ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『レッド・ホット・アンド・コール』2019.3.9.13:00@博品館劇場

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『レッド・ホット・アンド・コール』とは

1989年コネチカット州ダリエン・ディナー・シアターで初演された、作曲家として多くの名曲を残したコール・ポーターの人生を描いたミュージカル。

タイトルは彼が音楽を手がけたミュージカル『Red, Hot and Blue』から、coldとColeを掛けている。

あらすじ

1916年、25歳の若さでブロードウェイ初作品に失敗したコールの周りには、親友であり俳優のモンティ、社交界の大物であるエルザ、のちにアカデミー賞に3度ノミネートされる俳優クリフトンなどが彼の誕生日を祝おうと集合していた。

外国人部隊に入り赴いたパリではのちに妻となるリンダと出会い、モンマルトルではクラブを経営するブリックトップの素晴らしい歌声に惹かれ、自分の音楽を確立していく。

1928年以降、ブロードウェイで次々とヒット作を連発、1935年にはハリウッド進出を果たす。

そんな成功の最中、不運な事故に遭う。

これは、コールを取り囲む様々な人物たちとの出会いと別れ、彼の生涯を彼の音楽とともに綴る物語。

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キャスト

コール・ポーター 屋良朝幸

クリフトン、若い男、紳士、カウフマン、カッツ、医者:矢田悠祐

エルザ、エセル、婦人:吉沢梨絵

婦人、リンダ・ポーター:彩乃かなみ

ヴァーノン、イギリス兵、紳士、若い男、ダンサー、ポール 木内健人

アイリーン、婦人、サラ、伯爵夫人、ドロシー、ダンサー:真瀬はるか

婦人、ブリックトップ、ヘッダ、ベラ:彩吹真央

モンティ、モス、レイ、ノエル:鈴木壮麻

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感想

博品館劇場に行くのはもしかすると初めてです。

とてもワクワクしながら行ってきました。

コール・ポーターへの思いを書き出すときりがないのですが、自分の心の中に漠然とあるブロードウェイの情景にBGMをつけるとすると、彼の音楽がまず思い浮かびますね。

「Night and Day」「Anything Goes」「So In Love」など、枚挙に遑がありません。

▼観劇直後の感想です。

主演の屋良さんは最近、拝見するたびに違う表情を見せてくれて、毎回楽しみにしています。

コールの気立ての良さとともに、わがままな感じなども感じられる演技でした。

期待通りに、『Anything Goes』ではタップダンスもみられ良かったです。

特に、コールの事故の場面のナレーションに合わせてコンテンポラリーバレエ様のダンスは圧倒的でした。

他のキャストの方も全体的に好みで、素晴らしかったです。

鈴木さんや吉沢さんといった元四季さんたち、元宝塚のお姉様たちの本領が発揮されていました。

鈴木さんと彩吹さんだったかしら、途中で台詞を言いながらダンスするシーンがあったのですが、少しでも台詞を言うタイミングが狂うとダンスに合わなくなってしまうため非常に緊張感があり、印象に残っています。

実際に本編中に登場した楽曲は以下の通り。

  • Night and Day
  • I’m a Gigolo
  • See America First
  • Tomorrow
  • War Song
  • I Love Paris
  • I’m in Love Again 
  • Who Said Gay Paree?
  • Come Along with Me
  • Anything Goes(Medley) Let’s Do It~Let’s Misbehave~What is This Called Love?~Love for Sale~I Get a Kick Out of You~Anything Goes
  • You’re the Top
  • Miss Otis Regrets
  • Begin the Beguine
  • Just One Of Those Things
  • In the Still Of the Night
  • Ridin’ High & Red, Hot And Blue(Medley)Ridin’ High~Red Hot And Blue~Ridin’ High~Red Hot And Blue/Ridin’ High
  • It’s De-Lovely 
  • Let’s Do It
  • Ça, C’est l’Amour
  • Friendship
  • My Heart Belongs to Daddy
  • I’m In Love with a Soldier Boy
  • Ours & Kiss Me Kate(Medley)Ours~Another Op’nin’, Another Show~Brush Up Your Shakespeare ~Where Is the Life That Late I Led? ~So in Love~Always True to You in My Fashion~Why Can’t You Behave?
  • True Love
  • Wake Up And Dream

本筋はコールがブロードウェイデビュー作で失敗したところから始まり、それ以前の彼がイエール大学などの名門大学に通っていた時期や作曲家を志すあたりは描かれていません。

コールの人生が描かれた映画『五線譜のラブレター』ではコールと同性の愛人の存在と妻の三角関係も描かれていますが、本作ではそこは当然のごとく割とあっさりと描かれていました。

博品館劇場は1階席のみでこじんまりとした劇場だったので、最後列からの観劇でしたがそこまで遠さを感じずに楽しむことができ良かったです。

「Way Down Hadestown」(from"Hadestown(ヘイディスタウン)")を和訳してみた。

今日は、いよいよ2019年3月22日からWalter Kerr劇場にてプレビュー公演が始まる『Hadestown』から「Way Down Hadestown」を和訳してみます。

