ミュージカルは終わらない Musicals won't be over.

舞台ミュージカルを中心とした、ミュージカル映画、演劇、オペラに関するブログ

『トップ・ハット(1935)』Top Hat

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『トップ・ハット』とは

1935年公開のアメリカのミュージカル映画。 

アステア&ロジャースコンビの4作目。

音楽は「ホワイトクリスマス」などを手がけたアーヴィング・バーリン

舞台化され、2012年ウエストエンド で初演し、オリヴィエ賞を作品賞を含む3部門で受賞。

日本では宝塚歌劇団により2015年初演。

あらすじ

公演のためにロンドンを訪れていたブロードウェイダンサーのジェリーは、同じホテルに滞在していたモデルのデールに一目惚れしてしまう。

一時は心を通わせる2人だったが、ジェリーのことを友人の夫だと勘違いしたデールはベニスに逃れ、当てつけにデザイナーのアルベルトと結婚してしまう。

ジェリーは慌てて後を追うが…

キャスト

ジェリー  フレッド・アステア

デール  ジンジャー・ロジャース

ホレース  エドワード・エヴェレット・ホートン

アルベルト  エリック・ローズ

マージ  ヘレン・ブロデリック

ベイツ  エリック・ブロア

感想

ミュージカル映画黄金期の代名詞になるような作品で、アステア&ロジャースコンビの作品で一番評価が高いですが、お話の内容は『コンチネンタル』と瓜二つです。

音楽は、アーヴィング・バーリンによる秀逸な楽曲ばかりですが、なかでも「Cheek to Cheek 」は有名。


Fred Astaire - Cheek to Cheek

「Top Hat, White ties and Tails 」という曲がありますが、この作品でアステアのポートレイトでよく用いられる、シルクハットに黒燕尾のスタイルが定着したと言われています。

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この映画では冒頭からアステアの華麗なタップダンスを楽しめます。

最初は、ホテルで自由気ままに踊ってしまう迷惑な客なのですが。

眠れない階下の彼女を思って、砂を撒いてその上でタップを踊るsand danceはロマンチックだなぁと思ってしまいました。

アステア&ロジャースは前回までの作品の成功で気持ちに余裕が出て、しかしその人気に驕ることなく、さらにダンスや歌、演技に磨きがかかったように思いました。

雨宿りしながらダンスする「Isn’t it a Lovely Day」もとてもチャーミングな一曲。


Top Hat: Isn't This a Lovely Day (To Be Caught in the Rain)

アステア&ロジャースは本当にevergreenですね。

 

