ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『My Fair Lady』『マイ・フェア・レディ』2018.9.15.14:00 @Vivian Beaumont Theater

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『My Fair Lady』『マイ・フェア・レディ』とは

1956年ブロードウェイ初演のミュージカル。

原作は、バーナード・ショーの戯曲『ピグマリオン』。

作詞はアラン・ジェイ・ラーナー、作曲はフレデリック・ロウ。

ブロードウェイ初演時のイライザはジュリー・アンドリュース

初演時にはトニー賞6部門を受賞している。

「I Could Have Danced All Night」や「With a Little Bit of Luck」などスタンダードナンバー化している楽曲も多い。

日本でも繰り返し上演されており、2010年まで大地真央が20年間にわたってイライザ役を務めていた。

あらすじ

コヴェントガーデンで花売り娘をしているイライザは、音声学者のヒギンズ教授に出会う。

ヒギンズが「どんなに下世話な花売り娘でも、自分の手にかかれば半年で舞踏会でも通用するレディに仕立て上げられる」というのを聞き、イライザは興味を示す。

翌朝、イライザはヒギンズの家に赴き、自身を一人前のレディに仕立てるように頼み、ヒギンズの友人ピッカリング大佐がもし成功したら授業料を全額負担すると応じたこともあり、ヒギンズはイライザの申し出を引き受ける。

数日後、イライザの父アルフレッドが、ヒギンズに金をせびりに来るのだが、そこでヒギンズとアルフレッドは打ち解け、最終的にアルフレッドに6ポンド渡した挙句、アメリカの投資家への推薦状もしたためてしまう。

イライザの訓練は困難の連続だったが、何とか克服し、身分を隠してアスコット競馬場に乗り込む。

しかし、言葉の訛りはうまく直せても、話の内容は花売り娘のままだったイライザは大恥をかく。

またその社交場で貴族の令息フレディはイライザに一目惚れしてしまう。

競馬場での失態から6週間後、雪辱を期すため、イライザはトランシルヴァニア大使館の舞踏会に出席することになるのだが。

キャスト

Eliza Doolittle    Kerstin Anderson

Professor Henry Higgins    Harry Hadden-Paton

Alfred P. Doolittle    Norbert Leo Butz

Freddy    Jordan Donica

Mrs. Higgins    Rosemary Harris

Colonel Pickering    Allan Corduner

感想

この作品をブロードウェイで観ようかどうしようか直前まで迷っていました。

舞台がイギリスなので、ウエストエンドで上演されるとあれば是が非でも観たいと思っていたのですが、今回ブロードウェイでのあまりの人気を聞きつけ、マチネ公演を観劇しました。

マチネ公演だったので、主演はunderstudyの方で、Lauren Ambroseではなくちょっと拍子抜けしましたが、とはいえブロードウェイ公演に出演するだけのことはある素晴らしいイライザを演じていらっしゃいました。

「なるべく安くたくさん観る!」がモットーの私ですが、実は今回の遠征で唯一、100ドル以上チケットに対して払った公演となりました。

しかし、オーケストラ席のやや左の最前列でしたし、その値の価値のある有意義な観劇となりました。


This is My Fair Lady | 2018 Tony Awards

今回のMFLの演出は、“イライザの自立”がテーマ。

日本版などで描かれていたイライザとヒギンズの恋愛の占める割合は少なくなっていました。

どちらのバージョンも好きですが、恋愛なしでも女性の自立をしっかり描くことでまた作品の意味合いが変わり、何度も見直したくなりました。

一番楽しかったシーンは、やはりイライザの父親のナンバー、つまり「運が良けりゃ」など。

一部の隙間なく、陽気さを絵に描いたようなおじさんが歌い踊る場面には瞬きをしたくないほどで、鳥肌が止まりませんでした。

ヒギンズの学者風情も名演でした。

ヒギンズ家の場面では、舞台の回転とともに家のセットも回る構造で、非常に観やすかったです。

セットの細工の細かいことといったら!