その前に、この作品について、私自身の勉強も兼ねて解説してみたいと思います。

▼オフブロードウェイの時のもの

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『Hadestown』とは

アメリカのシンガーソングライターであるAnaïs Mitchellによる2010年に発表された同名のコンセプトアルバムから派生した舞台ミュージカル。

2016年にニューヨークシアターワークショップで世間にお披露目され、2017年カナダのエディモントン、2018年ロンドンを経て、2019年満を辞してブロードウェイで初演される予定。

ギリシア神話のオルペウスとエウリュディケーがモチーフになっている。

ヘルメスはベテランのAndré De Shields、ミュージカル『スパイダーマン』で主演したReeve Carney、エウリュディケー役には『ミス・サイゴンリバイバルでキムを演じたEva Noblezadaraらが演じる。

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ギリシア神話講座

一口にギリシア神話といっても膨大な内容なので、本作を観劇する上で知っておいた方がいい部分のみ抜粋しました。

まずタイトルにもなっているHadesはハーデース、ハデスとも言われるギリシア神話の冥界の神で、ディズニー映画『ヘラクレス』に登場するヴィランであるハデスと同じです。

当時のギリシアでは、神の特別の恩寵を受けた一部を除いた、多くの一般人は死後、地下にある冥界に送られるという考えがあり、ハデスはその地下の死者たちの国の王とされていました。

実際に、ヨーロッパにある鍾乳洞のいくつかには冥界に続くとかつて信じられていた場所もあるそうです。

さて、ハデスが治めていた地下の世界はどのようなものだったのでしょう。

天に召され、地下に降りていくと、ステュクスという河があります。

この河のほとりにはカロンという渡し守がいて、死者はその小舟に乗せてもらうためにお金を支払わなければならないため、遺族は死者の口に銀貨を含ませる習慣があったそうです。

ハデスの住む館には番犬ケルベロスが門を守り、誰かが入るときは大人しく、出ようとする時には3つの頭で吠えかかっていたそうです。

このハデスの妻がペルセポネPersephoneです。

彼女は好き好んでハデスと結婚したわけではなく、ハデスによって誘拐されて嫌々結ばれたという経緯があります。

続いて、物語の中心人物であるオルペウスとエウリュディケーについて。

オルペウスはアポロンの息子(諸説あり)であり、竪琴と歌がとても上手で、彼が歌うと山の鳥たちだけでなく石や草木も踊り出すほどだったとか。

エウリュディケーは妖精(nymph)で、オルペウスと相思相愛でした。

しかし、新婚間も無くして、エウリュディケーは毒蛇に噛まれて亡くなってしまいます。

エウリュディケーの死に慟哭するオルペウスは、死者の住む地下の世界に下りていってエウリュディケーを連れて帰ろうとします。

ハデスの面前で、竪琴をかきならしながら嘆願の歌を歌うオルペウスに、周りにいる死者たちは感涙し、番犬ケルベロスも大人しくなり、ついにはハデスの心さえも動くのでした。

へデスは、エウリュディケーを連れ帰ってもいいとオルペウスに許可を出しましたが、地上に出るまでの間、一度としてのエウリュディケーの方を振り返ってはならないという条件をつけるのでした。

しかし、死者であるエウリュディケーの足音や衣摺れの音は聞こえず、途中で本当についてきているか不安になったオルペウスはエウリュディケーの方を振り返ってしまい、その途端、エウリュディケーは真っ逆さまに冥界へと落ちていってしまうのでした。

その後の彼の死の経緯は割愛しますが、彼の竪琴は空に捧げられ、のちに琴座になったと言われています。

▼オルペウスとエウリュディケーについてのわかりやすいアニメ


The tragic myth of Orpheus and Eurydice - Brendan Pelsue

物語の進行やキャラクター紹介を担うヘルメスHermesは、日本でいう道祖神のような存在で、家畜の増殖、富や幸運、道の神、旅人の守り神、通訳の神、死者を冥界へ導く神、泥棒の神など、司っているものは実に多様です。

その他、本作には運命の三女神the three Fatesが登場します。

この3人は、生命の糸を紡ぐClotho、その糸の長さを決めるLachesis、その糸を断ち切るAtroposです。

※以下の文献を参照させていただきました。

ギリシア神話を知っていますか (新潮文庫) 阿刀田高 著 p113-132

ギリシア神話 (岩波ジュニア新書 (40)) 中村善也/中務哲郎 著 p44-49, p63-64, p111-113, p158-162

「Way Down Hadestown」を和訳してみた。

(Hermes)

On the road to hell there was a railroad track

And a train coming up from way down below

Better go and get your suitcase packed

Guess it's time to go

地獄へ続く道に、線路があった

そして地下深くから上がってくる電車が見える

帰ってスーツケースに荷物を詰め込んだ方がいい

もう出発の時間だろう

 