『ファン・ホーム ーある家族の悲喜劇ー』2018.2.10.18:00 @シアタークリエ

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『ファン・ホーム ーある家族の悲喜劇ー』とは 

2013年オフブロードウェイ初演、2015年ブロードウェイ初演のミュージカル。

原作はアリソン・ベグダルによる同名漫画。

作品賞を含め、5部門でトニー賞を受賞した。

今回が日本初演

レズビアンを主人公にした、初めてのブロードウェイミュージカルと言われる。

↓Bwayでの公演の様子。現在Bwayはclose、West endでは上演中。


Longer Fun Home Highlights

あらすじ

漫画家として活躍するアリソンは今、43歳。

アメリカの小さな町ペンシルベニアで生まれた彼女の家族は、父ブルース、母ヘレン、弟のクリスチャンとジョン。

ブルースは高校教師をしながら家業の葬儀屋を営んでいたが、彼が最も愛情を注いでいたのは“家”だった。

古い家を改築してアンティークの家具を修理し、完璧に整理整頓された室内。

家はブルースの美意識そのものだった。

文学や芸術を愛するアリソンとブルースには、いろいろな共通点があった。

一番は、アリソンはレズビアンで、ブルースはゲイだったこと。

そしてアリソンはそれを受け入れ、父は隠し通す道を選び、自らの命を絶ったのだ。

ブルースがなくなったのと同じ年齢に差し掛かったアリソンは、迷いの中にいた。

なぜ父は自らの命を絶たなければいけなかったのだろうか。

父との飛行機ごっこ、ベビーシッターのロイ、カウンセリングに向かう父、大学で出会った恋人ジョーン、車のなかでの父との二人きりの会話。

幼少期から大学時代までの記憶を辿りながら、アリソンが迫っていく父の本当の想いとは。

キャスト

アリソン  瀬奈じゅん

ブルース  吉原光夫

大学時代のアリソン  大原櫻子

ヘレン  紺野まひる

ロイ/ピート/マーク/ボビー・ジェレミー  上口耕平

ジョーン/スーザン・デイ  横田美紀

小学生のアリソン  龍杏美

クリスチャン  若林大空

ジョン  大河原爽介

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 感想

去年から首を長くして待っていた、『ファン・ホーム』を観にクリエまで行ってまいりました。

一幕もので上演時間2時間弱、大人のキャスト6名と、こじんまりした作品かなと思っていたら、相当な見応え、さらに深い余韻を残す作品でした。

前述の通り、実在するアリソンさんという漫画家が、ご自身の経験をもとに書いた同名漫画が原作のミュージカル。

漫画がミュージカルになるというのは、日本の2.5次元ものを別にして、海外では珍しいケースなのではないかなと思います。

(たまたまお隣の東京宝塚劇場でまもなく萩尾望都の同名漫画が原作の『ポーの一族』が上演されますが、残念ながらチケット取れませんでした。行きたかった…涙)

『Fun Home』のfunは、家業であるfuneral葬儀屋を表しており、楽しいという意味の形容詞と掛けて、ある意味皮肉っています。

さて、アリソンは父親が自殺した年齢に自身も近づき、過去を振り返りますが、舞台上には、現在、大学時代、幼少期の3人のアリソンが登場します。

瀬名さん演じる現在のアリソンはほとんど舞台上におり、過去の自身の姿を時に恥ずかしげに、時に懐かしみながら見つめています。

時系列はバラバラになっており、最初は少し戸惑いましたが徐々に慣れました。

終演後のトークセッションでみなさん異口同音におっしゃっていましたが、アリソンが初めてレズビアンを見た時に自分と何か似ていると感じる場面、また、アリソンが大学で出会った恋人との初体験の場面は、非常に印象的でした。

前者については、私はLGBTではないのでわからないですが、幼いながらも直感的にセクシャリティを自覚した感動が朗々とした歌声から伝わってきました。

ここは、子役ちゃんの一番美味しいところでしたね。

後者については、性的バックグラウンドは関係なく、ドキドキした気持ちが台詞混じりで昂揚感を伴って大原櫻子さんが歌われている様子に、こちら側もドギマギしてしまいました。

ゲイであることを公にしなかった父、レズビアンであることを両親に伝えるアリソン、男性の恋人がいることを知りながらも「それでもロマンチックな時間はあったわ」と語る母。

過去を振り返りながら、アリソンはもっと違う展開があってもよかったはず、と、父との時間を思い出しますが、このあたり終盤の解釈は少し難しかったですね。

今日は終演後に、瀬奈じゅんさん、LGBTへの理解を呼びかける活動をされている増原裕子さん、原作漫画を日本語に翻訳された椎名ゆかりさんによるトークセッションが行われました。

椎名さんのお話では、実はアリソンさんのご両親は演劇を通して知り合われたそうで、お母様は大の演劇ファンでニューヨークタイムズの演劇評を信頼してよく読んでいたそうです。

お母様は当初この漫画の発売にもミュージカル化にも反対だったそうですが、ブロードウェイ初演の数ヶ月前に亡くなられたそうです。

ブロードウェイ初演翌日のニューヨークタイムズの演劇評での絶賛っぷりを母が読んだらどんなに喜んだだろう…とアリソンさんは思われたそうです。

また、ご両親は亡くなられましたが、演劇の縁で知り合い一緒になった2人が、紆余曲折あった後、再びミュージカル作品として舞台で半永久的に上演され続けることになる、というとても感動的なお話を伺うことができました。


『FUN HOME』稽古場映像