今日は、いよいよ2019年3月22日からWalter Kerr劇場にてプレビュー公演が始まる『Hadestown』から「Way Down Hadestown」を和訳してみます。
その前に、この作品について、私自身の勉強も兼ねて解説してみたいと思います。
▼オフブロードウェイの時のもの
『Hadestown』とは
アメリ カのシンガーソングライターであるAna ïs Mitchellによる2010年に発表された同名のコンセプトアルバムから派生した舞台ミュージカル。
2016年にニューヨークシアターワークショップで世間にお披露目され、2017年カナダのエディモントン、2018年ロンドンを経て、2019年満を辞してブロードウェイで初演される予定。
ギリシア神話 のオルペウスとエウリュディケーがモチーフになっている。
ヘルメスはベテランのAndré De Shields、ミュージカル『スパイダーマン 』で主演したReeve Carney、エウリュディケー役には『ミス・サイゴン 』リバイバル でキムを演じたEva Noblezadaraらが演じる。
一口にギリシア神話 といっても膨大な内容なので、本作を観劇する上で知っておいた方がいい部分のみ抜粋しました。
まずタイトルにもなっているHadesはハーデース、ハデスとも言われるギリシア神話 の冥界の神で、ディズニー映画『ヘラクレス 』に登場するヴィラン であるハデスと同じです。
当時のギリシア では、神の特別の恩寵を受けた一部を除いた、多くの一般人は死後、地下にある冥界に送られるという考えがあり、ハデスはその地下の死者たちの国の王とされていました。
実際に、ヨーロッパにある鍾乳洞のいくつかには冥界に続くとかつて信じられていた場所もあるそうです。
さて、ハデスが治めていた地下の世界はどのようなものだったのでしょう。
天に召され、地下に降りていくと、ステュクス という河があります。
この河のほとりにはカロン という渡し守がいて、死者はその小舟に乗せてもらうためにお金を支払わなければならないため、遺族は死者の口に銀貨を含ませる習慣があったそうです。
ハデスの住む館には番犬ケルベロス が門を守り、誰かが入るときは大人しく、出ようとする時には3つの頭で吠えかかっていたそうです。
このハデスの妻がペルセポネPersephoneです。
彼女は好き好んでハデスと結婚したわけではなく、ハデスによって誘拐されて嫌々結ばれたという経緯があります。
続いて、物語の中心人物であるオルペウスとエウリュディケーについて。
オルペウスはアポロン の息子(諸説あり)であり、竪琴と歌がとても上手で、彼が歌うと山の鳥たちだけでなく石や草木も踊り出すほどだったとか。
エウリュディケーは妖精(nymph)で、オルペウスと相思相愛でした。
しかし、新婚間も無くして、エウリュディケーは毒蛇に噛まれて亡くなってしまいます。
エウリュディケーの死に慟哭するオルペウスは、死者の住む地下の世界に下りていってエウリュディケーを連れて帰ろうとします。
ハデスの面前で、竪琴をかきならしながら嘆願の歌を歌うオルペウスに、周りにいる死者たちは感涙し、番犬ケルベロス も大人しくなり、ついにはハデスの心さえも動くのでした。
へデスは、エウリュディケーを連れ帰ってもいいとオルペウスに許可を出しましたが、地上に出るまでの間、一度としてのエウリュディケーの方を振り返ってはならないという条件をつけるのでした。
しかし、死者であるエウリュディケーの足音や衣摺れの音は聞こえず、途中で本当についてきているか不安になったオルペウスはエウリュディケーの方を振り返ってしまい、その途端、エウリュディケーは真っ逆さまに冥界へと落ちていってしまうのでした。
その後の彼の死の経緯は割愛しますが、彼の竪琴は空に捧げられ、のちに琴座になったと言われています。
▼オルペウスとエウリュディケーについてのわかりやすいアニメ
The tragic myth of Orpheus and Eurydice - Brendan Pelsue
物語の進行やキャラク ター紹介を担うヘルメスHermes は、日本でいう道祖神 のような存在で、家畜の増殖、富や幸運、道の神、旅人の守り神、通訳の神、死者を冥界へ導く神、泥棒の神など、司っているものは実に多様です。
その他、本作には運命の三女神the three Fatesが登場します。
この3人は、生命の糸を紡ぐClotho、その糸の長さを決めるLachesis、その糸を断ち切るAtroposです。
※以下の文献を参照させていただきました。
ギリシア神話を知っていますか (新潮文庫) 阿刀田高 著 p113-132
ギリシア神話 (岩波ジュニア新書 (40)) 中村善也/中務哲郎 著 p44-49, p63-64, p111-113, p158-162
「Way Down Hadestown」を和訳してみた。
VIDEO
(Hermes )
On the road to hell there was a railroad track
And a train coming up from way down below
Better go and get your suitcase packed
Guess it's time to go
地獄へ続く道に、線路があった
そして地下深くから上がってくる電車が見える
帰ってスーツケースに荷物を詰め込んだ方がいい
もう出発の時間だろう
Follow that dollar for a long way down
Far away from the poorhouse door
Either get to hell or Hadestown
Ain't no difference anymore
Way down Hadestown
Way down under the ground
金を稼ぐために地中深く
ボロのあばら家から遠く離れた場所へ
地獄か、もしくはヘイディスタウン
もはや大きな違いなんてないさ
地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ
Hound dog howl and the whistle blow
Train comes a-rollin' clickety-clack
Nobody knows where the old train goes
Those who go they don't come back
They go
Way down Hadestown
Way down under the ground
番犬が吠え 口笛が鳴り
電車がガタンゴトン言いながらやってくる
このボロ列車がどこへ行くのか誰も知らない
乗って行った奴らは帰ってこない
地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ
(Persephone)
Winter's nigh and summer's o'er
Hear that high and lonesome sound
Of my husband coming for