最前列にいても、オペラグラスを使って隅々までよく観察してしまったほど、本や実験装置がてんこもりのヒギンズの書斎がよく再現されていました。

そして、最後に付記しておきたいのが、唯一の日本人キャストである由水南さんが出演されていたこと。

冒頭シーンの花売り娘や競馬場での貴婦人など様々な場面でアンサンブルとして参加されていました。

途中、帽子が外れてしまうハプニングにも冷静に対応されていました。

高良結香さんに続き、ブロードウェイのショーで活躍されている日本人を見かけると、非常に励まされるとともに大きなエールを送りたくなりますね。

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『Carousel』『回転木馬』2018.9.14.20:00 @Imperial Theatre

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『Carousel』『回転木馬』とは

リチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタインII作詞によるミュージカル。

1945年ブロードウェイ初演。

原作はモルナール・フェレンツによる戯曲『リリオム』。

あらすじ

舞台はメイン州の漁村。

回転木馬の呼び込みを生業とする男ビリーは客として来ていた女工ジュリーを口説き、恋仲となる。

二人はやがて結婚するが、客に手を出したとしてビリーは回転木馬を解雇され、生活苦に苛立つビリーはジュリーに度々手をあげるようになっていた。

やがて、ジュリーが子どもを孕み、父親になる日が近づくのを意識したビリーは、焦りのあまり大金の盗みを企てる。

しかしあえなく失敗し、逃亡する際にビリーは事故死してしまった。

粗暴だったが愛していた夫を失い、悲嘆にくれるジュリー。

しばらく経ち、天界で暮らしていたビリーは、自分の子どもが苦難に陥っていると聞きつけ、星守starkeeperに許可を得て1日だけ地上に戻ってくる。

ビリーの娘ルイーズは、父親が泥棒だったという汚名から、友人らからいじめの対象となっていた。

ビリーはルイーズの前に姿を現し、天界の星のかけらを渡して励まそうとするが、警戒するルイーズに苛立ち、彼女をぶってしまう。

ルイーズは、ぶたれたのに痛くないことを不思議に思い、母親であるジュリーに尋ねると、ジュリーはそういうこともあるのだと、ビリーのことを思い出しながら娘に語りかけるのだった。

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キャスト

Julie Jordan    Jessie Mueller

Billy Bigelow    Joshua Henry

Carrie Pipperidge    Lindsay Mendez

Nettie Fowler    Rosena M. Hill Jackson

Enoch Snow    Alexander Gemignani

The Starkeeper    John Douglas Thompson

Louise    Brittany Pollack

感想

今回の遠征2作目は、closingを目前にしていた回転木馬のrevivalです。

この作品は映画版も国内公演(この時のジュリーは笹本玲奈さんでした。)も観ていて、親しみのある作品でした。

冒頭の美しいovertureとバレエのみによるパフォーマンスが印象的で楽しみにしていたのですが、今回のproductionは期待を上回る感動的なものでした。

実際に回転木馬の舞台装置はないのですが、回転木馬を象徴するひさしの下でダンサーたちが見事に円舞し、人体だけで回転木馬の賑やかな様子を生き生きと表現していました。

振り付けはニューヨークシティバレエで主席振付師を務めたこともあるジャスティン・ペックで、ダンサーにもニューヨークシティバレエの方がいらっしゃるようです。

さらに、Nettie役のオリジナルキャストにはメトロポリタンオペラで活躍するRenée Flemmingが配役されていました。

つまり、非常にリンカーンセンター寄りといいますか、ダンスも歌唱も非常に徹底してクラシックな作品に向き合おうというproducerたちの意気込みを感じます。

ハリウッド大作を舞台化したミュージカル作品を上演する劇場が林立するブロードウェイ界隈で、この作品は格調高く、ひときわ際立っていました。

俳優に関してですが、キャロル・キングの自伝的ミュージカル『Beautiful』でも主演したジュリー役のジェシーミュラーはカメレオン女優の異名を持つ名女優さん。

キャリー役のリンゼイ・メンデスはこの役でトニー賞助演女優賞を受賞しており、彼女の歌う「Mr. Snow」はなぜか笑いが起きるほど、ユーモラスに感情を込めて歌うことができるのです。

さて、ビリー役のジョシュア・ヘンリーは、粗野で無骨な男を熱演しており、本作のleading actorとしての役割を全うしていました。

回転木馬の呼び込みの男が、ある女性との出会いから恋をし、父になり、家族を守るため必死になるあまり罪を犯し、死してなお一度も抱くことのなかった娘に愛を伝えるために地上に降り立つという難しい役どころなのですが、彼の素晴らしい名演に心打たれました。

作品全体についてですが、正直、この作品中のジュリーのことが映画版を観た時、あまり好きではなかったのです。

彼女は一目惚れしたビリーにDVまでされて我慢して、何というか、女性的で弱々しい女といいますか、『My Fair Lady』と同じような男性の考えたファンタジーと思ってしまったのです。

ただ、今回の観劇ではむしろ、ネティに「You'll Never Walk Alone」で励まされながらの、二幕以降のジュリーの気丈な立ち振る舞いや娘への諭し方に女性の強さを感じ、感動しました。

10代の頃に感じた印象からの変化に、自分自身驚いてしまいました。


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