼ばれるそうです。

現在では主に話されることはないようですが、このページの一番下に掲載した動画内で、ユダヤ系のSteven Skybellが「祖父母の世代が話の内容を他の人に知られたくない時に使っていたのを聞いたことがある」と話しています。

ユダヤ系の方でさえその程度ですから、出演する俳優たちはほとんどがイディッシュ語を話すことはできず、最初は英語で読み合わせを行った上で、イディッシュ語に変えていくというプロセスを経て、今の舞台が出来上がったそうです。

物語の舞台であるウクライナ地方に合わせて、その地に住む当時のユダヤ人が話していたイディッシュ語で上演するという画期的な企画だと思いました。

イディッシュ語を初めて聞く私には、ドイツ語のように聞こえました。

▼本公演のtrailerです。


FIDDLER ON THE ROOF IN YIDDISH - Montage

▼観劇後の感想です。

1階席しかないこじんまりした客席の最後列センターで観ましたが、見下ろすことはなく、ちょうど役者さんの目線の高さくらいで観やすかったです。

シンプルな舞台上で、大人数の陽気なナンバーあり、テヴィエが哀愁を漂わせながら歌うソロナンバーありで、あっという間の3時間でした。

内容を知っていたこともあり、英語字幕は途中から追うのはやめて、役者さんの表情や声色などから意味を類推して観劇を楽しみました。

(英語字幕の文字は小さめでしたし、文字を追っていると役者さんが見えず、役者さんを追っていると文字を追えず、どっちつかずになってしまうので、結局字幕はやめました。)

冒頭にも書いたように、ユダヤ人の文化を特に色濃く感じられたのは、三女チャバとロシアの青年との恋愛の場面かなと思いました。

ユダヤ教を捨てて、ロシア正教会に入ったチャバを心配するテヴィエの気持ちを思うとたまらなく切なくなりました。

客席に入るとまず目に飛び込んでくるのが、舞台背景に堂々と並ぶ4つの文字。

その意味が気になったので、後で調べようとメモをしていたのですが、Twitterでfollowしている方が教えてくれました。

モーセ五書だったわけです。

ネタバレを避けるために書きませんが、この文字の書かれた舞台背景は紙でできていて、後半に大胆にもあることをされてしまいます。

この言葉の意味を知った上で思い返すと、テヴィエたちにとって相当屈辱的な出来事だったのだろうと理解できました。

▼ニュース映像


Yiddish version of Fiddler on the Roof

 

 公式サイト:Fiddler on The Roof

▼今回はStage 42というオフブロードウェイの劇場で観劇しました。 

木曜日のマチネ枠としてオススメの一作です。

▼本公演のプロデュースから携わったJoel Greyとオリジナルキャストでテヴィエを務めるSteven Skybellが本作への想いを語っています。お時間のある時にどうぞ。


Joel Grey & Steven Skybell On The Yiddish Version Of "Fiddler on the Roof"