To bring me home to Hadestown
Way down Hadestown
Way down under the ground
冬はもうすぐ 夏は終わり
あの高くて寂しそうな旋律が聞こえるかい
旦那が私をヘイディスタウンへ連れて行こうとする音が
地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ
Down there, it's a bunch of stiffs
Brother, I'll be bored to death
Gonna have to import some stuff
Just to entertain myself
Give me morphine in the tin
Give me a crate of the fruit of the vine
Takes a lot of medicine
To make it through the wintertime
Way down Hadestown
Way down under the ground
地下にはたくさんの死体があるのさ
兄さん、死人には飽き飽きするよ
自分のお楽しみのために
いくつかブツを輸入しなきゃ
缶に入ったモルヒネ を頂戴
ぶどうの実の入ったカゴも欲しいわ
たくさん薬を飲んで
長い冬をやり過ごすのさ
地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ
(Fates)
Everybody dresses in clothes so fine
Everybody's pockets are weighted down
Everybody's sipping ambrosia wine
(Eurydice)
In a goldmine in Hadestown
Way down Hadestown
Way down under the ground
みんないい身なりをしている
ポケットにはたんまり入ってる
美味しいワインをすするのさ
ヘイディスタウンの金鉱では
地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ
(Orpheus)
Everybody hungry
Everybody tired
Everybody slaves by the sweat of his brow
The wage is nothing and the work is hard
It's a graveyard in Hadestown
Way down Hadestown
Way down under the ground
みんな腹ペコで
疲れきっている
みんな彼の奴隷さ
賃金なしなのに この重労働
ヘイディスタウンの墓場さ
地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ
(Fates)
Every little penny in the wishing well
Every little nickel on the drum
(Persephone)
On the drum
(Fates)
All them shiny little heads and tails
Where do you think they come from?
They come from
Way down Hadestown
Way down under the ground
願いの井戸に投げ入れられる1セント銅貨
ドラムの上で踊る5セント硬貨
小さいけれど隅から隅まで光ってる
こいつらがどこから来たか知っているかい
地下深い ヘイディスタウンからさ
(Orpheus)
Mr. Hades is a mean old boss
(Hermes )
With a silver whistle and a golden scale
(Fates)
An eye for an eye!
(Hermes )
And he weighs the cost
(Fates)
A lie for a lie!
(Hermes )
And your soul for sale
ヘイディスさんは嫌味な年寄りのボス
銀の笛と金のはかりを持っている
目には目を
彼は勘定に厳しい
嘘には嘘を
魂さえ売りに出される
(Fates)
Sold!
(Orpheus)
To the king on the chromium throne
(Fates)
Thrown!
(Orpheus)
To the bottom of a Sing Sing cell
(Hermes )
Where the little wheel squeals and the big wheel groans
(Orpheus)
And you better forget about your wishing well
Way down Hadestown
Way down under the ground
売られる
クロミ ウム鉱山の王に
飛ばされる
果てはシンシン刑務所まで
キイキイいう鳴る小さな車輪と唸りを上げる大きな車輪
願いの井戸のことは忘れたほうがいい
地下深く ヘイディスタウンへ下りていくよ
(Hermes )
And on the road to hell there was a railroad car
And the car door opened and a man stepped out
Everybody looked and everybody saw
It was the same man they'd been singing about
地獄への道の途中 列車があった
その扉が開いて 男が出てきた
みんな互いの顔を見つめた
それは彼らがずっと歌っていた、まさにあの男だった
(Persephone)
You're early
早かったわね
(Hades)
I missed you
寂しかったぜ
(Fates)
Mr. Hades is a mighty king
Must be making some mighty big deals
Seems like he owns everything
ヘイディスさんは強い王のような人
きっとたくさん稼いでいるんだろう
まるでありとあらゆるものの所有者のようだ
(Eurydice)
Kind of makes you wonder how it feels
寂しいと思うなんて驚いたでしょう
(Hermes )
All aboard...
One, two
A-one, two, three, four
出発だ
1, 2
1, 2, 3, 4
Way down Hadestown
Way down under the ground
Way down Hadestown
Way down under the ground
Way down under the ground
Way down under the ground
(割愛)