Follow that dollar for a long way down

Far away from the poorhouse door

Either get to hell or Hadestown

Ain't no difference anymore

Way down Hadestown

Way down under the ground

金を稼ぐために地中深く

ボロのあばら家から遠く離れた場所へ

地獄か、もしくはヘイディスタウン

もはや大きな違いなんてないさ

地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ

 

Hound dog howl and the whistle blow

Train comes a-rollin' clickety-clack

Nobody knows where the old train goes

Those who go they don't come back

They go

Way down Hadestown

Way down under the ground

番犬が吠え 口笛が鳴り

電車がガタンゴトン言いながらやってくる

このボロ列車がどこへ行くのか誰も知らない

乗って行った奴らは帰ってこない

地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ

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(Persephone)

Winter's nigh and summer's o'er

Hear that high and lonesome sound

Of my husband coming for

To bring me home to Hadestown

Way down Hadestown

Way down under the ground

冬はもうすぐ 夏は終わり

あの高くて寂しそうな旋律が聞こえるかい

旦那が私をヘイディスタウンへ連れて行こうとする音が

地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ

 

Down there, it's a bunch of stiffs

Brother, I'll be bored to death

Gonna have to import some stuff

Just to entertain myself

Give me morphine in the tin

Give me a crate of the fruit of the vine

Takes a lot of medicine

To make it through the wintertime

Way down Hadestown

Way down under the ground

地下にはたくさんの死体があるのさ

兄さん、死人には飽き飽きするよ

自分のお楽しみのために

いくつかブツを輸入しなきゃ

缶に入ったモルヒネを頂戴

ぶどうの実の入ったカゴも欲しいわ

たくさん薬を飲んで

長い冬をやり過ごすのさ

地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ

 

(Fates)

Everybody dresses in clothes so fine

Everybody's pockets are weighted down

Everybody's sipping ambrosia wine

(Eurydice)

In a goldmine in Hadestown

Way down Hadestown

Way down under the ground

みんないい身なりをしている

ポケットにはたんまり入ってる

美味しいワインをすするのさ

ヘイディスタウンの金鉱では

地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ

 

(Orpheus)

Everybody hungry

Everybody tired

Everybody slaves by the sweat of his brow

The wage is nothing and the work is hard

It's a graveyard in Hadestown

Way down Hadestown

Way down under the ground

みんな腹ペコで

疲れきっている

みんな彼の奴隷さ

賃金なしなのに この重労働

ヘイディスタウンの墓場さ

地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ

 

(Fates) 

Every little penny in the wishing well

Every little nickel on the drum

(Persephone)

On the drum

(Fates)

All them shiny little heads and tails

Where do you think they come from?

They come from

Way down Hadestown

Way down under the ground

願いの井戸に投げ入れられる1セント銅貨

ドラムの上で踊る5セント硬貨

小さいけれど隅から隅まで光ってる

こいつらがどこから来たか知っているかい

地下深い ヘイディスタウンからさ

 Related image

(Orpheus)

Mr. Hades is a mean old boss

(Hermes)

With a silver whistle and a golden scale

(Fates)

An eye for an eye!

(Hermes)

And he weighs the cost

(Fates)

A lie for a lie!

(Hermes)

And your soul for sale

ヘイディスさんは嫌味な年寄りのボス

銀の笛と金のはかりを持っている

目には目を

彼は勘定に厳しい

嘘には嘘を

魂さえ売りに出される

 

(Fates)

Sold!

(Orpheus)

To the king on the chromium throne

(Fates)

Thrown!

(Orpheus)

To the bottom of a Sing Sing cell

(Hermes)

Where the little wheel squeals and the big wheel groans

(Orpheus)

And you better forget about your wishing well

Way down Hadestown

Way down under the ground

売られる

クロミウム鉱山の王に

飛ばされる

果てはシンシン刑務所まで

キイキイいう鳴る小さな車輪と唸りを上げる大きな車輪

願いの井戸のことは忘れたほうがいい

地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ 

 

(Hermes)

And on the road to hell there was a railroad car

And the car door opened and a man stepped out 

Everybody looked and everybody saw

It was the same man they'd been singing about

地獄への道の途中 列車があった

その扉が開いて 男が出てきた

みんな互いの顔を見つめた

それは彼らがずっと歌っていた、まさにあの男だった

 

(Persephone)

You're early

早かったわね

 

(Hades)

I missed you

寂しかったぜ

 

(Fates)

Mr. Hades is a mighty king

Must be making some mighty big deals

Seems like he owns everything

ヘイディスさんは強い王のような人

きっとたくさん稼いでいるんだろう

まるでありとあらゆるものの所有者のようだ

 

(Eurydice)

Kind of makes you wonder how it feels

寂しいと思うなんて驚いたでしょう

 

(Hermes)

All aboard...

One, two

A-one, two, three, four

出発だ

1, 2

1, 2, 3, 4

 

Way down Hadestown

Way down under the ground

Way down Hadestown

Way down under the ground

Way down under the ground

Way down under the ground

(割愛)